スコットランド独立運動が後退 英総選挙、もう一つの「敗者」

AI要約

スコットランド民族党(SNP)が英国での総選挙で惨敗し、独立運動の後退が指摘されている。

SNPは独立の優先性を有権者に説得できず、現実として独立が後退した状況が明らかになっている。

独立運動は経済や医療など他の問題に取って代わられ、関心が低下している傾向も見られる。

スコットランド独立運動が後退 英総選挙、もう一つの「敗者」

 英国で4日に投開票された下院(定数650)総選挙の結果を受け、英北部スコットランドの独立運動の後退が指摘されている。運動を主導してきたスコットランド民族党(SNP)は惨敗し、独立が「優先事項ではなくなった」(英紙ガーディアン)現実が浮き彫りになっている。

 「独立の緊急性を有権者に納得させることができなかった」。SNPのスウィニー党首は5日、敗北を認めてそう語り、今後の独立運動の進め方について「時間をかけて熟考する」と述べた。2019年の前回総選挙で48議席を獲得したSNPは今回、9議席まで落ち込んだ。英国全体ではスナク前首相率いる保守党が大敗し、労働党のスターマー政権が誕生したが、スコットランドでも労働党が票を伸ばした。

 英国は人口約6700万人のうち8割以上を占めるイングランドに加え、スコットランド、ウェールズ、北アイルランドを合わせた計4地域で連合王国を形成する。スコットランドは現在も一定の自治権が認められているが、SNPはさらに完全な形での「分離・独立」を目指している。14年には独立の是非を問う住民投票も実施され、この時は「独立反対」が多数を占めたが、各種世論調査では「独立賛成」が上回ることもある。

 英中央政府は独立を認めず、英最高裁は22年、住民投票実施には中央政府側の同意が必要で、スコットランド単独で投票に踏み切る権限はないとの判断を示した。さらに近年は、新型コロナウイルスの流行や物価高騰の影響で住民の関心は経済・医療に移り、独立を巡る議論は低調になっている。記者がこれまでにスコットランド住民に話を聞いた時も「誰もが目の前の生活維持で必死」「独立よりも経済が大事」といった反応が多かった。

 SNPは今回の総選挙で議席を増やし、国政への影響力を高める戦略だったが、その狙いは外れた。英エディンバラ大のジェームズ・ミッチェル教授(政治学)は英紙タイムズへの寄稿で、SNPは独立キャンペーンに終始して「年金問題や財政など他の問題を無視した」ことが敗因と指摘し、「独立は当面の課題から外れた」と分析した。

 近年の党の不祥事も有権者離れを招いた。SNP元党首でスコットランド自治政府首相も務めたスタージョン氏の夫のマレル氏は23年以降、党が集めた独立運動のための資金を流用した疑惑で当局の捜査対象となっている。

 SNPが独立を目指す背景には、「競争力」がある。スコットランドは石油などの資源に恵まれ、スコッチウイスキーなどの飲食産業も盛んだ。自治政府は22年にこうしたメリットを強調する文書を発表し、「独立により、経済、社会、環境面で向上する」と独立の利点を訴えた。英国は欧州連合(EU)から離脱したが、SNPは独立後のスコットランドを単独でEUに再加盟させる方針を示している。

 国政とは別に、スコットランド自治議会では現在もSNPが第1党の座を維持し、自治政府首相はスウィニー氏が務めている。【ロンドン篠田航一】