今後胃がんは急速に減り、すい臓がんが増える…最新の人口動態統計で占う(中川恵一)

AI要約

人口動態統計2023年によると、膵臓がんが3位に急上昇しており、胃がんの減少が目立つ

膵臓がんのリスク要因として糖尿病、家族歴、膵臓の病気、血液型が挙げられる

膵臓がんの早期発見には腹部エコー検査やCT検査、MRIなどが有効であり、リスクの高い人は定期検査をお勧め

今後胃がんは急速に減り、すい臓がんが増える…最新の人口動態統計で占う(中川恵一)

【Dr.中川 がんサバイバーの知恵】

 今月17日に公表された「人口動態統計2023年」(確定数)は、がんの趨勢を占う上で象徴的なデータになっています。がんの種類別年間死亡数で、1位の肺がん(7万5762人)、2位の大腸がん(5万3131人)に次いで、膵臓がん(4万175人)が胃がん(3万8771人)を抜いて3位に躍り出たのです。

 1990年代の後半まで死亡数も罹患数もトップだった胃がんは、98%がピロリ菌感染が原因で、ピロリ菌の感染低下が進んだ今、死亡数も罹患数も大幅に減っています。死亡数は10年間で20%減です。ピロリ菌の感染率は、20~30代が1割、10代は5%ですから、胃がんは今後さらに減ります。

 日本に先駆けてピロリ菌感染を抑制した米国では、胃がんは過去のがんで白血病より珍しい。日本も米国のようになるのは時間の問題です。

 そんな中、注目は膵臓がんでしょう。米国でも膵臓がんは罹患数10位、死亡数3位ですから世界的にこのがんの対策が急務といえます。ではどんなことに気をつければよいか。

 まずは糖尿病です。全体としてのリスクは1.7~1.9倍ですが、発症1年未満は5.4倍。血糖値が急上昇したり、“安全圏”から突然基準値を超えたりしたときは要注意です。

 もう1つは家族歴で、家族に膵臓がんの人がいると、その人数が増えるほどリスクが高い。1人は4.5倍ですが、3人以上だと32倍です。

 3つ目は膵臓の病気がよくありません。慢性膵炎は13.3~16.2倍で、嚢胞があると3.0~22.5倍に上ります。消化液を十二指腸に分泌する膵管に異常があると、6.4倍です。膵臓の異常を軽視してはいけません。

 意外なのは血液型でしょう。米国立がん研究所は医療スタッフ約10万人を8年以上追跡。その結果、O型はA、B、AB型に比べて膵臓がんになりにくいと結論づけました。O型に比べてB型は1.7倍、AB型は1.5倍、A型は1.3倍です。

 膵臓の異常を簡便に見つけるのは、腹部エコー検査です。これらのリスクに当てはまる方は、エコー検査を毎年受けるのが無難でしょう。が、肥満の人などはエコーでは見つけにくい。その場合は、CT検査がよいと思います。MRIで胆嚢や胆管、膵管を調べるMRCPもよいでしょう。MRCPは、被曝のリスクがありません。

 膵炎や家族歴などから高リスクの人は、超音波内視鏡でしょう。胃カメラの先端に装着したエコー装置で膵臓を調べる検査です。膵臓がんの診断に優れた検査法ですが、これも肥満の人には不向き。その点からも、肥満の人はCTやMRIを受けることをお勧めします。

(中川恵一/東大大学病院 医学系研究科総合放射線腫瘍学講座特任教授)