始末が悪い北朝鮮の汚物風船 宣伝ビラから汚物へ 恥も外聞も捨て進む「無敵の人」化

AI要約

北朝鮮がゴミや汚物をぶら下げた大型風船を韓国に送りつける心理戦を展開している

北朝鮮は宣伝ビラの代わりに汚物を送り付け、韓国政府や脱北者団体に抗議している

専門家は北朝鮮の行動を幼稚で下品なものと指摘している

始末が悪い北朝鮮の汚物風船 宣伝ビラから汚物へ 恥も外聞も捨て進む「無敵の人」化

北朝鮮が5月末から6月にかけ、ゴミや汚物をぶら下げた大型風船を韓国に向けて飛ばしている。北朝鮮は数十年前から、風船を使った心理戦を展開してきたが、ゴミを送り付けるほどにまで、身を落とした。逆に言えば、目的のためには手段を選ばず、批判も気にしない「無敵の人」になったと言える。軍事的にも有効な対抗手段はない。(牧野愛博=朝日新聞外交専門記者)

北朝鮮は6月8日から10日にかけても汚物風船を韓国に飛ばした。韓国軍によれば、計640個の風船が確認された。

金正恩総書記の実妹、金与正(キムヨジョン)朝鮮労働党副部長は9日付の談話で、風船1400個に約7.5トンの紙くずをぶら下げて韓国に飛ばしたと明らかにした。

また、北朝鮮国防次官は2日の談話で、5月28日夜から6月2日未明にかけて「紙くず15トンを各種の気球約3500個で韓国の国境付近と首都圏地域に散布した」と明らかにした。国防省が担当しているため、北朝鮮は一連の行動を軍事作戦として位置付けているのだろう。

陸上自衛隊東北方面総監を務めた松村五郎元陸将は「韓国の人々に不安感や嫌悪感を与え、北朝鮮に対して手ぬるい、あるいは逆に北朝鮮を追い詰めていると、左右両方から韓国政府への不満を高めさせ、国内対立をあおる心理戦でしょう」と語る。

北朝鮮は昔から、心理戦に風船を使ってきた。康仁徳・元韓国統一相によれば、朝鮮戦争後から、北朝鮮は「切手ビラ」と呼ばれる、ポケットティッシュ大のビラを風船にぶら下げ、大量に韓国に送りつけてきた。相手を馬鹿にした写真や絵で嫌悪感や怒りを植え付けるのが特徴。過去、朴正煕、金大中、朴槿恵などの大統領経験者が標的になった。2017年から2018年にかけても、当時の文在寅(ムンジェイン)大統領やトランプ米大統領を非難するビラがまかれた。

ところが、北朝鮮は今回、宣伝ビラの代わりに汚物を送り付けてきた。

金与正氏は5月29日付で発表した談話で「韓国の連中はわれわれに対する自分らのビラ散布は『表現の自由』と騒ぎ、全く同じ、我々の行動には『国際法の明白な違反』というずうずうしい主張をしている」と主張。「汚らわしい汚物を拾いながら、それがどれほど不愉快で疲れるのかを体験すれば」とも語り、韓国の脱北者団体が北朝鮮に風船につけて送っている金正恩体制を批判するビラなどが、「汚物並みの衝撃」だったことを図らずも告白した。

北朝鮮も、もはや米韓を揶揄するビラが心理戦で効果を上げない事実は理解している。

一方、米韓連合軍司令部戦略部長を務めたロバート・コリンズ氏は「汚物を風船にぶら下げて送り付ける軍事作戦など、聞いたことがありません」と語る。韓国軍に勤務する知人も、「いくら心理戦とはいえ、汚物を詰め込む仕事を命じられた北朝鮮軍人がかわいそうです。同じ軍人として理解できません」と話す。松村氏も「極めて幼稚で下品な行動です。少しでも効果があるなら、何でもやろうという追い詰められた心境なのでしょう」と指摘する。