okadadaの音楽論に迫る5冊 「残された音源を使って、残らない一晩を彩るDJとは何か」(前編)

AI要約

 DJ/トラックメイカーのokadadaさんが音楽を考える上でおすすめの本『声の文化と文字の文化』について語る。本書では、口承文化と文字文化の違いについて探求し、文字で残るものだけが優位であるかに疑問を投げかける。DJという行為や音楽制作においても、形と経験の関係について考察を行う。

 DJプレイやクラブでの音楽体験が一時的なものであり、後で再生しても感じることが難しい現実を指摘。一方で、文字やレコードに残されたものには優位性がある一方で、クラブの現場での経験も重要であることを示唆する。

 形と経験、口承と文字という対立構造を超えて、音楽や文化の価値を多角的に捉えるokadadaさんの視点を通じて、本と音楽という異なるメディアの対比が示唆される。

okadadaの音楽論に迫る5冊 「残された音源を使って、残らない一晩を彩るDJとは何か」(前編)

 ラッパーやHip-Hop アーティストたちにおすすめの本を聞く連載企画「ラッパーたちの読書メソッド」。今回はDJ/トラックメイカーのokadadaさんです。読書会でトマス・ピンチョンやジル・ドゥルーズの著書を読むなど、幅広い読書遍歴をポッドキャストなどでも披露しています。そんなokadadaさんに、音楽を考える上でおすすめの本を教えてもらいました。

――DJ仲間のshakkeさんとのポッドキャスト「チャッターアイランド」でたまに読書の話をしているので、今回はokadadaさんがどんな本を読んで、どんなことを考えているのか聞いていきたいなと思っております。

 自分はDJなんで、言葉で何かを表現することが少ないんです。それにそもそもDJって何やってるかよくわかんない人も多いと思うんです。「(曲を)選ぶ人って……」みたいな(笑)。音楽の本を読むとそういう、やってることに対する考えがより多様に考えられる部分がありますよね。

――あまりクラブに行かない人が「他人の作った曲をかけてるだけ」と言ってるのはたまに聞きます。

 そうそう。で、僕が今日持ってきたのは『声の文化と文字の文化』という人類学の本。文字として残った文化と、口承で残る文化の違いについて研究してました。文学って英語だとリテラル(literal)って言うんです。対して、口承文学はオーラル・リテラチャー(oral literature)。

 文字として残った文化に優位性があることが前提になってる。そこに対して「本当にそうなの?」って問いかけるとこから始まっていく本なんです。実際、DJという行為は音源がないと無力ですよね。では製作者に対して従属しているのか、といえばそうではない。口承は文字の従属かといえばそうではないのと同じように、逆もそうではない。どちらにも優位は無いと思うんですよね。「形として残ってるものだけが偉いんか」「何も残さなかった人には意味がなかったんか」みたいな(笑)。逆に言えば形より経験が偉い、という訳でもないし。

――確かにDJプレイは一晩限りですもんね。

 割と(クラブに)行く人はわかると思うんですけど、当日の音源を後で聴いてもあんまりピンとこないことが多いじゃないですか。でも文字として残されたものには優位性もある。文字やレコードに残したりする一方で、現場で「やっぱりさ、経験じゃん」と言い合ったりする。そういうのを知るために僕は本を読んでいるんです。