アドラー心理学の岸見一郎と考える「親との距離の心地よい距離の取り方」

AI要約

親が歳を重ねるにつれて、子どもに頼るようになることに対する負担に対処する方法についてアドラー心理学の観点から解説。

親ができることとできないことを見極め、必要な援助を求めることの重要性。

子どももできることとできないことを明確にし、親の貢献感を促すことが関係構築の鍵。

アドラー心理学の岸見一郎と考える「親との距離の心地よい距離の取り方」

【今回のお悩み】

「歳を重ねるにつれて、親が自分を頼るようになってきて負担が増しています。ちょうど良い距離の取り方を教えてください」

自分の面倒を見てくれる立場だった親が、自分のことを頼るようになってきた。もちろん、親の力になりたいという思いはあっても、こちらも自分の生活があり、親のためだけに自分の時間や労力を捧げるわけにもいきません。どうしたら互いを傷つけることなく、関係の変化に対応できるのでしょう。

アドラー心理学に詳しい岸見一郎先生に相談しました。

親は、以前できていたことができなくなってきたと自覚したときに、これから先の人生を思って不安にならないわけにいきません。他方、子どもも、親がいろいろなことができなくなってきているのを見たら、動揺します。

そんな親を見て力になろうと思わない人はいないでしょうが、親を援助しなければならないからといって、自分の生活を変えることは難しく、何から何まで頼られるようになると困ると思うからです。

親が子どもの手をまったく借りなくても何でもできたときと同じ関係を保つことは難しいでしょうが、親とよい関係を築くために何ができるかを考えてみましょう。

まず親が、目下何が自力ででき、何ができないかを見極めることから始めます。身体や精神機能の衰えを自覚していても、どの親も必ず子どもに全面的に頼ろうと考えているわけではなく、子どもの世話になって当然だと思っているわけでもありません。むしろ、自力ではできず子どもの援助が必要なのに、親が何でも自分でするといって、頑なに子どもの援助を拒むほうが今後問題になりえます。

親ができなくなくなったことを受け入れられないこともあれば、できないことを自覚していない場合もあります。そのため、何ができ、何ができないかを見極めるのは簡単ではありません。いずれの場合も、できないことを責めてはいけません。親自身ができないことが増えてきていることを認めたくないと感じているので、その劣等感を刺激しないようにしなければなりません。

次に、子どももできることとできないことをはっきりといって、親の理解を求める必要があります。親とて、子どもに頼って迷惑をかけたいとは思っていないはずなので、「親は決して無理なことを要求するはずはない」と信じて話し合うことが大切です。

人は自立して生きなければなりませんが、何かができる、できないというのは自立とは関係ありません。身体がまったく動かせなくても、自立して生きることはできます。反対に、何でもできるのに他人に依存している人もいます。

行動面では、できることは自分でしなければなりませんし、できないことはほかの人の援助を求めなければなりません。 親が自分でできることまで、子どもに頼るようになると子どもの負担が増しますが、できないことを無理にしようとして失敗したり、怪我をしたりするというようなことは避けたいところです。

できないことについては援助を求めてもいいし、むしろそうするべきである、必要な援助を求めることは依存ではない、と伝えておかなければなりません。大事なのは精神面での自立であり、行動面における自立にこだわらないのがいいと思います。

また、親にあまりに頼られると負担が増すというのは本当ですが、必要な援助をすることで貢献感を持てることを知っていなければなりません。これは知るというよりは、実際に親の援助をすることで実感できます。

ときには、子どもが親を頼ることがあってもいいと思います。親は何もしなくても子どもはもう大丈夫だと思って安心すると、急激に老いてしまうことがあります。

私の父がよく電話をしてきた時期がありました。弱々しい声で、病院を受診したらこんな病気だといわれたとか、もう治らないといわれて医師と口論した、というような話をいつも長々としていました。

ところが、私が病気で倒れて入院すると父は突然元気になり、病院に見舞いにきてくれたり、退院するときは車で家まで送るとまで言い出したりして、驚いたものです。父は、自分がしっかりしなくてはいけないと思ったのでしょう。

もちろん病気になる必要はありませんが、親が貢献感を持てるように関わることは大切です。親が、自分にもできることがあるということを知り、貢献感を持つことができれば、子どもに頼ることも減っていくでしょう。