「虎に翼」に見る女性と仕事を巡る諸問題~共感する人・スルーする人~

AI要約

モデルは実在の女性弁護士である三淵嘉子さんで、彼女が直面した困難な道のりやジェンダーの呪縛についてドラマが描かれる。

現代の女性たちも、無意識のジェンダー観念や価値観によって影響を受けており、仕事や家庭における問題が生じている。

未だに「女性は結婚して子どもを持つことが一人前」という社会通念が残り、独身女性や働く母親に対する偏見が存在している。

「虎に翼」に見る女性と仕事を巡る諸問題~共感する人・スルーする人~

 最近、NHK連続テレビ小説「虎に翼」が女性たちの間で話題に上ることが多い。主人公のモデルは実在した日本初の女性弁護士で裁判官や裁判所長を務めた三淵嘉子さんだ。女性の生き方が結婚して妻となり子どもを産み育てるという選択肢しかなかった時代に法律を学び職業を持ち、働くということがいかにいばらの道だったか。

 それから100年が過ぎた今でも、現役で働く30代後半から40代の女性たちから「あるある、こういうこと」とドラマのエピソードに共感する声をよく耳にする。女性の社会進出が進んだとされる現代においても、女性と仕事を巡る問題が続いている理由を考えてみた。

(文 海原純子)

 100年前のエピソードが今を生きる女性たちの胸を打つ理由は、一見広がったように見える生き方の選択肢にも依然として残る「意識の中のジェンダーの呪縛」と世代間の意識格差にある。心理学者のアーノルド・ミンデルは、文化に根付いた無意識の価値観を「ゴースト」と名付けている。こうした無意識の価値観は、気付かないうちに行動や態度に大きな影響を与えるという。

 例えば、表向きには女性が積極的に意見を発言し行動することが良いとされているが、実際に自分の部下や妻がはっきりと意見を述べると不快に感じる男性がいる。また、「女性はわきまえていないと」と言う政治家の発言を聞いたのはほんの数年前だ。医学部入試で男女の合格ラインが違っていたのも、つい最近まで続いていた。こうした状況に抵抗がないのは、無意識のうちに受け継がれた「女性は男性を支える立場にいるのが美しい」という呪縛の影響ではないだろうか。

 「虎に翼」では、主人公が独身でいると社会的信用がないとされ、社会的地位を獲得するために結婚したが、「女性は結婚して子どもを産んで初めて一人前」という社会通念は今も続いている。都会で働く独身女性が地方の実家に帰ると、いつ結婚するのかと問われて居心地が悪いという悩みを最近でも耳にする。

 一方、「虎に翼」では主人公が妊娠した際、親友の同期女性から「男性に守られる女」として非難されるエピソードが描かれた。今も、子どもがいて働く女性と独身女性の間で職場のコミュニケーション不全によるストレスの相談を受けることがある。本来、お互いの生き方の選択肢の違いは問題がなく受け入れられるはずだが、職場の待遇が整備されていないために、子育て中に休んだり早退する女性の代わりをする独身女性の待遇が改善されないことが背景にある。