俳優・町田啓太を魅了した伝統的な英国ブランドの“質実剛健”さ。時代のニーズに応える新生ダンヒル。

AI要約

日本には四季折々に豊かな表情があり、それぞれにふさわしい「装い」がある。

モータリゼーションとは、自動車が大衆に広く普及し、生活必需品化する現象。

ダンヒルのストーリーや町田啓太のファッションセンスを通じて、男性のたしなみについて考える。

俳優・町田啓太を魅了した伝統的な英国ブランドの“質実剛健”さ。時代のニーズに応える新生ダンヒル。

日本には四季折々に豊かな表情があり、それぞれにふさわしい「装い」がある。それは単に体感的な暑さや寒さをしのぐといった「機能」を追求するだけのものではなく、Time(時間)、Place(場所)、Occasion(場合)、つまりはTPOにそぐうものであるべき。そして、そのことに通底するストーリーを理解し装うことは、正しい「大人のたしなみ」と言えるだろう。

本連載は、一年の12カ月それぞれに季節を意識したテーマを掲げ、大人の男にふさわしいスタイルを模索しようというもの。小誌が培ってきたTPOに合うトラッドスタイルの知見と、現代を代表するファッションアイコン=町田啓太の表現力とのコラボレートにより、アエラスタイルマガジン流現代版「服飾歳時記」(第二期)としてつづっていく。

メンズファッションの変遷を語るうえで、視覚的な美意識とは別に、時代が求める「機能」の追求という面も無視できない。その代表的な領域はミリタリーであり、ワークであるが、モータリゼーションも忘れてはならないだろう。

モータリゼーションとは、自動車が大衆に広く普及し、生活必需品化する現象。その幕開けは、20世紀初頭のフォード社によるT型(1908年に発表)の量産と言われているが、それよりも少し前にこの“波”をいち早くキャッチし、ファッションの世界で独自のスタイルを確立したのが英国の「ダンヒル」である。

ダンヒルのストーリーは、1880年代から馬具専門卸売業を営んでいた父親の家業を、1893年に弱冠21歳のアルフレッド・ダンヒルが受け継ぎ、自らの名で会社を設立したことから始まる。まだまだ交通の主流は馬車であったが、企業家精神にあふれ、新しもの好きだったアルフレッドは、いち早く自動車を所有し、その体験と遊び心をおおいに商品開発と店舗展開に生かした。

店のモットーは「エンジン以外のすべてを」。ヘッドライトやホーンといったカーアクセサリーはもちろん、レザーコート、ラゲージ、革小物、喫煙具などなど、洒落者たちの心をくすぐる機能的な逸品を続々と発表。以後、130年以上も愛されるブランドにまで成長する。

「違うな……」とは、ダンヒルの最新ドライビングジャケットを羽織った町田啓太。

「革の感じがいい。イタリアンブランドの華やかさや軽やかさのあるテイストも好きだが、こういう少し武骨なムードも悪くない。とことん着込んで、その“使用感”を楽しみたくなる」

町田を魅了したポイントは、言うなれば伝統的な英国ブランドらしい“質実剛健”さ。そして、プロダクツから漂う、いわゆる“男子”的な背景にも思いをはせる。

「子どものころからメカやロボなどが大好きで、もちろん自動車にも興味があった。“ミニ四駆”にハマった時期もあり、試行錯誤しながら改造し遊んだものだ。そんな“好き”が高じてか、高校は航空関係のことについて学べるところに進学。オイルまみれで夢中になってエンジンを触っていたころが懐かしい。今でもモノ作りの背景が垣間見えると、ワクワクしてしまう」

アルフレッド・ダンヒルのフィロソフィーは、現代にも息づく。町田がまとったアイテムは、クリエイティブ・ディレクターのサイモン・ホロウェイによるファーストコレクションからピックアップしたもので、これらにはサイモンの創業者とメンズファッションの歴史への多大なるリスペクトと同時に、モダンな感性に裏付けられた、格上のラグジュアリーさとエレガンスが薫る。

「不変的なものを大切にする精神は必要。ただ、変わりゆくべきものもたくさんあり、それはそれで素晴らしく、否定するものではない。新しいモノにも、ここに至るまでの過程がある。それがあるから新しい」

そう語る町田と、新生ダンヒルのこれからに期待が膨らむ長月だ。