「『闘う女の子』に強く引かれた」元ゴスロリの個性派哲学者が「推す」思い入れの深い本とは

AI要約

横田祐美子さんは、小学生の頃から詩や音楽を創作し、ゴスロリファッションに身を包んでいた個性派哲学者だ。

彼女の哲学への関心は、ヨースタイン・ゴルデルの『ソフィーの世界』や他の物語世界から始まり、問いを向ける意味を教えてくれた。

彼女の影響を受けた本は、『ソフィーの世界』、『BASARA』、『それいぬ』、『蝶々の纏足・風葬の教室』、『甘い蜜の部屋』、『もものかんづめ』などであり、これらの作品は彼女の研究にも結びついている。

「『闘う女の子』に強く引かれた」元ゴスロリの個性派哲学者が「推す」思い入れの深い本とは

 「哲学者」と聞くとしかつめらしい表情で難しい本を読みふける姿を思い浮かべるけれど、この人はちょっと違うようだ。立命館大学助教の横田祐美子さん(36)。小学生の頃から詩や音楽を創作し、中高にはゴスロリファッションに身を包んで通ったという“個性派”。そんな横田さんは、どんな本を読んで哲学者への道を歩み始めたのか。思い入れが深いという本を前に話を聞いた。

ヨースタイン・ゴルデル著「ソフィーの世界」 自分に対し問い向ける

嶽本野ばら著「それいぬ」 誇り高く自分の世界で

 

 ―哲学には、やっぱり小さい頃から興味があったんですか?

 「自覚はないんですけど、父は幼い私を見て、どうも哲学者っぽいと思っていたようです。それで小学生の頃に『ソフィーの世界』(ヨースタイン・ゴルデル著)を貸してくれ、はまりました。『あなたはだれ?』と書かれた匿名の手紙から始まる物語なんですが、ソクラテスからキルケゴール、フロイトまで登場します。自分や世界に対して問いを向ける意味を教えてくれました。哲学への関心はここから始まったんです」

 ―物語世界と絡み合わせるようにして哲学を始めたんですね。

 「哲学書を読むだけが哲学じゃないという私の考えは、この頃からつながっています。漫画も好きで、田舎に生まれた女の子が日本を変えていく架空戦記『BASARA』(田村由美著)には中学に入る頃に熱中しました。今から考えると、フェミニズム的な視点が随所に感じられる作品ですね。アニメのセーラームーンもよく見ていましたけど、自分の力で人生を切り開く『闘う女の子』に強く引かれていました」

 「一方で同じ頃に『蝶々(ちょうちょう)の纏足(てんそく)・風葬の教室』(山田詠美著)を読みました。実は小学校でいじめにあっていたんですけど、『風葬の教室』の主人公も同じように学校でいじめられるんです。でも主人公は、いじめる側を冷静に観察し反面教師にして、軽やかに自分の強さに変えていく。そのストーリーが自分の境遇にリンクするように感じました」

 ―自分らしく生きていくという価値観を培った子ども時代だったんですね。

 「そうですね。その意味で、私がもっとも影響を受けたのは嶽本野ばらさんの『それいぬ』かもしれません。女の子は徒党を組まず、誇り高く、自分の世界で生きてくんだというメッセージがちりばめられていました。私自身、中学に入ると少女性を強く意識するようになって、ゴスロリファッションにはまりました。周囲の誰もそんな格好はしないなか、一人で日傘を差して登校しました(笑)。そしてゴスロリの雑誌から、森茉莉の作品に出会いました」

 ―森茉莉は父鷗外をモチーフとした作品でも知られています。

 「私が好きな『甘い蜜の部屋』も父にしか愛情を向けられない、絶世の美少女が主人公です。いろんな人に求婚されても父への愛は揺るがない。大人になりたくない、性的欲望を向けられてもそんなことは知らない。そんな少女像に引かれました」

 ―耽美(たんび)的で豊かな物語世界が好きだったんですね。

 「私は哲学論文も美しく書きたいと思っているんです。文章の面では幻想的な『とらんぷ譚(たん)』などを書いた中井英夫の存在が大きいです。中井は小説を『天帝に捧(ささ)げる果物』とたとえるくらい高い美意識を持っていました。一方で中学の頃に母から薦められて読んださくらももこの『もものかんづめ』の軽やかな文章も好きでしたね。文章でどんな風に世界を切り取るかという面白さに目を開かされました。私が専門とするフランス現代思想には『いかにして語るか』という問題意識があります。どんな文章で表現するかによって真理も変わるんです」

 ―ご自身は、フランス現代思想の中でもジョルジュ・バタイユが専門です。

 「バタイユは中学の頃から読んでいましたが『内的体験』はいちばん理解できなかったんです。バタイユは『女性がドレスを脱いで裸になってもそれもまた衣装だ』というように真理のつかめなさをたとえます。女性をモチーフとして思考の在り方をたどる筆致に引かれ、大学院までバタイユを研究しました」

 ―どの本も現在の研究にしっかり結びついているのが感じられます。

 「今回紹介した本はすべて10代で読みました。人生を彩るものは思春期の間に決まっているんですね」

        ◇

 よこた・ゆみこ 1987年高知県生まれ。2019年3月に立命館大文学研究科博士後期課程修了。博士(文学)。20年から立命大衣笠総合研究機構助教。専門は、ジョルジュ・バタイユの思想と現代フランス哲学。著書に「脱ぎ去りの思考-バタイユにおける思考のエロティシズム」(人文書院)がある。