ハッピーの裏にある犠牲を見過ごさない。作家・大田ステファニー歓人が語る、ガザや子どもたちへの連帯

AI要約

作家・大田ステファニー歓人がパレスチナの連帯を示すアイテムであるクーフィーヤを持って取材に現れた。

彼が受賞した小説『みどりいせき』では、大人の理想とは異なる子どもや友人同士の距離の縮め方など、独自のテーマを描いている。

また、作品には大麻というイリーガルな題材を取り入れており、共同体の雰囲気やサバイバルを描いている。

ハッピーの裏にある犠牲を見過ごさない。作家・大田ステファニー歓人が語る、ガザや子どもたちへの連帯

取材の場に現れた作家・大田ステファニー歓人は、クーフィーヤと呼ばれる頭巾を持っていた。クーフィーヤは現在激しい戦禍にあるパレスチナで使用されてきたもので、パレスチナへの連帯を示すアイテムとしても知られている。

大田は、小説『みどりいせき』(集英社)で『第47回すばる文学賞』を受賞した。2024年2月には同作の単行本が刊行された。独特の文体や大麻というフックをはじめ、パーソナルな事柄から世界で起きている惨劇にも触れた授賞式でのスピーチや自身のSNSでの発信など、単行本刊行前から大きな注目を集めてきた。

『みどりいせき』はいかにして生まれた作品なのか、そして大田はいま社会をどのように見ているのか。暗黙の了解や既成概念にとらわれない把握不可な表現者に迫る。

─すばる文学賞の受賞、おめでとうございます。今作のテーマはどんな風に決められましたか?

大田:ありがとうございます。いくつか着想があって、大人が求める規範に逆らうというか、無視して生きる子どもを描きたいと思って。あと、隔たったり途切れたりで失われる人間同士の絆をどう「仲直り」で紡ぎ直すかを考えていました。その2点をクリアすることが中心にあって、あとは自分が面白いと思う材料を探して肉付けした感じ。人物同士で互いへの所有欲をぶつけ合わないとか。

─「大人が理想とするのとは違う子ども」や「友人同士の距離の縮め方」といったテーマを描きたかったのはなぜですか?

大田:鬱屈した10代の亡霊を供養するためです(笑)。

目上の人間とかいわゆる「大人」に対する違和感は昔から強くて、ムカついたり怒らせてやりたいと思ったりすることが子どもの頃よくあったんです。まだ自分が大人になりきれていないからか、いまでもムカつくことばっかですけどね。

とはいえ、10代後半は特に息苦しい時期。感性は高まっているのに上の世代から押さえつけられる。いまだったら大人や先輩に何か言われても「は? なんで?」と言えるけれど、子どもだと勇気ないし、そもそもあんま話も聞いてもらえない。そんな状況のなかで、大人を困らせて反抗する子どもを書けたらスカッとするなと思って。反抗というかただ本人なりの誠実さで生きてるだけなんですけどね。

仲直りについては、自分自身も悩んでるから、そういう物語が読みたい!、的な(笑)。子どもの頃は「ごめんね」「いいよ」で仲直りできるのに、大人になるとどんどん下手になる。一度疎遠になると、あっさりと関係が自然消滅していく。そのくせいざ孤独になったときに、他人やまわりのせいにしてしまう人も少なくない気がしています。というか自分の話っす。

「お前が周囲との関係を放棄してきたんだろ?」「誰とも向き合ってこなかったくせに」って自分自身にしょっちゅう思うことがある。そんななかで、こういった人との付き合い方もあるんじゃないかという例を増やしたいなと思って、桃瀬と春の距離が縮まっていく様を描いたのかもです(笑)。

─上記のようなテーマを描くに当たって、「大麻」をフックに持ち出したのはなぜですか?

大田:大麻くらいないと桃瀬は仲直りできないかなって(笑)。あと大麻は日本では規制されていて、法令遵守する大人にとっては結構困るもの。たとえば先生だったら「自分の学校の生徒が大麻持ってた」なんて言われたら社会的に困るし、親も自分の子どもが大麻を吸ったり売ったりしていたらまあ世間体的に困りますよね。だから大麻を扱う子どもたちを書きました。

「大人が困るもの」というと詐欺グループとかでもよかったけど、子どもたちのお金との関わりがビジネスチックになりすぎるのはノイズだし、あと被害者が出るから避けたかった。ビジネスをすることよりは、共同体の雰囲気が大事だと考えていたからです。

イリーガルな題材を扱いながら、自分たちなりの規律を信じて、自分たちなりの方法でサバイブしている様子を描きたかったんです。そう考えたときに、ウィードのピカレスクさってある種ロマンチックだな、って。

─大麻という題材を描くにあたって、気をつけていたことはありますか?

大田:海外では医療用大麻の有効性が認められているなかで、日本では医学的、経済的根拠を議論する以前に、すでに国で決まっているルールだから、って思考停止を押し付けられる。そんな社会でこの題材を扱うなら偏見を助長しないように、正確に描写しようと思いました。

―「共同体の雰囲気が大事」というおっしゃっていましたが、何か参考にされたものはありましたか?

大田:執筆にあたって、「サイバー・ヒッピー」という『みどりいせき』に出てくるような一軒家に十数人が暮らしているクルーの取材もしました。ヤサでの営みを描くにあたってとても参考になりました。