【レスリング】鏡優翔「カワイイ」信条に女子最重量級で日本初の金 遊びの誘い断りつかんだ歓喜

AI要約

初出場の鏡優翔が女子76キロ級で金メダルを獲得し、日本選手初の女王となる

鏡優翔の個性的な姿と行動、そして過去最多となる日本選手団の金メダル獲得数について

鏡優翔の栃木県出身からパリ五輪での軌跡、明るい性格と熱い想いを反映する試合姿勢

【レスリング】鏡優翔「カワイイ」信条に女子最重量級で日本初の金 遊びの誘い断りつかんだ歓喜

<パリオリンピック(五輪):レスリング>◇11日◇女子76キロ級決勝◇シャンドマルス・アリーナ

 【パリ11日=阿部健吾】女子76キロ級決勝で初出場の鏡優翔(22=サントリー)がケネディアレクシス・ブレーズ(米国)を下し、金メダルを獲得した。「カワイイ」を信条にする新鋭が、女子最重量級で日本選手初の女王となった。男子フリースタイル65キロ級の清岡幸大郎(23=三恵海運)、10日の女子57キロ級の元木咲良(22=育英大助手)と合わせて金は今大会8個目となり、64年、21年東京大会の5個を上回る過去最多となった。日本男子の金4個は68年メキシコ大会以来、56年ぶり。男子フリースタイル74キロ級の高谷大地(29=自衛隊)は銀メダル。

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 口元を覆った。目に映る光景を焼き付けた。笑顔が広がった。3-1で20歳の米国の新鋭を退けて、金メダルをつかんだ。「ここに立つことをずっと目指してきた。全試合、1試合1試合、1秒1秒楽しんでいこうと思っていた。緊張すらも全部楽しんで、オリンピックを過ごしました!」。力強く前田コーチを担ぎ上げて、歓喜に浸った。

 5月末に都内で開かれた全日本選抜選手権。5月13日の練習で右膝内側側副を損傷し、全治2カ月弱の診断を受けた。試合は欠場したが、壮行会があり来場した。「重量級でも腹筋割れてるって見てほしい」と着こなしたのは丈が短いTシャツ。髪もゴールドに染め、異彩を放っていた。既成概念を変えたい。そう願ってマットの上に立つ。

 「カワイイ」と書かれたマウスピースを着用し、今大会の試合でも「カワイイ」という応援をもらい「緊張もちょっと緩む」。フランス国旗の3色をあしらった髪は「4時間かかったのにシャンプーする度に色が抜ける」とピンチだが、ネイルも施して“鏡ワールド”をつくり上げた。「大きくて、強くて、かわいい。そんな自分を見てほしい。それで、少しでも競技に興味を持ってくれたら」と行動に移してきた。

 山形県で生まれ、小1で栃木県に引っ越し、先に競技を始めていた兄とクラブの友達の家にいった。ずらっと並ぶトロフィーに「これ、ほしい!」。そこからマット人生が始まった。父師博さんが自宅でも強化メニューを組んだが、兄弟はきつさにサボることばかり考えた。汗の代わりに床を水で濡らすなど小細工も。ただ、兄隼翔さんは「抜くとこは抜いて楽しく。ただ、クラブの練習は真剣にやっていた」と懐かしむ。

 明るさの影で悩みは家族に打ち明けた。大学生。遊びの誘いもあるが、パリのために全て断ってきた。「孤立してる。しんどいわ」と吐露した事もある。それでも、競技のイメージを変えたい。そのために勝ちたい。それが生き様だった。

 04年アテネ五輪から女子が採用され、6大会目で日本勢初の最重量女王となった。「誰も成し遂げたことがない事を私がこの手でつかんだのは本当にうれしい。今までやってきたこと、今までやってきた選択の答え合わせが今ここでできたかな」。底抜けに明るい声を響かせた。

 ◆鏡優翔(かがみ・ゆうか)2001年9月14日、山形県山形市生まれ。小学生時代はレスリングとラグビーに取り組む。中1で全国中学生選手権2位。中3で日本オリンピック委員会(JOC)が有望選手を選抜するエリートアカデミーへ入校して上京。帝京高で17、18年世界カデット2連覇。20年に東洋大に進学し、世界選手権は22年銅に続き、23年は03年の浜口京子以来20年ぶりの優勝を飾った。パリ前には「このまま突き進んでいけば絶対金メダルとれる」と気合を注入された。167センチ。