読むとなぜか救われる…貧乏や結婚を描いた、沖縄出身の「伝説の詩人」をご存知ですか?
9月11日は、沖縄出身の伝説的な詩人・山之口貘の誕生日です。詩集『山之口貘詩文集』では、ユーモラスな詩や自伝的な作品が収録されており、山之口の生涯や詩の魅力を知ることができます。
山之口は貧乏ながら詩を追求し、さまざまな職業を経験する生活を送りました。その経験が詩に反映され、「夜」という詩には貧困に対する複雑な感情が表現されています。
山之口の詩は結婚へのこだわりやユーモアが特徴であり、読む者に救いと風通しの良さをもたらします。『山之口貘詩文集』を通じて、彼の独自の世界観に触れることができます。
9月11日は、沖縄出身の伝説的な詩人・山之口貘の誕生日です。
『山之口貘詩文集』(講談社文芸文庫)では、山之口の詩にくわえて、自伝的な小説やエッセイを読むことができます。
山之口の詩はユーモラスであるといわれますが、たとえば、本書に所収された「猫」という詩はこんな感じです。
〈蹴つ飛ばされて
宙に舞ひ上がり
人を越え
梢を越え
月をも越えて
神の座にまで届いても
高さの限りを根から無視してしまひ
地上に降り立ちこの四つ肢で歩くんだ。〉
山之口は、1903年沖縄那覇生まれ。名門・県立第一中学校の在籍時に詩の魅力に取り憑かれ、詩作を始めます。やがて中学を中退し、上京。貧乏のなかで夜逃げなどをしながら、なんとか生計を立てつつ詩をつくるという生活を送りました。関東大震災をへて一度は沖縄に帰るものの、1924(大正13)年に再び上京します。
〈昭和十四年の五月頃までの大半を、一定の住所を持たずに過ごした〉と本書で書いている通り、さまざまな職業を経験し、貧苦とともにすごしました。そのときの経験は詩にも反映されており、「夜」という詩には、
〈僕は人間ではないのであらうか/貧乏が人間の形態をして僕になつてゐるのであらうか〉
というフレーズがみられます。
山之口の詩は、結婚にたいする奇妙なまでのこだわりでも知られており、たとえば、そのものズバリ「求婚の広告」という詩には、
〈一日もはやく私は結婚したいのです/結婚さへすれば/私は人一倍生きてゐたくなるでせう〉
という一節があります。しかし、そうした結婚へのこだわりは、切実そうでありながらも、どこかユーモアをはらんだ余裕があり、読んでいると生活のなかに風が通るような、救われる感覚もあります。
本書には、山之口の来歴についてのくわしい情報や、荒川洋治氏による解説も付されています。山之口の救いに満ちた詩にふれてみてはいかがでしょうか。