忍者修行に行ってみた(前編)「エイッ、ヤッ、トー、ハッ」の気合が大事…まずは「肚」を鍛えよ

AI要約

忍者の教えを現代に継承する忍道の習志野青龍窟師範は、忍者修行の稽古に参加する日刊ゲンダイ記者の体験を通して、忍者修行の厳しさと魅力を紹介している。

習志野師範は忍道の陰忍5段保持者であり、現代の忍者修行は身体と精神の鍛錬を通じて行われている。特に気合の訓練や呼吸法の重要性が強調される。

手裏剣を使った稽古ではなく、基礎的なメニューが中心であり、修行には近道はないとされている。

忍者修行に行ってみた(前編)「エイッ、ヤッ、トー、ハッ」の気合が大事…まずは「肚」を鍛えよ

【話題の現場 突撃ルポ】#14

「忍者」と聞いて何を思い浮かべるだろうか。暗殺者やスパイ、泥棒……。忍者の教えを現代に継承する忍道の習志野青龍窟師範(35)は「『忍者とはこうだ!』とバシッとひと言で表せればいいんですけど」と苦笑する。鍛錬を積めば誰でも忍者になれるのか。螺旋丸を撃てるのか。尽きぬ疑問を抱えた日刊ゲンダイ記者は習志野師範が主宰する忍道稽古に参加した。【全2回の前編】

  ◇  ◇  ◇

「まずは『九字切り』から始めましょう」

 聞き慣れぬ言葉に戸惑いつつ始まったのは、発声練習も兼ねた九字法。「臨・兵・闘・者・皆・陣・列・在・前」の九字を上級者は1字ごとに両手で印を結びながら、初級者は目の前に格子を描くように右手人さし指と中指の2本で宙を切りながら発声する稽古だ。

 人前でシラフで大声を出す機会なぞ、野球部に所属していた高校生のころ以来である。その日の稽古に参加した生徒2人と習志野師範を前に堂々と九字を切ったつもりが、まったく声が出ている気がしない。己の未熟さを痛感した。

 日刊ゲンダイ記者が出だしでつまずいた忍者修行は、東京・JR中野駅から徒歩10分の距離にある空手道場で月2回開かれているもの。ほかに板橋でも月2回稽古しているという。

 そもそも「忍道」とは何か。立ち上げたのは、忍者を日本の文化遺産として世界に発信するために自治体や大学、観光協会などが参画して結成した「日本忍者協議会」。現代の「最後の忍者」と呼ばれる甲賀流伴党21代宗家の川上仁一氏や三重大の山田雄司教授(人文学)、歴史学者の磯田道史氏が顧問を務めている。

「『忍道』という言葉自体は古く、江戸初期の伝承に出てきます。ざっくり言えば、我々の言う『忍道』は江戸時代以前の忍術を資料に基づいて研究し、実技を通じて身体も鍛錬することでしょうか」(習志野師範)

 習志野師範は忍道の陰忍5段保持者。陰忍とは実践的な忍術を指す。当然、陰があれば陽もあって、陽忍は忍術を学術的アプローチで学ぶこと。日刊ゲンダイ記者が参加したのは陰忍の教室だ。

 九字切りを終え、次は「気合がけ」。相手に向かって腹の底から「エイッ、ヤッ、トー、ハッ」と発声する。相手を圧倒し、気おされない心と感覚を養うのが狙いだ。ヤクザやチンピラが喧嘩相手に「なんだゴラァァ!」と凄むアレに似ている。気合はバカにできない。

 こうした「有声気合」もあれば、「無声気合」もある。文字通り声を発さない「気合」なのだが、息を止める分、頭に血が上りクラクラする。「下腹にギューッと重い圧力をとどめるイメージをつくることで、勇気や決断力をつかさどる『肚』を鍛錬する」(習志野師範)のだとか。部屋の中でも静かにできる修行法だが、血圧が高い人にはオススメしない。

「肚」を鍛える気合には、腕を使ったバージョンも。両手をバンザイよりもやや低い位置から、円を描くように股関節めがけて振り下ろす。ぶつかるギリギリで腕を止め、これも瞬間的に下腹にグーッと力を込める。体重をうまく使えていれば、上げた両腕を相手から力いっぱい押さえられていても簡単に振り下ろすことができる。力に頼らずに腕をスコンと下ろすのがコツだ。「腕を振り下ろす時は、突然、赤ちゃんをポンと放り投げられて優しくキャッチできるくらいのブレーキ感」(習志野師範)が大切なのだが、なかなかムツカしい。

 てっきり手裏剣を使った稽古でもやるのかと思いきや、基礎作りの地味なメニューが並ぶ。しかし、修行に近道はない。「肚」を鍛え呼吸法を身につけると、驚くべき技を習得できるようになるという。

 関連記事【後編】では習志野師範の妙技を紹介する。

(取材・文=高月太樹/日刊ゲンダイ)