「変わりたくても変われない」のではなく「変わらないほうが楽」なだけ…『嫌われる勇気』が秒で幸福をくれる訳

AI要約

本書はアドラー心理学を取り入れた実用書で、哲人と青年の対話を通じて人間の変容を探る物語として展開される。

アドラーの考え方は現代の常識を覆し、人は過去のトラウマによって変わることが難しいという通念に疑問を提起する。

本書は哲学的要素を含み、読者に幸福への指針を提供する。常識を疑い、自己変革を模索する人に特に価値がある。

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嫌われる勇気

岸見一郎、古賀史健著

ダイヤモンド社

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■あなたの常識がひっくり返る

 「人はいま、この瞬間から幸せになることができる」「自由とは、他者から嫌われることである」。常識を覆し、現代人に強いメッセージを提示するアドラー心理学。オーストリア出身の精神科医であるアルフレッド・アドラーは、フロイト、ユングと並んで心理学の三大巨頭と称される。彼が20世紀初頭に創設した学派は一般的に「アドラー心理学」と呼ばれる。しかしアドラー研究の第一人者であり哲学者である著者の岸見一郎は、「アドラーの思想は心理学の枠組みに収まらない、ギリシア哲学の系譜に連なる哲学だ」と考え、この見解が本書にも通底している。

 本書は、一般的なビジネス書とは異なり、小説のように、ひとつの物語として展開していく。登場人物は、一人の悩み多き「青年」と、一人の穏やかな「哲人」である。

 「人は変われる、世界はシンプルである、誰もが幸福になれる」という哲人の考えに疑念を抱く青年が、その“欺瞞”を暴こうと辛辣な質問を浴びせかけ、哲人がそれに応答する。こんな二人の対話を描くことで、アドラー心理学の神髄を読者に提示していく。

 時代を100年先行したとも評されるアドラーの思想は、アドラーの100年後を生きているはずの私たちの常識をも覆す。本書がまず取り上げるのは、「人は変わりたくても変われない」という、多くの人が実感しているであろう常識だ。

 引きこもりの人を例に挙げよう。何年も自分の部屋に閉じこもっている男がいるとする。本当は外に出たいし働きたいと願っているけれども、部屋の外に出ることが恐ろしく、一歩でも出れば動悸(どうき)に襲われ、手足が震える。幼いころの不幸な家庭環境や、学校や職場でのいじめといった過去のトラウマが、変わろうとする意志をくじいてしまっているのだろう。引きこもりの原因を、多くの人はこう考えるはずだ。