ダム直下のアユすむ清流「水が濁った」 着工から36年かけ2023年春完成、命守るダムに「仕方ないのか」 山口県岩国市

AI要約

山口県岩国市錦町の錦川に昨年春に完成した山口県営平瀬ダムの直下で「水が濁った」と住民から不安の声が上がっている。専門家は立地や構造からダムの影響を否定しない。住民たちは子どもの川遊びの場所を変え、アユの成育を心配する。

川底が見えるぐらい澄んでいた錦川が濁り、川遊びスポットが移動。アユの成長にも影響が出ている。

ダム湖の水質の影響が懸念されており、県と漁協が対策を検討中。専門家は更なる調査が必要と指摘している。

ダム直下のアユすむ清流「水が濁った」 着工から36年かけ2023年春完成、命守るダムに「仕方ないのか」 山口県岩国市

 山口県岩国市錦町の錦川に昨年春に完成した山口県営平瀬ダムの直下で「水が濁った」と住民から不安の声が上がっている。専門家は立地や構造からダムの影響を否定しない。住民たちは子どもの川遊びの場所を変え、アユの成育を心配する。洪水を防ぐダムの役割を理解しつつ、清流の今後に気をかける。

 「以前は川底が見えるぐらい澄んでいた」。同町広瀬の錦川沿いの商店街で飲食店を営む和田浩さん(63)は、緑がかった川面にため息をつく。流域でカヌーのインストラクターを長年務め、川への思いは強い。

 複雑な思いも抱く。かつて7キロ下流の美川町南桑で暮らした。2005年9月の台風で錦川が氾濫し地区は甚大な被害を受け、自宅も1階天井まで漬かった。「ダムが命を守ってくれる安心感はある。ただ川は濁った。仕方ないことなのか…」

 住民たちでつくる「やましろ体験交流協議会」は先月、市中心部の児童約100人に錦町で自然体験をしてもらう催しを2回企画。当初はダムの1・5キロ下流で予定した川遊びの場所を、支流の宇佐川に変更した。白井啓二会長(66)は「きれいな川で泳がせてあげたかった」と説明する。

 ダム直下の流域を管轄する玖北漁協によると、アユ漁が解禁された6月1日以降、釣り人はほとんどいないという。水野良助組合長(84)は「川底に堆積物が増えてコケが育たず、アユが大きくならない」と心配する。

 ダムは22年10月に貯水を始め、最高水位を保って安全性を確認する試験湛水(たんすい)がスタート。満水位を超えた場合は常時放流される。23年3月の完成後は梅雨時期の大雨の際に別のゲートからも放流した。複数の住民によると、ダム直下で濁りが目立つようになったのは、ちょうどダムが完成した23年春からで、秋には異臭もしたという。

 県菅野・平瀬ダム統合管理事務所によると、水の濁り具合を示す浮遊物の月別平均質量は、ダム下流1・5キロ地点で施工前後とも環境基準を大きく下回り、目立った濁りはないとする。23年度のダム周辺での水質調査では、ダムへの流入点より直下の方が濁度が高かったが、生活に支障はないという。小倉和久所長は「数値に問題はない。寄せられた声に必要に応じて対応する」としており、県は漁協とともにアユの成育状況を定期的に確認する方針でいる。

 広島大の河原能久名誉教授(河川工学)は「ダム湖にたまった土砂が放流された可能性はあり、放流時間が短いと土砂は直下の河床に堆積する。冬に冷やされたダム湖の上層の水が沈み、湖の水が上下に大きく混ざって濁度が増し、春以降に流れ出たことも想定される」とみる。

 京都大防災研究所の角哲也教授(水工水理学)は「一時的な影響はあり得る。試験湛水から時間がたっておらずダム湖の水質は安定していない。3~5年は経過を見る必要がある」と指摘。「県は水質や濁度を公開し、住民と環境調査をするなどして、錦川や自然の影響について共に考えていくべきだ」と提言する。

    ◇

<平瀬ダム>高さ73メートル、幅300メートルの重力式コンクリートダム。土砂の堆積量を除いた有効貯水容量は2750万立方メートル。うち大雨時に水をためる洪水調節容量が2430万立方メートルと大半を占める。山口県が1988年度に工事を開始。民主党政権下での事業の見直しを経て2014年にダム本体の工事に入り、23年3月に完成。総事業費は920億円。