「一見さんが迂闊に手を出してはならない!」 モータージャーナリストの渡辺敏史がポルシェ911GT3 RSほか5台の注目輸入車に試乗!

AI要約

モータージャーナリストの渡辺敏史さんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車を紹介。各車の特徴や印象を述べながら、現在の自動車業界の多様性と複雑さを指摘。

アルピーヌA110RチュリニやBMWアルピナXB7、シトロエンE-C4シャイン、ポルシェ911GT3 RS、フォルクスワーゲンID.4ライトについて詳細な評価とそれぞれの魅力を述べる。

各車の独自性やパフォーマンス、乗り心地、デザインなどについて触れながら、自動車産業の未来に向けた展望を示す。

「一見さんが迂闊に手を出してはならない!」 モータージャーナリストの渡辺敏史がポルシェ911GT3 RSほか5台の注目輸入車に試乗!

モータージャーナリストの渡辺敏史さんがエンジン大試乗会で試乗した5台のガイ車がこれ! アルピーヌA110Rチュリニ、BMWアルピナXB7、シトロエンE-C4シャイン、ポルシェ911GT3 RS 、フォルクスワーゲンID.4ライトに乗った本音とは?

◆千載一遇の状況

21世紀以降の2000年代~2010年代前半は、やれグローバリゼーションだのサプライヤーのメガ化だのもあって、輸入車と日本車の距離がかつてなく縮まった時期ではないかと思うことがあります。でも、現在はかつてないパワートレインの変容に乗じて提供価値が多様化していることもあって、たとえばメルセデスとBMWを比べてみてもこれほど差異が明確化した時はあっただろうかという位に、むしろ各社の個性が明瞭化しているようにもうかがえます。

走らせてナンボの部分もさることながら、停めてディテールを観察するだけでも各々の考え方の違いを充分感じ取れる、そのくらい異なる世界観があちこちでぶつかり合う。ここに日本車も絡めてみると、クルマを取り巻く環境はかつてなく多様で複雑です。そんな今、我々は未来の答えを探しつつ、この千載一遇の状況を楽しみまくるしかありませんよね。

◆アルピーヌA110Rチュリニ「いかにもA110的」

今のご時世、1t前後の重量でスポーツカーを作ることはとても難しいのはお察しの通り。ケータハム・セブンのような吹っ切れた企画でもなければ、そこに棲むのはロータス・エリーゼ系とマツダ・ロードスター系くらいだろうと思われていたところに、ポーンと入ってきたのがアルピーヌA110だ。

それから約7年。世情も変わりパワートレインの変革なども迫られる中で、好き者の琴線をくすぐる特別仕様車なども追加しながら、A110はマニアックな進化を遂げてきた。チュリニはA110Rの要素をそのままに、ホイールに軽量アルミを採用している。同時に価格もちょっと安くなってくれればよかったが、高価なカーボン・ホイールの扱いに神経をすり減らすなら、敢えてアルミで山坂道をガンガン走りたいというニーズに応えたといえるかもしれない。

そしてアルミがゆえの減衰特性は、様々な凹凸が続く公道での乗り味にも巧く働いていた。軽いのに粘りがあってしなやか……的ないかにもA110なフットワークの延長にチュリニはあるようも思う。

◆BMWアルピナXB7「紛れもなくアルピナ」

BMW傘下となる2025年には独自の設計・製造がストップすることになるアルピナ。その最後の時は近づきつつあるが、クルマ作りへの熱意はまったく潰えていないことはXB7に乗るとよくわかる。そのアッセンブリーはX7と同じ、サウスカロライナの工場(日本仕様の最終仕上げはドイツ・ブッフローエ)で施されるが、静的・動的品質は見事にアルピナのクオリティに準じている。質量やホイールベースを味方にした、とりわけ乗り心地に長けている銘柄がベースとはいえ、そのライド感は紛れもなくアルピナだ。低中速域でのたゆたうような動きが高速域に向かうに従ってフォーカスが定まるようにヒタッと落ち着く、その上質な振る舞いは一度知るともう戻れない、そんな背徳心を抱かせる。低回転域から湧き上がるトルクで小山のような車体を押し出しながら、いつしか繊細に紡がれる600psオーバーのパワーで車体を高速域へと乗せていく、加速の始終の艶やかさも特別なものだ。ベース・モデルからの伸びしろ、変わりしろという面では、今、筆頭に挙げられるアルピナかもしれない。

◆シトロエンE-C4シャイン「コスプレは意匠のみにあらず」

そもそもC4は、旧き佳き時代のシトロエンのエッセンスを端々にちりばめたように企画された、そんな一面がある。GS風だったりXM風だったりと、ディテールからそれを嗅ぎ分けるのもクルマ好きのお楽しみだが、コスプレは意匠のみに留まらない。プログレッシブ・ハイドローリック・クッション=PHCダンパーとアドバンスト・コンフォート・シートという2つのアイテムで作り込んだ銘柄としては、最も乗り心地で往年のハイドロ感を感じさせてくれるのではないかと思う。

そこにBEVならではの無音に近い車内空間やシームレスな加減速感が組み合わせられたのがE-C4だ。走る分には、代々のシトロエンが度々例えられてきた宇宙船的なフィーリングそのものである。なんなら回生から油圧へと切り替わる際に効きが強く表れるブレーキの癖さえシトロエンらしく思えてしまうから困ったものだ。航続距離は405kmと今日びのBEVとしてはちょっと心許ないが、行動半径や充電環境が許すなら、その乗り味だけでちょっと手を伸ばしてしまいそうな魅力がある。

◆ポルシェ911GT3 RS「気概が求められる」

911は真ん中のカレラを軸に、全能安楽的ターボ系と求道官能的GT3を正対に据えながら、仏像のように三尊のフォーメーションを組んでいる。対してRSはそこから一線を画する不動明王的な立ち位置にあったわけだが、近年その炎量が二次曲線的に増しているように思うのは僕だけだろうか。最新のGT3 RSは走り出した瞬間から、ピットレーンを移動するレーシングカーのような剥き出し感や直結感をその振る舞いで思い起こさせる。バネ下のアタックやノイズの入りっぷりも半端ではない。マウント類もビシビシに締め上げられているだろう、微振動もあちこちから伝わってくる。これでサーキットに行かないのは人もクルマも生殺しだよなあと、そこで思い出したのは80年代のレーサー・レプリカと呼ばれていたバイクだ。公道性能など眼中なしで一点の目標のためにすべてをかなぐり捨てる、このクルマからはそんな鬼気迫るオーラがビシビシ発せられている。オーナーに求められるのは進んで護摩行に臨むような気概だ。一見さんが迂闊に手を出してはならないものだと思う。

◆フォルクスワーゲンID.4ライト「過日の絶品を思い出す」

VWのBEV戦略の柱となるIDシリーズ。その内で要となる世界戦略車がID.4だ。ランニング・チェンジは細かく行われており、直近では航続距離の延長に加えて搭載バッテリー容量を少なくして価格を抑えたライトもいよいよ上陸を果たした。航続距離はプロの618kmに対して435km。使い方に応じて選んでくださいというわけだが、行動半径は小さくなるも日常的なニーズはライトでカバーできると思う。

デザイン的な差異以上に既存車との違いを感じるのはパッケージングだ。BEV専用プラットフォームを用いるだけあって、前席の足元まわりや後席の居住性は実寸の割に広々としている。始動の儀式もなくドライブ・セレクターの操作が起動コマンドになるなど、インターフェースの合理性も先進的だ。回生減速度調整のためのパドルが欲しくはなるが、加速や制動のシームレス感はさすが手練れの自動車屋のそれ。低重心+後輪駆動を活かしたライド・フィールのすっきりぶりやまろやかさに、個人的には過日の絶品、ゴルフVIのコンフォートラインを思い出してしまった。

文=渡辺 敏史

(ENGINE2024年4月号)