「やばい極狭」グラウンドで京都国際が勝てる訳 2度目の甲子園4強

AI要約

京都国際の狭いグラウンドで練習をすることの利点について述べられている。練習試合やフリー打撃ができない狭い環境でも、守備練習や打撃に集中することで強豪チームと互角以上に渡り合えるようになった。

選手たちは実戦形式のシート打撃で低くて速い打球を意識し、狭いグラウンドでの練習から得られるメリットを実感している。すべての練習が試合勘を磨くことにつながっている。

監督も狭いグラウンドの利点を認識し、逆境を克服して強豪校と渡り合う姿勢を持っている。

「やばい極狭」グラウンドで京都国際が勝てる訳 2度目の甲子園4強

 とにかく狭い。少しいびつでもある。強豪野球部の練習場には、まるで見えない。

 夏の甲子園で準決勝に進出した京都国際のグラウンドは、練習試合はおろか、フリー打撃も、内外野連係のノックもできない。それでも、2021年夏に続く2回目の4強。躍進の理由を探ると、この「不遇な環境」にこそ、秘密が隠されていた。

 ◇グラウンドはいびつな台形

 京都市東山区の東福寺から坂道を上って約20分。小高い丘の上に校舎が建ち、駐車場を挟んでグラウンドがある。とはいえ「校庭」のようなもので、大きさは左翼方向70メートル、右翼方向60メートルほどしかなく、形もいびつな台形のようだ。高さ20メートルほどのネットが張られているが、打球が越えることもしばしばある。実戦形式のシート打撃の際は、グラブを持った選手たちが車に打球が当たらないように駐車場に待機している。

 清水詩太選手(2年)は中学時代、初めて京都国際の練習を見学した時「狭いとは聞いていたが……。ライトフライはすぐにネットを越えそうだし、外野の守備練習もできないのでは」と不安感を抱いた。同時に「このグラウンドで先輩たちは甲子園でベスト4に進んだのか」と驚きを隠せなかった。捕手の奥井颯大選手(3年)も中学3年の春、ほぼ同じ感想を持った。

 21年夏の甲子園に初出場し、準決勝進出を果たした先輩たちに憧れていた2人だったが、狭いグラウンドを見て、さらに興味がわいたという。奥井選手は「ここでどんな練習をしたらあそこまで強くなれるのだろうかと思って、その理由を知りたくなった」。2人とも入学後すぐにその訳を理解することになる。

 ◇「選択と集中」

 理由の一つは「選択と集中」。狭くてフリー打撃ができない分、守備練習を徹底する。塁間で行う「ボール回し」では、多様な場面を想定。わざとボールを落としてから捕球したり、挟殺プレーをイメージして塁間をダッシュしながら捕球したり、ワンバウンドで投げたり。実戦で起こりうる場面を可能な限り想定し、繰り返し練習する。30分ほどで終わるメニューだが、一人でもミスをすると場面ごとにやり直し。紅白戦など実戦練習はできなくとも、高い緊張感のもとで「試合勘」を磨いていく。

 ◇低くて速い打球を意識

 「狭さ」は打撃にもいきている。数少ない実戦形式のシート打撃。ライト方向に大きなフライを打てば、車や校舎に当たるかもしれない。だから選手たちは日ごろからネットに当たるよう、ライナー性の低くて速い打球を意識しているという。昨秋の新チーム発足以降、公式戦の本塁打はゼロ。だが、今大会は準決勝の前まで4試合連続2桁安打。外野の頭を越える長打は少なくても打線好調で、飛びにくい「低反発バット」の影響を全く感じさせないでいる。

 試合前ノッカーを務める岩淵雄太副部長(33)は「ものは考えよう。グラウンドが狭くても実際の試合と距離感が違うだけで、実戦に即した練習はできる。広いグラウンドがあっても、本番を想定していなければ『宝の持ち腐れ』になってしまう」と強調する。

 ◇国際ボールパーク

 入学式や卒業式の時は、グラウンドは来場者のための駐車場に様変わりする。地面はぼこぼこになり、部員全員で整備をしてからでないと練習は始められない。レフト方向は木々が生い茂っているため、シート打撃では毎回何個もボールがなくなってしまう。

 08年に就任した小牧憲継監督(41)は当初「大きなグラウンドがあれば」と思っていたが、今はもう特に望んでいない。創意工夫の練習で全国の強豪と互角以上に渡り合えることを証明してきたからだ。小牧監督は笑いながら言う。「『国際ボールパーク』と呼んでます。こんなにも『やばい』環境で、恵まれた強い高校を倒すのもいいかなって。『下克上』ですよね」【大東祐紀】