〈研修なしで夜勤〉〈座っていると『休憩』カウント〉元職員が訴えた千葉・児童相談所「超ブラック労働」の実態

AI要約

元児童相談所職員が行政と闘う裁判を通じて、労働環境の過酷さを訴える。

児童相談所の人手不足や施設の状況が深刻で、若手職員の定着率が低い状況。

飯島さんが休職に至るまでの経緯や苦悩を通じて、児童福祉の現場の実態を明らかにする。

〈研修なしで夜勤〉〈座っていると『休憩』カウント〉元職員が訴えた千葉・児童相談所「超ブラック労働」の実態

 教育や児童福祉の現場は、いじめやネグレクトの見逃し、職員の不適切な行為などネガティブな側面が報じられることも多い。無論あってはいけないが、彼らが重いプレッシャーに晒されながら長時間の労働を強いられていることもまた事実で、不可視化されがちだ。福祉の現場改善を訴えるために、法廷で行政と闘うことに決めた男性を取材した。

 2024年5月29日、千葉地方裁判所601号法廷。ここである一つの裁判が期日を迎えた。原告は、元児童相談所職員の飯島章太さん(30)。2022年7月に千葉県を提訴し、約1200万円の賃金と慰謝料の支払いを求めている。

 事の発端は2019年4月。飯島さんは千葉県が運営する市川児童相談所に就職した。親からの虐待やネグレクトなどが原因で、身寄りのない児童が集う施設で献身的に働いていた。

 しかし、人手不足による残業や労働環境の杜撰さから、飯島さんはわずか4ヵ月で休職に追い込まれる。休職直前、施設の入所児童は定員200%近く、1シフト24時間以上の拘束が常態化していた。ろくな研修もなくいきなり激務にさらされたうえ、事情を抱えた入所児童を預かるプレッシャーは大きい。飯島さんの心身はすぐに限界を迎えた。

 「ある日、出勤途中の駅で足が突然動かなくなりました。もうこのままでは身体が壊れる、直感的にそう思って欠勤の連絡を入れ、そのまま休職しました」

 休職後、医師からはうつ病と診断され、飯島さんは記憶障害や身体を動かせないほどの倦怠感に悩まされる。その後、一時は復職するも、一向に改善されない労働環境に見切りをつけ、2021年11月に退職した。

 「過酷な労働環境で、自分と同じように葛藤して辞めていく同期を目の当たりにしてきた。裁判を通じて、千葉県の児童相談所の惨状を訴えないと、若い職員はどんどんと辞めていき、施設が崩壊してしまうという思いにかられました。

 実際に、2021年12月に開かれた千葉県県議会では、市川児童相談所の専門職に従事していた長期療養者のうち、半数以上が採用3年目以内だったと発表されています。そのうえ千葉県は、児童指導員の採用人数も定員割れの状態で、2023年は募集者が50人に対して、最終的な採用予定者数がわずか13人です。

 年々深刻になっていく人手不足は、行政が根本的に働きかけないと改善されない。たしかに一個人が、県や自治体を相手に行政訴訟をしたところで、勝算は限りなく低い。それでも業界が改善されるよう闘っていきます」

 とはいえ児童相談所は、さまざまな事情を抱えた児童を預かっていることもあり秘匿性が高い。世間一般的には、施設で児童がどのように暮らしているか、職員はどのように児童と接しているか、表立って見える部分は少ない。

 飯島さんが休職へと追い込まれた経験をもとに、児童相談所で働く過酷さや、それでも児童と向き合い続けてきた葛藤を打ち明ける。