「音を見る生物」「光を聴く生物」は世界に絶対に存在しないのか?

AI要約

『学び直し高校物理』は高校物理の教科書に登場するテーマを題材に、物理法則の「理由」を考える読み物形式の本。

光と音について、人間が光を見ることができて音を見ることができない理由や、光と電波の波長に関する比較が解説される。

物理学では物質の実体よりも振る舞いが重要であり、光や電波の振る舞いを理解することで興味深い事象が明らかになる。

「音を見る生物」「光を聴く生物」は世界に絶対に存在しないのか?

物理に挫折したあなたに――。

読み物形式で、納得! 感動! 興奮! あきらめるのはまだ早い。

 大好評につき5刷となった『学び直し高校物理』では、高校物理の教科書に登場するお馴染みのテーマを題材に、物理法則が導き出された「理由」を考えていきます。

 本記事では〈音も光も「波」なのに、なぜ人は「光」は見ることができて「音」を見ることができないのか? 〉にひきつづき光と音について、くわしくみていきます。

 ※本記事は田口善弘『学び直し高校物理 挫折者のための超入門』から抜粋・編集したものです。

 音の波長は前述したように17cmもある。分解能(2つの点が「2つの点」として分離して観察される最短の距離のこと)が17cmの目なんて、仮に持っていても役に立たない。だから、ひょっとしたら長い進化の過程では「音を見る」器官を発達させた生物がいたかもしれないけれど、「光を見る」ことを選択した生物に生存競争で負けて絶滅してしまったに違いない。

 じゃあ、光を聴いて、音を見る生物は絶対に存在しないのか。そんなことはたぶんない。まず、光の波長はうんと振動数が小さい波なら十分長くなれる。俗にいうメートル波というのは、実は波長が1mくらいの光なのである。メートル波はだいたいラジオの送受信に使われている電波の波長に近い。

 なんのことはない、人類だって気づかない間に、「光を聴く」装置をちゃんと発明して使っていたのだ。前述したように、音を「見る」ほうはコウモリがすでに実現している。だから、どこか宇宙の果てには、音で見て、光を聴くほうが便利な惑星があってもおかしくなく、その惑星に誕生した人類はきっと、目で聴いて耳で見ているに違いないのだ。

 見ると聞くとは大違い、という諺がある。でも、それは正しくは「波長の長い波と短い波では検出できるものが違う」と言っているだけのことにすぎない。見ている光も聴いている音も波には違いなく「大違い」なんてどこにもないのだから。

 ちなみにいわゆる電波、というのは波長が長い光=電磁波、である。電波は波長が光に比べて長いので直進しないで音のように回り込む。スマホが室内でも使えるのは、窓から入った電波が音のように回り込んでくれるからである。もし、そうじゃなかったら、スマホを使うためにはいちいち中継局のアンテナが目視できるところに移動しないと使えない、ということになっていただろう。

 スマホの電波の波長は15cmくらいなので2000Hzの音の波長と同じくらいであり、電波はまさに光ではなく音のように、つまり、直視できないところでも伝わることができるのである。これが電場と磁場の波である電波が空気の振動である音波に近い「直視できなくても伝わる」という挙動を見せ、同じ電場と磁場の波である光のように直進しない理由である。

 物理学ではこんなふうに「実体が何であるか」より「どんなふうに振る舞っているか」のほうが重要な場合が多々あり、これが物理学をおもしろくしている。