暑熱対策が人馬にもたらした「意外な効果」と「残された課題」 新潟→札幌移動のルメールは〝途中離脱〟

AI要約

先週の中央競馬の競走時間拡大による売り上げ増を分析し、新潟競馬は前年比116.56%の伸びを記録したが、一部課題も露呈。

売り上げだけでなく、交通網や騎手の課題も明らかになった中央競馬のテストケースを検証。

競走時間拡大策は動物愛護の観点からも重要で、今後の改善を期待。

暑熱対策が人馬にもたらした「意外な効果」と「残された課題」 新潟→札幌移動のルメールは〝途中離脱〟

 暑熱対策の一環として、競走時間を拡大して実施された先週の中央競馬。札幌と新潟の2場開催で、土曜に新潟ジャンプS、日曜にアイビスSDとクイーンSが据えられた番組構成は昨年と全く変わらない。昨年は7月29、30日で今年が7月27、28日なので、一般的な企業における給料日の影響を大きく受けることもなく、新機軸の効果を図る比較対象としてはフラットなものがそろった。

 まずはここ2年における土日それぞれの売り上げを記してみたい。

【2023・2回新潟初日】

98億2902万6900円

2024・同

119億561万9500円

【2023・2回新潟2日目】

159億6188万1900円

2024・同

181億5880万1600円

【2023・1回札幌3日目】

87億6982万2000円

2024・同

96億5222万6300円

【2023・1回札幌4日目】

139億7696万7200円

2024・同

147億2871万5900円

 非常に分かりやすく、4日間全てで前年比プラスの売り上げを記録した。土日2場のトータルでは前年比112・17%という数字をマークしている。

 土日で前年比116・56%と顕著な伸びを記録したのは新潟競馬。暑さのピークを迎える昼過ぎに3時間あまりの〝中休み〟を取り入れるスケジュールを組み、第1レースの発走時刻は9時35分へと前倒しした。最終レースは18時25分というJRAでは初めての遅い時間に設定。「ファンが長く競馬を楽しめる」というコンセプトが、売り上げ増に結びついたのは間違いないだろう。

 札幌競馬は前年と変わらない番組構成で実施されたわけだが、こちらも土日合わせて前年比107・18%を記録。新潟競馬のレースがない時間帯にじっくりと検討したファンが、積極的に参加したものとみられる。例えば、日曜札幌6Rは昨年も今年も3歳上1勝クラスのダート1700メートル戦で、同じ12時40分の発走。昨年は新潟5Rと同6Rの間に施行されて5億9865万8500円の売り上げだったが、今年は札幌5R後に30分の間隔があって7億3667万2600円となり、前年比123・05%と大きな伸びを記録した。頭数は今年のほうが1頭多かったにしても、新潟の中休み効果は明白といえよう。

 こと売り上げ面だけを見れば、大きなプラスが生まれたわけだが、課題も改めて浮き彫りになった。〝人馬に優しい〟という触れ込みの暑熱対策ながら、最終レースを終えた新潟から人馬を乗せた馬運車が東西トレセンに帰るのは、当然、従来より遅くなる。日付をまたぐというレベルではない。通常の東西間輸送に近いとはいえ、関係者への負担は増えているのが実情だ。地方競馬のように競馬場内または近場の輸送で終わるケースと違い、長距離輸送の問題は避けて通れない。

 また、遠方から観戦に行くファンの交通網確保も不可欠だ。最終レースの発走時刻が18時25分であるにもかかわらず、新潟駅への直行バスは最終が18時40分発。もし12Rの馬券が的中して、確定を待って払い戻しを受けた場合、広い敷地ゆえバス乗り場に間に合わないケースがある。ウイナーズサークルで写真を撮るのも難しいだろう。現に、バスに乗れなかったと嘆くファンの声はSNSに多数上がっていた。東京駅まで行く新幹線「とき」は19時台、20時台、21時台に各1本しかなく、最終レースでもし発走の遅延につながるアクシデントでもあろうものなら、指定席を予約したファンは気が気ではないはずだ。このあたりはホームページや当日の競馬場で念入りな告知をすることが欠かせない。

 また、土曜に新潟、日曜に札幌で騎乗する騎手にも厳しい現実が待ち構える。先週、このパターンだったルメールと西村淳はともに、土曜新潟の騎乗が8Rまでだった。8Rは通常の最終レースとほぼ同じ16時20分の発走。このあたりまでがリミットとみていいだろう。2週間のみのやむを得ない状況ながら、トップジョッキーにとっては悩ましい選択を迫られる。

 とはいえ、今年の開催はひとつのテストケースと位置付けられたもの。さまざまな成果を踏まえて、来年度以降の継続を模索しているという。2004~10年に実施された「はくぼ競馬」はなくなったが、今回の競走時間拡大策は動物愛護の観点からも継続が望ましい。馬にも人にも優しく、ファンから支持されるものとしてブラッシュアップされていくことを願うばかりだ。