この世には「読むと魂が汚れるテクスト」が存在する…内田樹が「SNSの荒野」を歩くときに必ず守っていること

AI要約

SNSには人の命を奪う力がある『呪いの言葉』が書かれていることがあり、そのようなテクストに触れてはいけないと内田樹さんが指摘している。

看護師には特殊な能力を持つ人がおり、例えば死にかかった患者から微細な情報を感知できる人たちがいるというエピソードが紹介されている。

このような感受性を持つ人々がいることを尊重し、訓練を行うことでその力を活かすことができる可能性が示唆されている。

SNSとはどのように付き合うべきか。神戸女学院大学名誉教授の内田樹さんは「SNSには人の命を奪うだけの力がある『呪いの言葉』が書かれていることがある。こうしたテクストには絶対に触れてはいけない」という――。

 ※本稿は、内田樹『勇気論』(光文社)の一部を再編集したものです。

■ナースには「特殊な能力」を持つ人がいる

 ずいぶん前にですけれど、ある大学の看護学部の先生のナースたちと看護をめぐって対談したことがありました。僕はその時に、ドクターというのは自然科学者だけれども、ナースというのは魔女の系譜を引き継ぐ呪術的な医療者であり、この二つの医療原理が習合しているところが近代医療の妙味であるというようなことを話したのです。その話がナースの方の気に入ったらしく、実はナースの中にはいろいろな特殊な能力を持つ人がいるという「ここだけの話」をしてくれました。

 僕が対談したナースの方は「死期近い人のそばにゆくと屍臭がする」という能力をお持ちでした。だから、夜勤で病室を巡回する時、病室のドアを開けた時に屍臭がすると「この患者は朝までもたない」とわかる。同僚に似たような能力を持つ人がいて、その人の場合は、「死期近い人のそばにゆくと鐘の音がする」のだそうです。でも、二人がそんなことを言っても、ドクターたちは笑って相手にしなかった。まあ、そうですよね。

■修羅場となった救急病棟で医師が質問したこと

 ところがある時に付近で大きな事故か何かがあって、救急に次々と重傷者が運ばれてくるということがあった。医療資源は有限ですから、助かる可能性のある患者から助けるという「トリアージ」をしなければならない。修羅場となった救急病棟で、ついにドクターたちがこの二人に向かって「この患者、屍臭してる? 鐘鳴ってる?」と訊き出したのだそうです。

 人間が死にかかっているわけですから、当然、それなりの生理学的な変化は生じている。ただ、それがごく微細な情報なので、体温計とか血圧計というような通常の計測機器では感知できない。でも、その微細な情報を感知できる人がたまにいる。別に超能力ではありません。できあいの計測機器では検知できない感覚入力を感知できる敏感な感受性を持っているということです。計測機器の感度というごくごくアナログな差異の問題です。

 こういうタイプの感受性を磨き上げるための訓練というものを、昔の人はたぶん子どもたちにいろいろな遊びをさせることを通じて行っていたのだと思います。