暴言を吐く、机をたたく…荒れる認知症のお年寄りを施設で孤立させない「プロの対応」とは
介護者が認知症の方とのコミュニケーションで起こりがちな問題と、それに対処するための知恵が紹介されている。
差別や粗暴な行動に対して、人間関係を大切にし、説明や配慮を行うことが重要である。
認知症の方との関わり方について様々な視点から示唆を与えている。
お年寄りのことが気がかりで関わろうとしても、嫌がられたり怒られたり……。介護者はなぜそんな目に遭うことがあるのだろう? 原因は、認知症のせいで「すれ違い」が起こっているからだった。
問題を解決するカギは「人間関係」にある。現在はデイサービス代表として活躍中の著者が、グループホーム「みのり」に勤めていた頃の経験をもとに綴った『認知症の人のイライラが消える接し方』(植賀寿夫著)より一部抜粋して、介護の知恵を紹介する。
『認知症の人のイライラが消える接し方』連載第19回
『テレビに向かって「放尿」...それでも認知症の人に恥をかかせないプロ介護士の「差別を生まないスマート対応」』より続く
介護者は、対立している人たちを目にすると、つい、
〈この二人を引き離したほうがいいな……〉
なんて考えてしまいがちです。
でも、僕は人と人の接点を減らす対応はとりません。たとえば、お年寄りのなかには、思ったことをそのまま口に出す人がいます。会話の最中、予想もつかないような文脈で、
「あいつのような、あんな○○○○には、なりとうない」
と、とても書けないような言葉がポーンと出てくることも……
そんなとき、差別する人・される人の接点を減らすのは、おすすめできません。接点を減らすことで、どちらかが排除されて居場所がなくなってしまうからです。こんなふうに差別的な話が出てしまったら、どうするか。
僕は、差別する人の隣に座って、見下されている人の苦労話をわざとします。すると、「へえー、そうだったの……」と、見方が変わることもあるからです。
これと関連してもうひとつ。
暴言を吐いたり机を叩くなど、粗暴な行為で避けられてしまうお年寄りもいますよね。そんな場合、僕なら、まず他者に被害が出ないように気をつけます。そして、粗暴な行為が出た人が、自分の居室へ帰ったときなどを見計らって、
「あの人は認知症で……」
と、率直にほかの入居者に説明することもあります。説明という形で介護者が人間関係のクッションになるわけです。
同時に、粗暴なお年寄りに僕ら介護職がどう関わるかも考えます。暴力だって周辺症状かもしれない。体調や感情の変化に上手に対処すれば、解消されることだってあります。でも、人間関係が断絶してしまったら、不穏な認知症の人はもっと不穏になるでしょう。
だから、回りくどいようでも、そんな介入のしかたをしています。
『「うちのおじいちゃん、わけわからんこと言うんですよ」...認知症の人と話が嚙み合わない「最大の理由」と上手な接し方』へ続く