「井上尚弥に破壊された?」あのフルトンが復帰戦であわやKO負け…フェザー級は魔境なのか「トレーナーに聞く“井上ショック”の後遺症」
スティーブン・フルトンが井上尚弥に敗れてから14カ月ぶりに復帰戦を行い、厳しい戦いを演じた。
フルトンはカルロス・カストロに対し、強打を受ける場面もあったが、最終的には判定勝利を収めた。
一部の関係者は、井上戦で受けたダメージがフルトンのパンチカウンターへの脆さに影響しているのではないかと疑念を持っている。
「井上にKO負けした際のダメージで、フルトンが打たれ脆くなった可能性はあると思いますか?」
スティーブン・フルトンの前チーフトレーナーであるワヒード・ラヒームにそんな質問を投げかけた瞬間、顔色が少し変わったように感じられたのはおそらく気のせいではなかったのだろう。
元WBC、WBO世界Sバンタム級王者スティーブン・フルトン(アメリカ)は9月14日、ラスベガスのT-モバイルアリーナで行われたフェザー級10回戦でカルロス・カストロ(アメリカ)に判定勝ち。昨年7月、井上尚弥(大橋)に8回TKOで敗れて以来、約14カ月ぶりの復帰戦を飾った。ただ、その内容自体は必ずしも優れたものに見えなかった。フェザー級への昇級初戦となった一戦でカストロのサイズとリーチに苦しみ、5回に右ストレートでガードを突き破られてのダウン。8回にまたショートの右をカウンターで受け、ダウン寸前に陥るシーンもあった。
「接戦だったから、8ラウンドを終えたインターバルで残りのラウンドを奪わないと勝てないぞとセコンドから声をかけた。ダウンから立ち直り、実際に終盤を制したことはスティーブンの気質を示している。厳しい試合だったが、素晴らしい勝利だ」
ラヒームのそんな言葉通り、9、10回に強打を決めてポイントを手繰り寄せたのは、長距離走も得意でスタミナに自信のあるフルトンならでは。ピンチを迎えたラウンド以外はより的確にパンチを当てており、判定勝利は異論のないものだった。
それでもこの試合を見て、今後のフルトンのキャリアに不安を抱いたファンは少なくなかっただろう。この日まで30勝14KOと必ずしもハードパンチャーとはいえないカストロのパンチを浴びて、2度も明白なダメージを受けたのはやはり気に掛かった。
以前より脆くなったのではないか……? 案の定、あるボクシング関係者からはこんな不躾なメッセージも届いた。
「フルトンは昨夏、井上に破壊されたのではないかと思う」
生身の人間を語るのに“壊された”、“壊れた”といった表現を使うことを個人的に好まないが、その意図自体は理解できる。一定の耐久力を示していたボクサーが、KO負けを境に脆さを感じさせるようになるのはボクシングではあること。しかも相手は“モンスター”である。昨夏、井上戦で強烈な2度のダウンを奪われ、完敗を喫したダメージをフルトンが引きずっていたとしても驚くべきではないのかもしれない。
もちろんその疑問の答えがクリアなわけではない。冒頭で記した質問をぶつけた際、一瞬のためらいの後、ラヒームは“井上ショック”の影響をはっきりと否定した。
「そうは思わない。彼がダメージを受けたのはあれが初めてじゃない。もともとスティーブンは強靭なアゴを持っている選手ではないんだ。だからこそ、私は危機を回避できるスタイルを教え込んだ。今回の試合では新しいスタイルを試していて、そこにカストロという好選手のパンチを浴びたということだ」