アスリートに「ゴミ」「消えろ」…誹謗中傷の連鎖でスポーツ界が乗り出した“スゴイ対策”の中身

AI要約

パリ五輪では、選手や審判への誹謗中傷に対する危機感が高まり、AIを用いた対策が始まった。

IOCやFIFAなどスポーツ界での取り組みが紹介され、誹謗中傷に対する意識が高まっている。

ネット上のリテラシー向上と誹謗中傷対策の重要性が強調される中、今後の展望に期待がかかる。

アスリートに「ゴミ」「消えろ」…誹謗中傷の連鎖でスポーツ界が乗り出した“スゴイ対策”の中身

 インターネット上の誹謗中傷はもはや誰にとっても他人事ではなく、誰もが被害者にも加害者にもなり得る時代だ。パリ五輪は、アスリートへの誹謗中傷に対する問題意識がかつてなく高まった大会でもあった。実は今、スポーツ界では、意外かつ画期的な対策が始まっている。今後、ネット上のリテラシー向上はどのように進むのだろうか。(フリーライター 武藤弘樹)

● 選手や審判への誹謗中傷が続々 パリ五輪で一層強まった危機感

 賛否を呼ぶ開会式で幕を開けたパリ五輪は、8月12日(日本時間)に閉会した。開催期間中なんやかんやありながら、やはりスポーツは見ていて楽しく、自国の出場選手の応援となればものすごく力が入る。今大会も例年通りの感動と興奮を摂取させてもらい、「選手と運営の皆さまお疲れさまでした……」という気持ちだが、今大会は選手や審判への誹謗中傷があったというニュースを耳にする機会が特に多く、またそれを問題視する気運が東京五輪時から一層強まっている印象を受けた。

 日本国内における選手への誹謗中傷が多くあったことは、ニュースなどで見聞きしているかもしれないが、諸外国も事情は変わらない。たとえば女子ブレイキンのオーストラリア代表選手などは、その独創的なパフォーマンスが批判の的となり、選手団団長に留まらずオーストラリア首相までもが彼女を擁護する発言をする事態に至っている。言うまでもなく、これは横行している誹謗中傷のごくごく一例で、氷山の一角に過ぎない。

 こうした事態を受けてIOC(国際オリンピック委員会)は8月1日に会見を行い、AIを活用したリアルタイムの「オンライン暴力の検出(any online violence targeted towards athletes)」「サイバー虐待防止サービス(the cyber abuse prevention service)」などの初の試みについて説明した。AIでオンラインを監視し、誹謗中傷などから選手を保護する試みがパリ五輪で行われていたわけである。実は今年6月、IOCのバッハ会長がすでにこのAIの導入に言及していて、大会期間中はAIが悪質な投稿を自動的に削除するとのことであった。

 だが、それが完全な防護壁となるには至らず、多くの誹謗中傷が選手に届いてしまったのが現実だ。ネットコミュニケーション全盛のこの時代において、誹謗中傷の悪意から個人を守ることがいかに難しいかが、改めて痛感させられたのであった。

● 実は行われていたAIによる誹謗中傷対策 悪質投稿の非表示や投稿者の逮捕まで

 IOCのAIを用いた試みでは、誹謗中傷となる言葉の検知と削除、および投稿者(発言者)への警戒、被害者へのケアの準備などが可能になると説明されていた。同種の試みは特にスポーツの分野で近年注力されてきている。FIFA(国際サッカー連盟)の事例を見てみよう。

 FIFAとFIFPro(国際プロサッカー選手会)は、2022年ワールドカップ時に「ソーシャルメディア保護サービス(SMPS)」というサービスを導入した。不適切なメッセージが確認されるとそれが選手個人に届かないようにする措置(投稿の非表示、および削除)と共に、SNS運営企業と警察に連絡が行き、その後不適切投稿を行った者に対して現実的な対応が可能となる……というものである。これによって約2万件が誹謗中傷と判断され、28万件以上の投稿が「誹謗中傷の疑い」として非表示になったとされている。

 SMPSが検出した「悪質な投稿」の中にはSNS運営団体が放置したものがあったこと、英語以外の言語による誹謗中傷への対応に時間を要することなど、課題も散見されるが、こうした取り組みは有意義である。

 【参考】

カタールW杯のSNS誹謗中傷データが判明…GLはドイツvs日本が最多検出、大会期間中28万件超の投稿が非表示に

https://web.gekisaka.jp/news/worldcup/detail/?387267-387267-fl