【新紙幣あす発行】通貨の価値考える契機(7月2日)

AI要約

新紙幣が発行され、偽造防止とユニバーサルデザインが凝らされた。円安により経済は厳しい状況にあるが、国力回復と新たな経済成長を目指す契機としたい。

福島支店は年間約1億5千万枚の新紙幣を取り扱う見込み。日本の経済に思いを寄せる機会として、円安水準の影響や国内外の投資動向が懸念される。

国の借金が増加しており、財政健全化が急務。円に対する信頼を保つためにも取り組みが必要である。

 20年ぶりとなる新紙幣が、あす3日に発行される。偽造防止とユニバーサルデザインの粋を凝らし、デザインを一新した1万円札、5千円札、千円札の3種がお目見えする。歴史的な円安により、企業経営と家計は苦しいやりくりを迫られている。厳しい環境下で迎える刷新を通貨の価値について改めて考え、国力の回復と新たな経済成長を目指す契機としたい。

 県内では、日銀福島支店から銀行、信用金庫を通じて順次、市中に供給される。2022(令和4)年度の実績と同数と仮定すると、福島支店は年間約1億5千万枚の新紙幣を受け払いする計算になる。磐梯山(1816メートル)の9倍ほどの高さに当たる。

 新紙幣の発行は、国民が自国の経済に思いを寄せる機会ともなる。現在、1ドル=160円台に触れる円安水準が続く。日米の金利差が主因とされるが、厳しく見立てれば、一国の通貨が売られる事態は国力の低下の裏返しとも言えるだろう。投資信託協会によると、今年1月から5月末までの間、日本国内から海外株式に流れ込んだ公募投資信託の資金は、米国を中心に前年末比で4兆円の増額となり、国内株式の2・7倍に達する。IT、半導体関連などの銘柄に、未来への成長期待が集まっている。

 日本の2023年の国内総生産(GDP)はドイツに抜かれて世界4位に転落し、いずれはインドの後塵[こうじん]を拝する見込みとなった。人口減少が急速に進む社会に対応し、生産性と成長性に富んだ新たな産業を育てる取り組みは急務だ。新1万円札の「顔」となる渋沢栄一は約500社の創設に関わり、日本資本主義の父と呼ばれる。今こそ、貴いベンチャー精神を若者に広めたい。新紙幣に採用された「すき入れ」や3Dホログラムは世界最先端の偽造防止対策と言える。こうした緻密で精巧な技術は、起業や技術革新の源泉になるのではないか。

 国債と借入金を合わせた国の借金は2023年度末で1297兆円超となり、8年連続で過去最多を更新した。現状が放置され続ければ、円に対する信頼が揺らぎ、一層の円安、物価高を招く恐れがある。財政の健全化に真正面から取り組まなければ、新紙幣の価値が損なわれる事態は避けられまい。(菅野龍太)