リーグ・アンの魅力は「球際の攻防」、スター候補の登竜門

AI要約

リーグ・アンはフランスの1部リーグであり、欧州サッカー5大リーグの一つである。PSGやモナコ、スタッド・ランスなどが所属し、選手育成や競争力向上に取り組んでいる。

リーグ・アンは過去にマルセイユがCLで優勝しているが、フランスはUEFAランキングで5位。そのため、若手選手にとってはステップアップの場として注目を集めている。

モナコの育成組織は世界でも有数であり、選手寮において厳格な選考基準や教育環境が整えられている。将来のプロ選手に必要なスキルや知識を徹底的に指導している。

リーグ・アンの魅力は「球際の攻防」、スター候補の登竜門

 欧州サッカー5大リーグの一つ、フランス1部リーグ(リーグ・アン)がこのほど、日本での認知度の向上やファン拡大を図るために日本メディアを対象にプレスツアーを実施した。時事通信社は、国内の通信社・新聞社では唯一参加。強豪パリ・サンジェルマン(PSG)をはじめ、日本代表の伊東純也と中村敬斗の所属するスタッド・ランス、南野拓実のいるモナコを巡った仏滞在を振り返る。(時事通信運動部 サッカー担当)

 まずはリーグの紹介から。以前のリーグ名称はディヴィジオン・アン(Division1)。1932年に創設され、2002~03年シーズンに現在のリーグ・アンに改称された。今季から競争力の向上や欧州チャンピオンズリーグ(CL)、欧州リーグ(EL)などの各大会による過密日程も考慮し、参加チーム数を20から18に変更。リーグ優勝回数は、今季3連覇を果たしたPSGが12度に伸ばし、サンテティエンヌが10度、マルセイユが9度と続く。モナコは8度、スタッド・ランスは1940年代~60年代にかけてリーグを6度制覇したいわゆる古豪だ。

 リーグ・アン初の日本選手となったのは元日本代表MF広山望さん。現在、U16(16歳以下)日本代表監督を務める広山さんは03~04シーズンにモンペリエでプレー。その後、ル・マン、サンテティエンヌなどで活躍した松井大輔さんや、中田浩二さん(マルセイユ)、大黒将志さん(グルノーブル)らが続いた。2010年代に入ると、酒井宏樹(現浦和)がマルセイユで5シーズンに渡って活躍。GK川島永嗣(磐田)もメスとストラスブールでプレーするなど歴代日本代表選手の名前が並ぶ。

 リーグ・アンから欧州チャンピオンズリーグ(CL)で優勝したのはマルセイユ(1992~93)だけという歴史からも分かるように、CLやELの参加クラブ数を決める際に用いられる欧州連盟(UEFA)の国別ランキングでは、フランスはイングランド、スペイン、ドイツ、イタリアに次ぐ5位。こうした立ち位置から、スター候補や若手の「登竜門」と位置付ける向きもあり、かつてジダンやアンリら自国だけでなく、ドログバ(コートジボワール)やE・アザール(ベルギー)、近年ではベルナルド(マンチェスター・シティー)ら華麗なステップアップを遂げた選手は数知れない。

 リーグ・アンの魅力は、何と言っても球際の攻防にある。「1対1のところで迫力あるプレーがあるリーグ」と伊東が言えば、「他のリーグと比べて、よりダイナミックでタフな1対1の状況が多い。1対1で勝てる選手が重宝される」と南野。中村は「アフリカ系の選手が多いので、身体能力、スピードやフィジカルは、他の4大リーグに引けを取らない」と口にする。日々の練習から体感しているからだろう。リーグの特長を尋ねると、3人からはほぼ同じ答えが返ってきた。中村が指摘したように、長く移民を受け入れてきたフランスでは、アフリカ系の黒人選手が活躍してきた歴史も関係している。

◆世界に誇るモナコの育成組織

 フランスと言えば、育成大国としても知られる。南野が所属するモナコはその象徴。アンリ、トレゼゲ、エムバペといった後のフランス代表を数多く輩出してきた。今回、育成部門の責任者に話を聞くとともに、クラブが世界に誇る育成組織の選手寮「LA DAIAGONAL」を視察。スターを生み出す秘密を探った。

 モナコの育成組織は、フランス国内でも有数の伝統がある。育成部門の責任者を務めるマシャルク氏は「その歴史が、まずは評価につながっている」と胸を張る。30人にも及ぶ専属スカウトが国内に根を張り、原石の発掘に目を光らせている。気になる選手が見つかったとしよう。その際にモナコでは、選考の指針となる「インジケーター」を基に判断を下すのだ。

 「インジケーター」は45ページ以上。主に「遺伝的な可能性」「ピッチでの頭脳」「精神面」「技術面」「社会的環境」の5項目で構成されるという。足が速かったり、よく走れたりする選手であれば、両親、祖父母の運動能力まで探る。試合中に指導者がいない状況で的確な判断ができるのか、技術面では基本的な要素が備わっているのか。

 試合後に負けて泣いている子がいたとすると、それは負けず嫌いであることを意味する。そして、家族や友人との関係、育った環境がどう作用しているのか。対象となる12~14歳の有望株をこうして徹底的に調べる。

 当然、選考は厳しい。各スカウトのリポートを基に合否を判断され、最終的な判断を下す責任者が1人いるという。どんなにいい選手だったとしても、モナコが独自に定める「インジケーター」と照らし合わせて、満たせていない項目があれば、それだけで選考からは外されるのだ。マシャルク氏は「プロになれるかどうか正確に確認しないといけないので、厳格なプロセスに従わないといけない。ギャンブルはできないのです」ときっぱり言った。

 選手寮「LA DAIAGONAL」は、衣食住を共にするだけでなく学校も併設されている。少人数クラスの授業が行われ、一般教養以外にも、サッカー選手として必要な医学系の講義なども充実する。さらに驚いたのは、税金の知識やメディア対応、契約書の読み方など、将来プロ選手として必要なことを全て教えているということだ。日本でここまで徹底して取り組んでいるクラブは聞いたことがない。

 設備は日本のJ1チームのクラブハウスと同等、あるいはそれ以上の環境が整う。浴場にはジェットバスと水風呂が併設され、すぐ横の治療室には常勤のトレーナーがいつでも対応できるように待機。トレーニングルームにも各マシンがそろい、年齢別でトレーニング頻度を分けるなど細かい張り紙があった。広い食堂では3食プラス間食が提供される。新設されたばかりでエムバペが過ごした寮とは違うが、今も1年に1回は寮に顔を見せ現役生を驚かせるという。

 「エムバペは食事を欠かさないことやちゃんとした生活習慣を身につけることが大切だと分かっていた。どうすればいいサッカー選手になれるのかを理解していたよ」。寮長が自慢げ明かしてくれた。