人材流出続く香港で「リクルート制度」が強化。多様化目指し、東南アジアや欧州を視野に

AI要約

香港行政府が人材不足に直面し、東南アジアや欧州からの人材誘致に力を入れている。特に金融、貿易、商業、IT分野に重点を置き、外国人専門家を積極的に募集している。

香港では中国本土との一体化によるチャイナリスクが高まり、外資撤退や人材流出が進んでいる。しかし、人材パス制度を通じて、高所得者や専門家を誘致する取り組みを強化している。

国家安全条例の施行による影響もあり、西側企業の撤退や香港人の海外移住が相次いでいる。香港の人口減少や人手不足の問題が深刻化しており、今後の展望が注目される。

人材流出続く香港で「リクルート制度」が強化。多様化目指し、東南アジアや欧州を視野に

人手不足が深刻な香港の行政府が東南アジアや欧州に目を向け、人材誘致に躍起になっている。

これまで中国本土を中心に人材募集を進めてきたが、ここにきて多様化を目指す方向に舵を切った。香港では今年3月に「国家安全維持法」を補完する「国家安全条例」が新たに施行されるなど、中国本土との一体化によるチャイナリスクが一層高まっており、進行する外資撤退や人材流出が背景にある。

最新の公式統計によると、現在、香港特別行政区政府が海外の人材を対象に進める複数のリクルート制度の適応を受けた人のうち、非中国本土出身者は約25%で約4万人。だが、2022年12月に高収入の人材を招き入れるため導入した「トップ人材パス制度」は本土出身者が90%以上を占めている。

香港特別行政区のクリス・ソン労働福祉長官は先日、地元紙サウスチャイナ・モーニング・ポスト紙とのインタビューで、当局は来年に向け、金融、貿易、商業、およびITに重点を置き、海外の人材を求める取り組みを強化していると述べた。

「中国本土だけでなく、東南アジアや欧州からも人材を集めるため、いくつかの人材育成制度を展開してきた」と同氏は指摘。「例えば、マレーシアの人材は英語と北京語の両方を話せ、多くは広東語も話せるので即戦力となり、東南アジア市場とのつながりを築くためにも有用だ」と付け加えた。

一方、中国本土の結びつきが緊密になるのにつれ、香港は地政学的課題に直面している。アメリカは、マカオと香港を含む中国を、イランやロシア、北朝鮮と同様、敵対国に指定した。だが、ソン氏は、このようなアメリカの動きが人材獲得に及ぼす影響への懸念を否定。

「人びとは機会を求めて香港に来るので、地政学を心配する必要はないと思う」とし、「われわれは本土からの強力な支援を受けながら世界と密接につながっているので、ここにはそのような多くの機会がある」と強調した。

例えば、「トップ人材パス制度」は年収250万香港ドル(約5100万円)以上の高所得者や、世界トップ100大学を卒業後の5年間で3年の職務経験がある専門人材の誘致を目的としている。人材パスが授与されれば2年間のビザが与えられる。現在、パス保有者の業種は30%が金融サービス、約17%がテクノロジー、17%が商業・貿易となっている。

パス保有者の大半は中国本土出身だが、そのうち過去5年以内に大学を卒業した若手の約70%は海外の学位を取得しており、そのほとんどはアメリカの大学だという。彼らの平均月給は5万香港ドル(約100万円)で、4分の1が10万香港ドル(約200万円)、10%が20万香港ドル(約400万円)を稼ぐという。ちなみに香港人の平均月給は2万香港ドル(約40万円)。

そんな香港では特別行政区政府が人材集めに躍起になるなか、西側企業の撤退が相次ぎ、空洞化が進んでいる。

香港で大規模な反政府デモが起きた2020年の「香港国家安全維持法」(国安法)を補完するため、新たに香港では今年3月、スパイ行為など国家の安全を脅かす行為を取り締まる「国家安全条例」が施行された。同法が施行されて以降、世界的な金融センターだった香港から国際企業の撤退が目立ち始めたが、3月の新条例施行により、一層拍車がかかったといえる。

米紙ウォール・ストリート・ジャーナルによると、香港に拠点があるアメリカ企業の数は4年連続で減少し、2022年6月には1258社と2004年以降最少になり、2022年には香港に地域本部を置く中国企業の数が少なくとも30年ぶりにアメリカ企業を上回った。また、日本貿易振興機構(ジェトロ)香港事務所などによると、香港に拠点を置く日系企業対象に実施した2023年の調査では、30%強が「過去半年に人材流出があった」と回答。国安法の影響で移民が相次いだことを色濃く反映した。

さらに、香港擁護派として知られるモルガン・スタンレー・アジアのスティーブン・ローチ元会長をして国家安全条例の施行が決まった今年2月、「香港は終わった」とするオピニオン記事を英紙フィナンシャル・タイムズに寄稿し、大きな衝撃を与えた。

2020年の国安法施行以降、香港の人口は減り始め、海外移住が目立っている。英国政府は昨年、2021年に始めた香港市民向けの移住制度で14万4500人を受け入れたと発表。同じ英語圏のカナダやオーストラリア、シンガポールなども移住先になっている。

香港の人口は2020年の748万人をピークに2年連続で減少し、2022年には733万人となり、2年で15万人減った。労働人口も18万人減少したとされ、人手不足は深刻さを増している。果たして人材誘致により問題は解消されるのか、注目される。