坂本龍一さん愛用、手のひらサイズ「おりん」も…成功例を可視化して勘研ぎ澄ます鳴物鋳物師・南條和哉さん

AI要約

「おりん」は鳴具の枠を超え、心にしみ入る音色を奏でる。鳴物鋳物師・南條和哉の作業は繊細で、厚みの均一性にこだわる。

20年前に料理人だった南條が、「南條工房」でおりんの制作に魅了され伝統を継承。独自の銅と錫の配合率を持ち味とする。

挑戦の連続だった作業は、先輩の教えに加え、自身の経験と勘が重要。神社仏閣の鳴物や祇園祭の囃子鉦も手がける。

 その音に揺らぎはない。まっすぐ伸び、耳の奥で鳴り続けるかのようだ。鳴物鋳物師・南條和哉が手がける「おりん」は、仏具の枠を超え、インテリアや音楽の世界でも聞く人の心にしみ入る。

 作業の現場は、澄みきった音色の対極にある。黒煙が漂い、火の粉が舞う工房。真っ赤に光る1300度以上の「佐波理」を、薪で焼き上げた鋳型に注いでいく。銅と錫の合金の佐波理は、その性質から「響銅」とも記される。

 天候、自身の体調、手に持つ道具から伝わる熱気。寸分の違いが結果を左右する。機を見逃さずに佐波理を流し込み、水をかけて型を割り、やすりで表面を切削して成形する。音の揺れをそぎ落とすため、厚みは均一に。わずかでも音色が違えば、また火の中へ。そうして選び抜かれた南條のおりんは、無音と有音の隙間を縫う余韻を生み出す。「毎回、自然相手の賭け。うまくいくかどうか、最後は経験と勘です」

 江戸後期創業の「南條工房」(京都府宇治市)の7代目。おりんのほか、京都の神社仏閣の鳴物、7月に開かれる祇園祭の囃子鉦も手がける。

 料理人だった南條が、妻の実家でもある工房を訪れたのは約20年前、23歳の時だった。温度によって橙、青、緑と表情を変える佐波理の炎、煌々と輝くおりんが響かせる一直線の音。全てが新鮮で、無二の音を自らの手で再現する挑戦に魅力を感じた。

 当然、作業は手探りだった。6代目の義父や先輩に教えてもらうも、求める音は出ない。だが、面白かった。「次はどんな音が出るだろうか」。生活様式の変化で業界が先細りする中、伝統を継ごうと決めた。のれんを下ろすつもりだった義父からは「ほんまにええんか」と何度も問われたが、「これと思う音を追究したい」と決意は揺らがなかった。

 一般的に佐波理は、銅が80~85%、錫が20~15%で配合される。だが、南條工房の5代目は、錫の割合を限界まで高める独自の配合率を生み出した。硬度が増し、独特の音を出すが、これは金属が変形する性質にあらがうことでもある。回転させて成形する時には、わずかに削り過ぎるだけで合金のおりんがガラスのように何度も割れた。