ドイツで多発する激甚水害、気候変動のコストは誰が負うべきか?

AI要約

ドイツで発生した大規模な水害により20億ユーロの損害が予測され、建物所有者の半数未満が水害特約を持っている現状が問題となっている。

保険会社は水害に備えるための追加料金が必要とし、バイエルン州の保険未加入率が高いことが指摘されている。

一方、バーデン・ヴュルテンベルク州では公的強制保険があり、94%の建物所有者が水害保険を持っている状況が示されている。

ドイツで多発する激甚水害、気候変動のコストは誰が負うべきか?

 ドイツでは、地球温暖化が原因となって、洪水による経済損害が増える傾向にある。政府と保険業界の間では、気候変動が引き起こす経済損害を誰が負担するかについて議論が行われている。激甚水害が増える日本にとっても、この議論は他人事ではない。

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 今年もまた、ドイツで集中豪雨による大規模な水害が起きた。ドイツ南部のバーデン・ヴュルテンベルク州とバイエルン州では、5月30日から6月4日まで続いた集中豪雨のために、ドナウ川などで水位が上昇して洪水が発生し、これまでに6人の死亡が確認された。ドイツ気象庁(DWD)によると、アルプス山脈に近いバイエルン州の一部の地域では、12時間に1平方メートルあたり300リットルの降雨量が観測された。DWDによると、一部の地域では6月1日からの4日間に、1カ月の降雨量に相当する量の雨が降った。DWDは、「100年に一度の降雨量だった」と指摘している。

 この洪水は、ドイツ南部で多額の経済損害を引き起こした。保険会社の業界団体・ドイツ保険協会(GDV)は6月7日、「南部で発生した大洪水によって、支払保険金額は少なくとも20億ユーロ(3400億円・1ユーロ=170円換算)に達する」という予測を発表した。GDVは、「まだ市民や企業からの被害の申告が続いているので、今後支払保険金額がさらに増える可能性もある」とも付け加えた。

 ただし20億ユーロというのは、保険がかけられている建物・自動車への損害だけを合計した金額だ。保険がかけられていない建物の損害額は、含まれていない。ドイツでは火災や突風被害、雹[ひょう]による被害などをカバーする建物保険だけに入っていても、水害による損害はカバーされない。水害による損害をカバーするには、建物保険だけではなく、追加保険料を払って、「自然災害填補拡張担保特約(ec)」を買わなくてはならない。水害は多数の市民に被害を与える可能性が高いので、保険会社は追加的な保険料が必要だと考えているのだ。

 問題は、ドイツの建物所有者のうち、ecを持っている人はほぼ半分にすぎないということだ。GDVの5月28日の発表によると、その比率は、54%である。比率が最も低いのは、ブレーメンで、33%にすぎない。 家屋所有者の3分の2は、水害への備えを全く持っていないことになる。今回水害に襲われたバイエルン州でも、建物所有者の53%は、洪水で損害を受けても保険金を受け取ることができない。ec を買わない人が多い最大の理由は、保険料を節約するためだ。

 このためバイエルン州政府のマルクス・ゼーダー首相は6月4日に、「少なくとも1億ユーロ(170億円)の緊急援助金を用意する。企業には20万ユーロ(3400万円)、個人世帯には5000ユーロ(85万円)を直ちに支払う」と発表した。

 一方バーデン・ヴュルテンベルク州では家屋所有者の94%がecを持っている。つまり洪水による被害を保険でカバーしてもらえる家屋所有者の比率が、バイエルン州よりも高い。この理由は、同州では1994年まで全ての家屋所有者が火災と洪水をカバーする公的強制保険に加入していたためだ。当時は州政府が法令によって、保険料を決めていた。