「目を逸らしたら嘘をついている」は嘘─人はどのようにして嘘をついているのか

AI要約

嘘を見抜くことの難しさについて心理学教授が解説。嘘をつく行為の根源や子供時代の影響、感情との関連、非言語的な嘘のサインなどに触れる。

アイコンタクトや視線の関連性についても考察。嘘つきが視線を制御する方法や親密性との関連性などを紐解く。

また、確証バイアスによる自己の仮説を裏付ける傾向や取り調べ中の警察官の行動にも触れ、嘘を見抜く難しさを探る。

「目を逸らしたら嘘をついている」は嘘─人はどのようにして嘘をついているのか

「嘘をつくとき、人は視線を逸らしてしまう」「人の本心は視線にあらわれる」──その手の話はよく聞くが、アイコンタクトやボディーランゲージと「嘘」の関係はそう単純ではないらしい。なぜ人の嘘を見抜くことは難しいのだろうか? 心理学教授が解説する。

人の嘘を見抜く自分の能力を疑うことは、選挙戦の真っ最中でなくてもあるだろう。

心理学の研究によれば、人は少なくとも一日に一回は嘘をつくという。そして、206本の論文を調査したところ、私たちが嘘を見抜いたとき、それは偶然の産物である可能性が54%だ。

嘘のなかには、他人の気分を良くするためのものもあるだろう。「あなたはとても優秀な心理学者だね」と言われたとしても、私は気にしない。だが嘘のほとんどは、嘘をつく人間が自分の利益のためにつくものだ。

私たちは幼少期、特に2~3歳のあいだに嘘をつくことを学ぶ。うまく嘘をつくようになるまでにはもう少し時間がかかり、他人の精神状態を理解する能力が発達している必要がある。

また、説得力を持たせるためには、ついた嘘を覚えていられる優れた記憶能力もいる。聡明な子供ほど自分勝手な嘘をつくことが多いようだ。

大人になるまでに、私たちは嘘の練習しているわけだ。

「嘘をつく」という行為自体を知らせる兆候はない。だが、嘘をつくことに関連するネガティブな感情(不安、罪悪感、恥、悲しみ、バレることへの恐怖)は、それを隠そうとしていても、あらわになることがある。

こうした感情は、ほんの一瞬の微表情(短時間で無意識に生じる表情)、または感情を覆い隠す仮面(作り笑顔が多い)など、何かを「押し殺した表情」によって漏れるものだ。

作り笑顔は見分けがつく。目の周りの筋肉が使われず、すぐに顔から消えるのだ。本物の笑顔なら、ゆっくりと消えていく。だが、こうした非言語的な嘘の指標に気づくには、スローモーションで相手の行動を再生する必要があるだろう。

それなら、アイコンタクトを避ける行為はどうだろう。母はいつも、私が嘘をついているときは目を見て話さないからわかると言っていた。彼女は私にぐっと近づき、昨晩は遅くまで何をしていたのと聞いてきたものだ。

しかし、アイコンタクトは欺瞞の指標として役に立たない。真実を話しているときであっても、視線の動きは私たちの認知活動から影響を受ける。たとえば、話すことを順序立てたり、記憶を振り返ったりすることなどがそうだ。

それに私たちは皆、視線が人の注意を引くものだと知っている。そして嘘つきは、それをコントロールするすべを知っている。事前に嘘を計画し、真実の断片や実際の状況に基づいて嘘を構築することで、上手な嘘つきは嘘をつきながら視線を制御することができる。

アイコンタクトはまた、人との距離からも影響を受ける。誰かが間近に座って(私の母のように)こちらをじっと見ていると、視線をあわせ続けることは難しい。これは親密性平衡モデルと言われるものだ。

距離感、アイコンタクト、会話のトピックなどは、親密さのシグナルとなる。そして人との物理的な距離が変われば、私たちは無意識のうちに、他の要素を控えて全体のバランスをとる。だから母が尋問のために近づいてきたとき、私はつい目をそらし、母は「嘘つきの証拠」を手に入れたわけだ。

これは一種の確証バイアスだ。自分の仮説を裏付ける証拠を探すだけでなく、自分が探し求めている他者の行動そのものを、無意識のうちに促す。

そしてこれは母だけに当てはまることではない。1978年の研究によると、取り調べ中の警察官は、有罪だと思っている容疑者に近づく傾向にある。容疑者はつい目を逸らし、そして……ほらやっぱり有罪だ! となる。