AI時代の必須知識は「むずかしい数式」ではない…最も重要なのはとある「言葉」の用法だった!

AI要約

仕事で算数の知識が必要になった際に、自分に自信がなくなる大人が多い。本連載では、桜美林大学名誉教授・芳沢光雄氏の著書から算数の基礎を学ぶことを提案。

背理法を使って、複数人が協力して行う仕事において、1人が単独で行うと2時間以上かかる者が少なくとも2人いることを証明。

背理法の証明は慎重に行う必要があり、矛盾を導く際に冷静な判断が求められる。

AI時代の必須知識は「むずかしい数式」ではない…最も重要なのはとある「言葉」の用法だった!

 食塩水の濃度や往復の平均速度など、仕事などでちょっとした算数の知識が問われる場面に出くわして、ドキッとしたことはないだろうか。「昔は解けたのに……」、そう思うのに解けない。そんな大人たちは本連載で今一度、算数を基礎から学び直してみてはどうだろう。

 長年、算数・数学教育に携わってきた桜美林大学名誉教授・芳沢光雄氏の新刊『大人のための算数力講義』(講談社+α新書)より抜粋して、「算数の重要な考え方」をお届けする。

 『大人のための算数力講義』連載第9回

 『高校の数学教師ですら間違える⁉「逆に言うと…」というセリフを多くの人が間違えて使ってしまうワケ』より続く

 「仕事算」に関する例を一つ挙げよう。

 例題:

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A、B、Cの3人がいて、ある仕事を3人で行っても1時間以上かかるとする。このとき、1人が単独でその仕事を行うと、2時間以上かかる者が少なくとも2人いる。この例が成立することを示せ。

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 この例の成立は、結論を否定して矛盾を導く「背理法」で示す。ちなみに、犯罪の容疑者と思われた人が、犯行時刻に“アリバイ”が見つかって無罪になる過程の以下の議論も、背理法の一例である。

 A氏が犯人とするならば、A氏は犯行時刻に犯行現場にいなくてはならない。しかし、犯行時刻にA氏は居酒屋で大酒を飲んでいたという複数の証言が出た。これは矛盾であり、A氏は犯人ではない。

 前述の例を背理法で示すと、以下のようになる。

 3人で行っても1時間以上かかって、「単独でその仕事を行うとき、2時間以上かかる者が1人以下しかいない」ということがあると仮定して、矛盾を導いてみよう。

 その仮定から、3人のうちの少なくとも2人は、単独でその仕事を2時間未満で終わらせることになる。

 その2人をx、yとすると、xとyはどちらも単独で1時間当たり、仕事全体の半分より多くを終わらせることになる。

 それゆえ、xとyの2人でその仕事を行うと、1時間より短い時間でその仕事を終えられることになって、最初の前提「3人で行っても1時間以上かかる」に反して矛盾である。

 したがって、1人が単独でその仕事を行うとき、2時間以上かかる者が少なくとも2人いるのである。

 実は筆者が東京理科大学に在籍中に、数学科の入学試験に「背理法を説明せよ」という記述式の問題が出題され、後に朝日新聞の一面でも取り上げられた懐かしい思い出がある。

 およそ背理法の証明を書いている人は、「どこでも構わないので、とにかく“矛盾”を導こう」という心境になりがちである。それが時にミスによる大問題を引き起こすこともあるので、背理法の証明を書くときは、とくに謙虚な心をもつことが求められる。