「天井を虫が這う」「兵士が襲ってくる」幻覚や幻聴に襲われる「術後せん妄」 誰もが発症の可能性 看護師の研修にVRを活用患者の恐怖を理解し寄り添うために

AI要約

「術後せん妄」とは全身麻酔後に発生する意識の混乱で、幻覚や幻聴などの症状が現れる障害である。

メカニズムは未だ不明で特効薬もないが、患者が暴れたり工夫したりすることが重要。

研究者はVR技術を使い、患者の気持ちを理解する取り組みを行っている。

「術後せん妄」は誰にでも発生する可能性があり、夜間に起こりやすいとされる障害である。

患者が暴れたり看護師に暴力を振るったりすることもあるため、対応に苦慮することが多い。

現状では薬物療法や拘束が主な対処法となっている。

研究者は現場経験から「せん妄」を克服したいという思いから研究に取り組み、メカニズムの解明が重要であることを強調している。

「天井を虫が這う」「兵士が襲ってくる」幻覚や幻聴に襲われる「術後せん妄」 誰もが発症の可能性 看護師の研修にVRを活用患者の恐怖を理解し寄り添うために

「術後せん妄」ということばを聞いたことがありますか。全身麻酔を用いた手術のあと、患者が、幻覚や幻聴などの症状に見舞われる、意識の混乱のことです。天井に虫がはっている、誰かに襲われるなどの幻覚を見ることもあるそうで、混乱した患者が暴れてしまうこともあるそうなんです。

ただ、発症のメカニズムなど、いまだ分かっていないことが多い障害です。そんな「せん妄」への理解を広げようと、研究に取り組んでいる男性がいます。「看護の力」を信じた、その取り組みを取材しました。

■VRで患者の気持ちを理解する

薄暗い部屋に鳴り響く、医療機器の無機質な音。これは、夜のICU(集中治療室)をVR(仮想現実)の技術を使って再現したアニメーションです。室内を360度見渡すことができ、ベッドに横たわる患者の気持ちを体験できます。

映像を制作したのは、山口県周南市の周南公立大学・看護学科の松浦純平教授。15年ほど前から「術後せん妄」を研究をしています。

■周囲に暴力ふるうケースも

「術後せん妄」とは、全身麻酔を用いた手術のあと、急に幻覚や幻聴などの症状が現れる、意識の混乱のこと。天井を虫がはっている、何者かに襲われるなどの幻覚を見て混乱した患者が点滴など重要な管を抜いてしまったり、看護師など周りの人に暴力をふるってしまったりすることがあります。

認知症とは違い、急に発症し一定期間で回復するもので、特に夜間に起こりやすいとされます。診療科目にもよりますが、入院患者の3割から8割が発症するとされ、誰でもなる可能性があります。

松浦教授は、徳島県や三重県の病院で看護師として働いていました。これまで、何人ものせん妄患者に出会ってきました。

周南公立大学・看護学科松浦純平教授

「患者本人さんもつらい思いをしていますし、看護師さん側も対応に苦慮しているということがありましたので、そこで、せん妄を自分の力でどうにかしたいなというふうに思って」

■メカニズムは不明、特効薬なく

せん妄は、患者の身体状況や環境など、さまざまな要因で発症するとされます。しかし、そのメカニズムにはいまだ不明なところが多くあります。「これをすればすぐに治る」という特効薬はなく、発症した場合、患者が暴れないよう体を拘束したり、鎮静薬を注射したりして落ち着かせるしかないのが現状です。