中国・貿易紛争の行方、日系メーカーの活路…EUが中国製EVに追加関税を課す

AI要約

欧州委員会は中国製EVに最大で37.6%の追加関税を課すことを発表した。

EUはEVシフトを推進する一方、中国製EVに対して追加関税を課す理由が複数ある。

対中貿易赤字の抑制や経済安全保障への配慮から、EUが中国製EVに対し追加関税を課した。

中国・貿易紛争の行方、日系メーカーの活路…EUが中国製EVに追加関税を課す

欧州連合(EU)の執行部局である欧州委員会は6月12日、2023年10月に着手した中国製EVに対する反補助金調査の暫定結果を踏まえて、中国製EVに対して課す暫定的な追加関税措置の概要を公表した。その後、EUと中国との間で実務者協議が行われた結果、EUは7月5日より、中国製EVに最高で37.6%の追加関税を課すことになった。今後EUと中国は協議を行い、関税率が正式に決定されるのは11月になる予定。

EUは外国産EVに対して10%の関税を一律に課しているが、この追加関税措置によって、中国製EVには最大47.6%の関税がかかることになる。実際には、多くのメーカーは20.8%の追加関税が適用される。それに吉利汽車(Geely)に適用される追加関税は19.9%に、比亜迪汽車(BYD)は17.4%の追加関税にとどまっている(図表1)。

欧州委員会によると、2023年におけるEU市場でのEV乗用車の平均価格は4万5999ユーロ(約800万円)だった。見たところ、中国製EVはそれよりも概ね30%ほど安い3万ユーロ(約500万円)前後で販売されている。3万ユーロの中国製EVに20%の追加関税を課したところで3万6000ユーロ(約620万円)であるため、中国製EVがEU製EVよりも安いことに変わりはない。

当然、中国はEUの方針に反発しており、対抗措置に打って出る構えをみせている。具体的には、中国が多くを引き受けているスペイン産のブランド豚肉や生ハムなどその加工品、フランス産のブランデー(コニャック/アマルニャック)、ドイツ製の大型ガソリン車に関して、それぞれ輸入を制限する措置を検討しているようだ。

中国の狙いは、中国への輸出依存度が高い産業を狙い撃ちにして特定のEU加盟国の政府に圧力をかけ、EUの足並みを乱すことにある。これはよく練られた戦術といえる。

中国のEVメーカーは中国政府から多額の補助金を不当に受け取っているため、EVを安く生産・販売することができる。それではEUのEVメーカーは不利であるから、EU域内市場での競争条件を平等にするため、中国製EVに対して追加関税を課す──欧州委員会は中国製EVに対して追加関税を課す理由をこのように説明している。

それ以外にも、EUが中国製EVに対して追加関税を課した理由は複数ある。

まず、対中貿易赤字の抑制という点だ。EUはEVシフトを推進し、域内メーカーによるEVの生産を後押ししてきた。その結果、EVの生産に必要なレアメタルなどの原材料や車載用バッテリーなどの半製品の輸入が中国から急増、EUの対中貿易赤字が急拡大したのだ。

具体的にいうと、EUの対中貿易赤字額は2020年時点で1800億ユーロ程度だったが、2021年には2500億ユーロ、さらに2022年には4000億ユーロと、2年間で対中貿易赤字額が2倍に急拡大した。EVシフトを進める以上、原材料や半製品の輸入の増加は回避しがたいが、このまま低価格の完成車の輸入まで容認すれば、EUの対中貿易赤字はさらに拡大するかもしれない。

それに、経済安全保障に配慮するなら、中国への輸入依存度を下げたいところでもある。原材料や半製品の輸入は仕方がないにせよ、完成車の輸入は抑制したい。それに、域内の雇用や産業を守る点に鑑みても、完成車の輸入は抑制したいところだ。このような理由から、EUは中国製EVの輸入抑制のため、追加関税を課すことを決めたわけだ。

要するに、EUは可能な限り、中国への依存度を下げるかたちで、EVシフトを進めたいのである。そのため、EUは中国製EVに対する追加関税措置に踏み切った。