「効率が悪い」川崎フロンターレは理想と現実の間で揺れている。主将・脇坂泰斗が語る「ちょっと危ない」思考とは【コラム】

AI要約

川崎フロンターレは柏レイソルとの試合で1-1の引き分けに終わり、3試合勝ちなしで15位に低迷している。

脇坂泰斗がゴールを決めたが、後半は防戦一方となり、相手に押し込まれる展開になった。

チームはバンディエラの14番を背負う脇坂がキャプテンとしてチームをリードし、ビルドアップの改善に取り組んでいる。

「効率が悪い」川崎フロンターレは理想と現実の間で揺れている。主将・脇坂泰斗が語る「ちょっと危ない」思考とは【コラム】

 明治安田J1リーグ第16節、川崎フロンターレ対柏レイソルが25日に行われ、1-1のドローに終わった。これで川崎Fはリーグ戦3試合勝ちなしとなり、15位に低迷している。チームが抱えている問題とは何なのか。主将・脇坂泰斗が語る「ちょっと危ない思考」とは。(取材・文:藤江直人)

●「自分が絶対にチームを勝たせる」

 ありったけの思いを込めて、川崎フロンターレのキャプテン、MF脇坂泰斗はホームのUvanceとどろきスタジアムに駆けつけたファン・サポーターの前でゴールパフォーマンスを繰り返した。

 もっと歓声を、と言わんばかりに両手を耳にあて、左胸を何度も右拳で叩く。再び両手を耳にあてると、アントニオ猪木さんでお馴染みの「イチ! ニー! サン ダァーッ!」と右手を振りあげた。

 サガン鳥栖に2-5、ガンバ大阪には1-3と、ともに敵地で逆転負けを喫して迎えた25日の柏レイソルとのJ1リーグ第16節。両チームともに無得点が続いた均衡を、自らのゴールで破った30分に繰り出した一連のゴールパフォーマンスの意味を、脇坂は静かな口調で明かした。

「アウェイの2連戦で負けた後も声援をくれて、僕たちを支え続けてくれたファン・サポーターへの感謝もあったし、ホームでは自分が絶対にチームを勝たせる、という思いでピッチに入っていたので」

 胸中に秘めた脇坂の熱い思いは、17分にも具現化されかけていた。FW家長昭博のパスを受けて前を向くと、右サイドから柏ゴール前へ一直線にドリブルを仕掛ける。左サイドバックの三丸拡とセンターバックの古賀太陽の間を強引に破り、ペナルティーエリア内へ侵入した直後に右足を振り抜いた。

 ゴールの右、低い位置を狙った一撃は、前へ出てきた柏のゴールキーパー、松本健太がとっさに伸ばした左足に弾き返された。川崎Fが迎えた最初の決定機を逆手に取ったと脇坂は明かしている。

●「狙い通り」だった華麗な先制ゴール

「その前のシーンで下を狙って松本選手に防がれていたので、それもあって上を狙いました」

 先制点が生み出されるまでの崩しも完璧だった。右サイドでスローインを預けられた家長が、ペナルティーエリア内の中央から右角へ、ゆっくりとポジションを移していったFWバフェティンビ・ゴミスへ縦パスを入れる。その瞬間にゴール前にいた川崎Fの選手たちが同じビジョンを共有した。

「バフェ(ゴミス)に入った後の落としのクオリティーがすごく高いので、そこで多くの選択肢を作る、という点を全員が意識した。そのなかで、僕も前向きでバフェをサポートできた」

 こう振り返った脇坂は家長の縦パスに合わせて、右タッチライン付近からペナルティーエリアの右角あたりへポジションを移していく。次の瞬間、ゴミスが選択したのは脇坂へのワンタッチでのヒールパス。以心伝心でボールを受けると、一気にスピードをあげて柏ゴール前へ迫っていく。脇坂が続ける。

「その後の(遠野)大弥とのワンツーも狙い通りでした」

 パスを預けられたMF遠野大弥は柏ゴールに背を向けた体勢から、右足をボールに軽くヒットさせるワンタッチのリターンを選択する。虚を突かれるプレーの連続に、柏の選手はまったく反応できない。そのままゴール前へ抜け出した脇坂は、松本が反応できないシュートを右足でねじ込んだ。

 5試合ぶりに決めた今シーズン4ゴール目で、FW山田新と並んでチームトップに躍り出た。ここまでリーグ戦で全16試合に出場している6人のうちの1人で、かつチーム最長のプレー時間1327分をマークしている脇坂の言葉は、インサイドハーフからキャプテンのそれへと変化していく。

●後半は防戦一方。何が変わってしまったのか

「これまで個人としてもチームとしても試合を振り返ってきたなかで、自分のプレーの質がもっともっと高ければと何度も思っていた。自分の出来がチームの結果に繋がると思って、自分で自分にプレッシャーをかけて今日はゲームに入りました。それを90分間続けられなかったのがすごく悔しい」

 試合は1-1で引き分けて、3試合ぶりの勝利を逃した。後半のシュート数を比べれば、川崎Fの1本に対して柏は実に10本。防戦一方と化した展開で、59分にセットプレーからMF戸嶋祥郎に強烈なシュートを放たれる。これは脇坂が何とかブロックしたが、こぼれ球をFW木下康介に押し込まれた。

 脇坂自身も後半はシュートを放てないまま、78分にFWエリソンとの交代でベンチへ下がった。アディショナルタイムの91分に決まったかに見えたDFジェジエウの勝ち越しゴールは、VAR(ビデオ・アシスタント・レフェリー)の介入をへてオフサイドで取り消された。

 遠野が56分に放った一撃を最後に、川崎Fはシュートすら打てないまま何とか勝ち点1を手にした。何が試合の流れを変えてしまったのか。思い当たる節があると、脇坂は試合後に明かしている。

「前半の終わりごろから、全体的にちょっとラインが低いなと思っていて…」

 ハーフタイムには全員で話し合った。しかし、問題は解消されなかった。脇坂が続ける。

「ラインが下がっていくと全体が間延びして、たとえば細谷(真大)選手が落としたボールが五分の状態でも、自分たちが戻る距離が長くなってしまい、(マテウス・)サヴィオ選手や右サイドの島村(拓弥)選手が前向きでボールに触れる場面が増えた。修正しようとしたけど、後ろの選手はどうしても背後が怖くて下がってしまう。そうなると前からプレスにいっても、蹴られたボールに対してセカンドボールへの幅がちょっと遠くなるし、必然的に僕たちのファウルが増えて押し込まれる展開が続いてしまった」

 木下の同点ゴールをさかのぼっていくと、遠野がMF白井永地を倒して与えた直接FKに行き着く。この時間帯では遠野だけでなく、島村を倒したDF大南拓磨も直前にイエローカードをもらっている。プレーで後手に回り続け、ファウルでしか止めようがなかった苦境を物語っている。

 後半のピッチで繰り返された悪循環は他にもある。低い位置からのビルドアップを柏のハイプレスに遮断され、そのまま相手の決定機に変わった場面は一度や二度ではなかった。腰痛から7試合ぶりに復帰した守護神チョン・ソンリョンが、ビッグセーブを連発していなければ大敗していた可能性もある。

 開幕からしっくりこないビルドアップを問われた脇坂は、こんな言葉を残している。

●「思考がちょっと危ないと思う」

「ビルドアップがうまくいったからいい、といった思考がちょっと危ないと思う。別に5本や6本、あるいは7本や8本とパスを繋いで前に進むよりも、2、3本のパスで前へ進んだ方がいいわけで、そこの効率というのがちょっと悪いのかな、と。自分たち中盤の選手たちがもっともっと手ほどきする部分でもあるし、練習の段階から最適な立ち位置を取れるようにやっていく必要があると思っている」

 あらためて言うまでもなく、川崎Fが理想として掲げているのは敵陣でのパス回しを多くする試合展開だ。ゴミスと遠野のワンタッチを含めて、家長から4本のパスをテンポよく繋いで奪った脇坂の先制ゴールが物語るように、はまれば相手を翻弄し、脅威を与える攻撃を繰り広げられる。

 頭では理解していても、柏戦の後半のようになかなか実践できない。理想と現実の間で揺れるもどかしさが、折り返しも近づいてきたJ1リーグで川崎Fが15位にあえぐ要因でもある。

「相手に前向きでプレスをさせないためには敵陣でプレーした方がいい。その方が相手も嫌がるし、そのためにどうすればいいのか、というのを考え続けないといけない。僕としては、実行するためには選手を(適切に)配置する準備は絶対に必要だと思っている。アドリブではなかなか厳しいものがあるので」

 チームの現状をこう語った脇坂は、同点とされた直後の61分、そして交代する直前の75分とパスミスを繰り返している。前者ではMF橘田健人へ戻すはずのパスを木下にわたしてしまい、カウンターを発動された。後者では前方にいた家長へのパスが合わず、そのまま右タッチラインを割った。

 前半から飛ばした影響からか。それとも、悪い流れにのみ込まれたからか。脇坂は自らを責めた。

「あれは僕のミスです。完全に技術的なミスです。自分が合わせてかないといけないし、ああいう形でプレーが途切れてしまう、というのは本当によくないと思っている」

 チームに関わる全員で反撃を誓い合った5月を、2勝2分2敗で終えた。5戦未勝利で、そのうち4試合で無得点だった4月に比べれば、6試合すべてで先制点を奪うなど改善されつつある跡もある。

「結果として(5月は)勝ち点を思い通りに積み重ねられなかった。6月は連戦もあるし、来週はまたホームでゲームができるので、そこへ向けていい準備していくことが大事だと思っている」

 川崎Fのバンディエラ、中村憲剛さんの象徴だった「14番」を志願する形で背負って3年目。今シーズンからはキャプテンも拝命した脇坂は、自分自身とチームに重いテーマを課し、司令塔とチームリーダーの狭間でもがき苦しみながら、それでも必死に、少しずつ前へ進もうとしている。

(取材・文:藤江直人)