深海ザメの謎に挑む、最新機器満載の船「オーシャンXプローラー号」がすごい

AI要約

深海には謎に包まれた生命が多く潜んでおり、最新機器を満載した「オーシャンXプローラー号」がその謎を解明するために活動している。

船にはバブルサブやROVなどの潜水艇が搭載され、ヘリコプター1機も備えられている。船内にはウェットラボやドライラボ、ホログラム・テーブルなどの装置があり、撮影用の照明装置も3000余り設置されている。

オーシャンXはNPOとして海洋の探査を行い、2018年に活動を開始。深海の生物研究に取り組んでおり、ポルトガルの研究者も乗船している。

深海ザメの謎に挑む、最新機器満載の船「オーシャンXプローラー号」がすごい

 深海には地球上で最も多くの謎に包まれた生命が潜んでいる。その謎を解明するための最新機器を満載した船が「オーシャンXプローラー号」だ。

 ヘリコプター1機と、水深1000メートルまで潜れる有人の潜水艇、通称「バブルサブ」に加え、それよりはるかに深い海中を撮影できる遠隔操作の無人潜水艇(ROV)が1艇搭載されている。さらに生物学的な実験や調査を行うウェットラボとコンピューターを用いた分析を行うドライラボ、深海から収集したデータを基に生成された立体的な映像がホログラムとなって浮かび上がる「ホログラム・テーブル」と呼ばれる装置がある。船の至るところには、映画の撮影に使えるレベルの照明装置が3000余りも設置されていて、船が丸ごと、撮影スタジオとして機能する。

 オーシャンXプローラー号は、ヘッジファンド「ブリッジウォーター・アソシエーツ」の創業者で大富豪のレイ・ダリオが、ナショナル ジオグラフィックの番組プロデューサーを務めた息子のマークと共同で立ち上げた非営利組織(NPO)「オーシャンX」の主力船だ。

 このNPOは「海洋を探査し、その成果を世界に伝える」という設立趣旨を掲げ、2018年に活動を開始。海洋の石油採掘の支援に使われていたノルウェーの船を、研究実験施設と撮影用セットを備えた調査船に改造した。顧問には、『アバター』や『タイタニック』で知られる映画監督で、ナショナル ジオグラフィックのエクスプローラーであるジェームズ・キャメロンも名を連ねている。

 この船には地元の科学者が乗り込むことが多い。今回の調査には、ポルトガルのアゾレス大学の研究者で、サメの移動を追跡する撮影機能付きのタグ(無線発信装置)を開発したホルヘ・フォンテスとペドロ・アフォンソの二人が加わっていた。

 チームは最低でも1匹のカグラザメにタグを装着し、その後に回収したいと考えていた。これは深海ではまだ誰も成功していない試みだ。そのためには船に搭載されたバブルサブで何度か潜水しなければならない。このかわいらしい呼び名は、クルーの搭乗スペースが泡のようなアクリル製の球殻になっているのが由来となっている。

 試みが成功すれば深海ザメの研究史上で最初の偉業となるはずだが、チームにとっては最初の偉業というわけではない。

 彼らはこれまでに驚きの成果を数々と上げてきている。シャチがザトウクジラを襲撃する迫力ある映像を撮影したり、音声データを基にして雄のザトウクジラが海底地形を利用して求愛ソングを遠くまでとどろかせている可能性を示したり、生息域を泳ぐ野生のヒロビレイカの珍しい姿を撮影することに成功してきたのだ。

 深海は海洋の95%以上を占める、地球上で最も大きな野生生物の生息域だが、探査は最も遅れている。2017年に初めて開催された国連海洋会議で、国際的な科学者グループがマルチビーム音響測深機を用いてデータを収集し、30年までに世界の海底の詳細な地形図を作成する計画を発表した。

 計画発表の時点では、十分に解像度が高い地形図があるのは世界の海底の6%に過ぎなかった。しかし今では、この数字は25%にまで増え、さらに日々調査が進んでいる。

※ナショナル ジオグラフィック日本版9月号「未知の深海 地球最後のフロンティアに挑む」より抜粋。