“史上最弱”のイタリア代表に未来はあるのか。セリエAで選手が育たない問題、かつての名将が提言する再生計画とは【コラム】

AI要約

イタリア代表がUEFAユーロ2024(EURO2024)でスイスに完敗し、前回王者としての期待を裏切る結果に終わった。メディアからは厳しい批判が集まり、監督や選手に対する不満が噴出している。

イタリア代表の低迷の背景には、セリエAにおけるイタリア人選手の不足が指摘されており、育成リーグでも多くの外国人選手が目立つ状況が続いている。プランデッリ氏は再生計画の必要性を訴えている。

スパレッティ監督は若手選手にチャンスを与える姿勢を見せる一方、ファンや専門家からの批判が高まっている。次期監督には誰が就くべきか、そして2026年W杯へ向けての再建が急務となっている。

“史上最弱”のイタリア代表に未来はあるのか。セリエAで選手が育たない問題、かつての名将が提言する再生計画とは【コラム】

 前回王者としてUEFAユーロ2024(EURO2024)に臨んだイタリア代表は、ラウンド16でスイスに完敗を喫し、早々に大会から姿を消した。「恥」「どん底」…。イタリアメディアは当然ながら自国チームを猛批判した。ワールドカップ出場を2大会連続で逃し、今回のユーロも散々な出来と不安が募るが、アッズーリは再生できるのか。(文:佐藤徳和)

●「恥」「どん底」イタリア代表に批判の声が殺到

 失望落胆。イタリア代表のUEFAユーロ2024(EURO2024)の戦いは、スイス代表とのラウンド16で、惨敗を喫し、開催国ドイツに別れを告げた。前回王者として挑んだ今大会は、“アッズーリ史上最弱”と言われるほど、見る影は全くなかった。

 イタリアで最も購買数の多いスポーツ紙、『ガッゼッタ・デッロ・スポルト(以下、ガッゼッタ)』は翌日の一面に「全てやり直し」との見出しを打った。さらに「スイスによって屈辱を受けた。2006年のベルリンの記録への恥辱」と続けた。決勝トーナメント1回戦が行われたのは、アッズーリが2006年FIFAワールドカップで世界一となった舞台、ベルリンのオリンピアシュタディオンだった。その栄光に泥を塗った惨敗だと叱りつけた。

 一方、ローマを拠点とする『コッリエーレ・デッロ・スポルト』は、「恥」とのタイトルをつけ、「アッズーリは、どん底に沈んだ」と断罪。そして、トリノに本拠を置く『トゥットスポルト』は、「国家的失敗」と、こちらも強いトーンで批判。多くの、識者が、「これほど酷いイタリア代表を過去、見たことはなかった。史上最悪のチームだ」と糾弾した。幾度となくスーパーセーブで、失点を防いだ守護神のジャンルイジ・ドンナルンマ、安定したプレーを見せたアレッサンドロ・バストーニ、クロアチア戦で起死回生の同点弾を突き刺したマッティア・ザッカーニ、そして、スペイン戦でオウンゴールを献上したものの、守備だけでなく攻撃でも注目を集めたリッカルド・カラフィオーリの4人を除き、苦言が呈された。

 アッズーリを指揮したルチアーノ・スパレッティは、ローマ時代に、一躍ブームとなったゼロトップを編み出した人物で、22/23シーズンにはナポリを33年ぶりの優勝に導いた、イタリアきっての智将だ。昨年8月4日、前回大会でイタリアに優勝をもたらしたロベルト・マンチーニ前監督が、電撃辞任。その後任として、スパレッティが任命されたときには、「これ以上ない後任」と誰もが安堵の声をあげた。しかし、今大会では、"奇策"が出るのではないかとの、期待もあったが、彼がクラブチームで見せてきたスタイルや戦術を代表で見ることは皆無だった。

 ミランの黄金時代を築き、イングランドやロシア代表を指揮した経験も持つ、ファビオ・カペッロは、『ガッゼッタ』のインタビューに答え、スパレッティについて強い憤りを示した。

●スパレッティは「選手に混乱をもたらした」

「自信過剰だった。スペインとの対戦では、彼は、代表の監督ではなく、クラブの監督としてチームを指揮しているように感じた。つまり、彼は『我々は自分たちのサッカーをやる。どちらが優れているか見てみようじゃないか』と言って、相手の存在を考えずに、ピッチに選手を送り出したように感じた。この大会で最も強力な両ウィングを擁す相手に対し、4バックを採用した。そして、我々はどちらが優れているチームかを目の当たりにしたのだ」。

 さらに、「スパレッティは、選手に混乱をもたらした。プレーメーカーは、ジョルジーニョとニコロ・ファジョーリが務めたが、どちらも、スパレッティが指揮したナポリのスタニスラフ・ロボツカではなかった。スイスのグラニト・ジャカと対峙したとき、ファジョーリはいいようにやられ、マークしに行くこともなかった」と、優勝候補の一角であるスペイン代表に対して真っ向勝負を挑もうとしたスタイルが誤りだったと指摘し、格上の相手に対し戦略がなかったと厳しく追求した。

 スパッレッティは、敗退後、「選手たちは疲れ、コンディションも良くなかった」と嘆いていた。「それは受け入れられない話だ。イタリア代表に、チームとしての戦いは見られなかった。代表監督の最初の仕事は、チームに戦う精神を植え付けることだ。チームメートを助けるために、短い距離を走ることは、必要不可欠なこと。そういう気持ちのこもったダッシュをしているイタリア代表の選手は極めて少なかった」と無気力で走り負けていたチームの戦いぶりにも、辛辣な意見を述べた。

 前回大会のユーロ2020で53年ぶり2度目の欧州の頂点に返り咲いたイタリアだが、4度目の世界一に輝いた2006年のW杯以降、同舞台では、低迷が続く。2010、2014大会は、いずれもグループステージ敗退。2018、2022大会は、本大会に進むことすらできなかった。恒常的な問題を抱え、抜本的な解決には至っていない。問題は、セリエAにおけるイタリア人プレーヤーの数だ。

●自国リーグで目立つのは外国人選手ばかり

 CIES(欧州サッカーの研究機関)の最新のレポートによると、イタリアは、欧州5大リーグの中で、最も自国の選手が少ない。イタリア国内で育った選手がセリエAでプレーした数は、38.7%に過ぎないのだ。今大会、ミランからイタリア代表に選ばれた選手は、一人もいない。グループ最終節のクロアチア戦では、ユベントスの選手の名前が先発メンバーに連ねることもなかった。

 前者は、欧州でレアル・マドリードに次ぐタイトル数を誇るクラブだ。後者は、最もスクデットを獲得したクラブである。イタリアの看板でもある2つのクラブに所属する選手が、イタリア代表が戦うピッチにいないのは異常なことである。育成リーグのプリマベーラのカテゴリーを見ても、外国人選手の存在が目を引く。22/23シーズン、レギュラーシーズンとファイナルステージを制し、完全優勝を果たしたのが、レッチェだった。プロビンチャ・クラブの下部組織の偉業は、美談となるべき話だが、実はフィオレンティーナとの決勝で、先発出場した11人も、途中出場した4人も全員が外国人選手だった。育成リーグでさえも、もはやどこの国のリーグかわからなくなってしまっている。

 ユーロ2012で準優勝の指揮官、チェーザレ・プランデッリは、監督として、イタリアを最後にワールドカップ(2014)に導いた監督だ。そのプランデッリは、『ガッゼッタ』のインタビューで、"再生計画"を口にした。

「スパレッティが語ったように、若返りを図ることだ。イタリア代表はすでに若い選手が多いから、年齢という意味だけではない。チームのスピリット、頭の中も若返らせなければならないということだ」。

 イタリアは、しばしば、若年層から、戦術に縛り付ける傾向にある。プランデッリは、「優れた選手はいるのだから、悲観的になることはないんだ。ただ、若い頃から、ボゼッションや戦術についてばかり考えてはならない。その選手が持つ特徴を伸ばし、闘争心を強くさせていくことが必要だ。若い選手にはもっと自由にプレーさせなければならないんだ」と主張。もっと技術に磨きをかけなければいけないと意見した。

 そして、「出場機会に恵まれない若いイタリア人をプレーさせるために、FIGC(イタリア・サッカー連盟)はイタリア代表選抜チームを作り、セリエB、あるいは、セリエCに登録すべきだ。そうすれば、クラブの財産である選手たちの能力を発揮させることができるだろう」と提言している。イタリアでは、実際に、FIPAV(イタリア・バレーボール連盟)によって、若手のイタリア代表選抜チームが作られ、『クラブ・イタリア』の名で活動している。イタリアのバレーは、男子は世界3位、女子は堂々の1位と男女共に世界最高峰の強さを誇る。彼らから学ばない手はないだろう。

●スパレッティに賭けるしかない?

 イタリアは若手に優秀な人材が不足しているわけではない。2023 FIFA U20ワールドカップでは準優勝、UEFA U19欧州選手権2023とUEFA U17欧州選手権2024では、優勝している。A代表の不振を受けてFIGCが育成世代の強化を促進した成果だ。

 しかし、優秀な若手が育っても、トップチームで起用されなければ意味がない。2023 U-20W杯で得点王に輝いたチェーザレ・カサデイは、トップチームで出番がないままインテルから2022年8月にチェルシーに売り出されてしまっていた。イタリアには、15歳でミランのトップチームでデビューを飾った現在16歳のFWフランチェスコ・カマルダが所属するが、放出されることなく、手塩にかけて育てられなければならない。

 スパレッティは敗退が決まった翌日、続投を明言した。FIGCのガブリエーレ・グラビーナ会長も、11月4日に会長選を控えるが、職に留まることを明言した。『ガッゼッタ』は、監督問題について、アンケートを実施している。8135件の回答で、退任を望む声は78.2%、続投は21.8%と、多くのサポーターが、スパレッティの退任を願っていることがわかった。

 後任には、マッシミリアーノ・アッレグリやクラウディオ・ラニエリを推す声が挙がっている。双方は、経験の面では申し分ない。しかし、アッレグリは、守備の構築には定評があるが、攻撃に関しては、形を作ることができず、ユベントスでは、サポーターから支持を受けることができなかった。アッレグリでは、世界的な流れから遅れる守備的なサッカーに終始することだろう。

 レスター・シティを指揮して奇跡のプレミアリーグ制覇を成し遂げたラニエリは、72歳と高齢な上、すでにサッカー界から身を引いている。それに、2014年にギリシャ代表を指揮して、1分3敗と成績不振により解任されていたことは無視できない事実だ。

 今のこところ、スパレッティの後継となる目ぼしい人材はいないが、何よりも、次の公式戦が、2ヶ月後に迫っていることをまず第一に考えなければならない。9月6日に敵地のパルク・デ・プランスで、強敵フランスとのUEFAネーションズリーグ初戦が控えている。また、1からチームを再築し、ゼロから出発する時間はない。ここは、スパレッティに賭けるしかないというのが、現実的な見方だろう。2026年W杯の出場権獲得を逃すようなことになれば、それはイタリアのサッカーの終わりを意味する。3度目の失敗は許されない。

(文:佐藤徳和)