骨折を巡る種子骨の”特殊事情”【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

AI要約

オールカマー出走のロバートソンキーは約1年半の休養を挟んで復帰。種子骨骨折による特殊な事情と手術について紹介。

種子骨は繫靱帯に張られており、骨折時に整復が難しい。手術で骨片を摘出することで復帰の可能性を高める。

ロバートソンキーは骨折が判明してから約1年の加療期間を経て復帰。攻められる中でも徐々に成績を伸ばしている。

骨折を巡る種子骨の”特殊事情”【獣医師記者コラム・競馬は科学だ】

◇獣医師記者・若原隆宏の「競馬は科学だ」

 オールカマー出走のロバートソンキーは2走前の日経新春杯から前走のジュライCまで約1年半の休養を挟んでいる。理由は右後肢の種子骨骨折だった。

 「種子骨」は、多くのファンが分かったようで分からないままにしている骨の一つではないかと思う。実は、骨折を巡って四肢のほかの骨と比べて特殊な事情を抱えている骨だということは知っておきたい。

 「種子骨」は靱帯(じんたい)や腱に包まれている骨の一般名。馬では前後のアシ(脚・足・肢の意味を複合的に備えるためカタカナ表記した。以下同じ)の末梢(まっしょう)にある。球節の裏側にあるのが近位種子骨、蹄内に遠位種子骨。このほか、定義に照らせば膝蓋(しつがい)骨も種子骨の一種だ。競走馬に関して単に「種子骨」と言う場合、近位種子骨を指すことが多い。

 アシの骨の多くは、上からは体幹部の質量にかかる重力、下からは重力に対する地面からの垂直抗力を受けて上下方向につぶされる力がかかっている。骨にひびが入るなどした骨折の場合、立った状態で静かにしていれば、重力の作用は骨を元の形にくっつける方向に働く。

 ところが、近位種子骨は繫靱帯(けいじんたい)の中に”浮いた”状態にある。繫靱帯にかかるテンションによって、常に両側から引っ張られる状態にある。骨折が生じると、種子骨には骨折面を引きはがす方向の力が働く。種子骨がきれいに2つに割れてしまうなどした骨折の多くはきれいに整復しづらく、競走復帰が難しい。

 復帰できるのは骨片摘出などで対処できた幸運な症例が多い。靱帯組織を無駄に切り取らないための手術手技は熟練の外科の技だが、名医にかかれば、骨折整復の中でも手術時間も短い部類に収められると聞く。

 ロバートソンキーに関しては、具体的にエックス線写真などを見られるわけではないから詳細までは分からない。ただ、復帰してきたからには骨片摘出などで対処しやすい症例だったとの推測が可能だ。加療期間に関しても、骨折判明は昨年の晩夏。日経新春杯から半年ぶりで新潟記念を使おうとしていたタイミングだった。日経新春杯からジュライCまでは1年半だが、骨折にかかる休養期間は約1年だ。

 この中間、ロバートソンキーはかなり攻められている。もう少し上積み余地は残っているようにも映るが、それでも近況の前進幅は大きいように思う。