「宇宙は膨張している」となぜ言えるのか…数々の批判をくぐり抜け、定説となった「あまりにも型破りな理論」

AI要約

宇宙の起源や進化に関する歴史的な考え方から、古代ギリシャから現代までの理論の変遷を探る。

ニュートンの万有引力の法則から、アインシュタインの相対性理論へと宇宙の理解が進化し、宇宙膨張やダークエネルギーの発見が起きる。

宇宙定数やダークエネルギーの概念が物理学の歴史において重要な役割を果たす。

「宇宙は膨張している」となぜ言えるのか…数々の批判をくぐり抜け、定説となった「あまりにも型破りな理論」

 138億年前、点にも満たない極小のエネルギーの塊からこの宇宙は誕生した。そこから物質、地球、生命が生まれ、私たちの存在に至る。しかし、ふと冷静になって考えると、誰も見たことがない「宇宙の起源」をどのように解明するというのか、という疑問がわかないだろうか? 

 本連載では、第一線の研究者たちが基礎から最先端までを徹底的に解説した『宇宙と物質の起源』より、宇宙の大いなる謎解きにご案内しよう。

 *本記事は、高エネルギー加速器研究機構 素粒子原子核研究所・編『宇宙と物質の起源 「見えない世界」を理解する』(ブルーバックス)を抜粋・再編集したものです。

 われわれが住んでいる場所は特別であるとする、古代ギリシャ、プトレマイオスの「天動説」。それが、1543年に発表されたコペルニクスの「地動説」により否定され、われわれの地球は、太陽の周りを回る、ごくありふれた惑星であることが指摘されました。地動説がキリスト教会から警戒され、イタリアのガリレオ・ガリレイ博士が裁判にかけられながら「それでも地球は回っている」と言ったというエピソードは、あまりにも有名です。

 ニュートン博士が万有引力の法則を発表するずっと前、1609年から1619年にかけて発表された「ケプラーの三大法則」でも、地球の軌道は円ではなく楕円であることが、詳細な観測により、すでにわかっていたというのですから驚きです。

 1687年にニュートン博士の宇宙モデルが提唱されます。ニュートン博士が発見した有名な万有引力の法則は、リンゴの運動だけではなく、宇宙のあらゆる天体の運動にも適用され得る点で、宇宙中で使うことのできる普遍的な物理法則です。物体の運動は、座標空間における時間発展として記述されます。地球の軌道が楕円であることも、彼の運動方程式から理論的に導かれます。しかし、ニュートン博士の宇宙モデルは、空間とはただの入れ物(絶対空間)であり、時間とは空間と独立に過去から未来に流れるものだとしています。つまり、時間と空間は別物だったのです。

 ところが、20世紀になり、アインシュタイン博士が提唱した相対性理論に基づく宇宙論では、事情がまったく異なります。1905年に発表された特殊相対性理論により、時間と空間が混ざり合うことが提唱されます。また、その後、1916年に提唱された一般相対性理論では、エネルギーが時間と空間を決めることを指摘しています。1917年には、宇宙はそのままでは重力でつぶれるので、「宇宙項」(宇宙定数、今日で言うダークエネルギー)を書き加えて(つまり仮定して)、反発力により安定にしなくてはならないことを提唱しました。

 しかし、次に説明するアメリカのエドウィン・ハッブル博士らの観測による宇宙膨張発見後には、宇宙定数を導入するアイデアは人生最大の誤りだとして、後に取り下げました。1998年に宇宙の加速膨張が発見され、宇宙定数(もしくはダークエネルギー)の存在が検証されたことは、大変皮肉です。