コメ不足の“犯人”は明らかだ 米国頼みの食糧政策に危機感ゼロのメディアと日本国民(元木昌彦)

AI要約

日本の自給率の低さについての問題点

アメリカの影響による食生活の変化

現在の食糧危機と未来への影響

コメ不足の“犯人”は明らかだ 米国頼みの食糧政策に危機感ゼロのメディアと日本国民(元木昌彦)

「令和の米騒動」だと騒いでいる。

 メディアは、猛暑で米が不作だった、南海トラフ地震が来るかもしれないと備蓄を始めた、米を目当てに来る外国人観光客が増えたからだと理由を並べるが、どれも的を射てない。

 今から31年前の1993年にも「平成の米騒動」というのがあったが、この時は冷夏だった。翌年の猛暑で豊作になり切り抜けたが、この国が危険水域寸前の慢性的な米を含めた食糧不足だということを忘れているのではないか。

 米が手に入らない、米の在庫量は過去最低だというのに、この国の民は「毎日おにぎりほぼ1個分(103グラム)の食べ物を捨てている計算になる」(朝日新聞8月27日付)。食料自給率が「カロリーベースで38%、世界で53番目」(2022年度)の国の人間がやることではない。

 昨年、アメリカの大学の研究者たちが衝撃的な研究結果を発表した。局地的な核戦争が勃発すると直接的な被爆による死者は2700万人だが、「核の冬」による食糧生産の減少と物流停止による2年後の餓死者は世界で2億5500万人。なかでも自給率の低い日本はそのうちの3割、7000万人以上の餓死者が出るというのである。

 では、なぜ自給率を上げられないのか? 鈴木宣弘東大教授の「世界で最初に飢えるのは日本」(講談社+α文庫)によれば、戦後、アメリカが日本人の食生活を無理やり変え、日本をアメリカ産農産物の一大消費地にしたことにあるというのだ。

 そのため「洋食推進運動」を繰り広げ、給食には朝鮮戦争で余ったアメリカ産の小麦のコッペパンとまずい脱脂粉乳を出させた。疑うことを知らない善人ばかりのこの国の民は、コロッと洋食万歳、米を食うとバカになると“転向”したのだ。

 鈴木教授の本の中に、1973年、当時のバッツ農務長官が、「日本を脅迫するのなら、食糧輸出を止めればいい」と豪語したとある。

 農水省の試算によると、日本人の食事を洋食から和食に戻すだけで、自給率は63%にもなるという。同省は、いったん有事の際には1日3食イモになるとも予測している。

 国防の要は国民の安全と食糧確保だが、どちらもアメリカ頼みのままでいいはずはない。だが、そうした考えをメディアでほとんど聞いたことがないのはなぜか。

 ウクライナ戦争が起きた時、アメリカの言うがままロシアへの経済制裁を早々に決めた。そのためロシアは小麦の輸出をストップ、ベラルーシも肥料の原料となるカリウムの輸出を止めたため、大打撃を被っているのは日本なのに。

 これほどの危機が迫っているというのに、農水省も政治家も無能なままである。減反に次ぐ減反で、1960年代に年1400万トンを超えていた米の生産量は716万トンと半減してしまった。農業従事者の老齢化、離職、後継者不足と、自給率が良くなる材料は見当たらない。

 春には5キロ2000円だった米が不足を理由に1000円も値上げされたという。こうしたことを考えれば、この騒動がいつ「一揆」になってもおかしくないと思うのだが、お上に従順なこの国の民は、テレビの前で、「お米の代わりにラーメンやうどんを食べます」と笑顔で答える。

 もしも中国が台湾に侵攻して中国から食料品が入らなくなっても、メディアが流すプロパガンダ「欲しがりません、終わるまで」「臥薪嘗胆(がしんしょうたん)」に呼応して、ヒエやアワを“スーパーフード”と称し、耐えがたきを耐えるのだろう。

(元木昌彦/「週刊現代」「フライデー」元編集長)