Dell COO「AI時代は再び『オンプレミス』と『PC』が重要になる」

AI要約

ジェフ・クラーク氏が、「Dell AI Factory」を発表し、AIインフラの導入を容易にする技術スタックを紹介。

AI時代に必要な新しいシステムアーキテクチャやインフラについての説明。

AI PCやオープンソースの取り組み、McLaren Racingとの取り組みについての詳細。

Dell COO「AI時代は再び『オンプレミス』と『PC』が重要になる」

開催中の「Dell Technologies World 2024」において、同社 バイスチェアマン兼COOのジェフ・クラーク氏が、オンプレミス環境へのAIインフラの導入を容易にする新たな技術スタック「Dell AI Factory」を発表した。

 Dell Technologiesが2024年5月20日からの4日間、米国ラスベガスで年次イベント「Dell Technologies World 2024」を開催している。今年の主役はやはり「AI」。21日の基調講演では同社 バイスチェアマン兼COOのジェフ・クラーク氏が、オンプレミス環境へのAIインフラの導入を容易にする新たな技術スタック「Dell AI Factory」を発表した。

 

「AI時代には新たなシステムアーキテクチャが必要」

 クラーク氏は、昨年のDTW 2023からの1年間を振り返り「スピードがどんどん加速している」と語る。現在進行中のAI/生成AI技術の進化は、そのスピード、破壊力において、クラーク氏の40年間のキャリアにおいても「どんな技術も匹敵しない」ものだという。AIがもたらす生産性向上とインパクトは「管理不能」であり、AIによって「ビジネス競争の土台が変わってきた」。そんな見解を語るクラーク氏は、300年前の蒸気機関登場による産業革命になぞらえて、現在を「AI革命」の時代だとする。

 

 生成AIをビジネスの“同僚”に迎えることで、サプライチェーン、プランニング、顧客サービスなど、あらゆる場面で自動化や効率化を図ることができる。ただし「それを支えるITシステムには、まったく新しいものが必要になる」とクラーク氏は強調する。

 

 「GPUに高速にデータを供給しなければならない。ベクトル演算に最適化され、高度な並列性を備え、高速で高いスループットを持つストレージも重要だ。生成AIワークロードには、従来とまったく異なるコンピューティングのアーキテクチャが必要だ」

 

 ここで求められるのは、「プログラミング」や「インストラクション(指示)」が主導するコンピューティングから、「コンテキスト(文脈)」と「推論」が主導し、ユーザーの「意図」に基づくコンピューティングへの変化である。それを支えるのが、今回発表したDell AI Factoryだ。

 

 Dell AI Factoryは、今年3月に開催された「NVIDIA GTC」でDellが発表した「Dell AI Factory with NVIDIA」を拡張するものとなる。基本コンセプトは「AIのためのインフラ導入を容易にする技術スタック」と同じだが、with NVIDIAがNVIDIAのソフトウェアとハードウェアを中心に構成されているのに対して、今回のDell AI FactoryはNVIDIA以外の技術も含むオープンなものだ。

 

 「企業の83%のデータがオンプレミスにあり、しかもそのうちの50%がエッジで生成されている。これは『データのある場所』でAIワークロードを実行するほうが効率的であり、安全でもあることを意味する」

 

 クラーク氏のこの言葉どおり、Dell AI FactoryはオンプレミスへのAIインフラ導入ニーズに応えるものであり、ハードウェアが重要な役割を占める。Dellでは今回、ストレージ、ネットワーク、サーバーのそれぞれで、AIインフラ向けの新製品を発表している。

 

 まずストレージでは、AIデータ処理向けに最適化されたオールフラッシュのファイルストレージ「Dell PowerScale F910」、PowerScaleに統合される非構造データ向けの新しい並列ファイルシステムソフトウェア「Project Lightning」、最新のストレージソフトウェア「PowerStore 4.0」にAPEXサブスクリプションなどのサービスを組み合わせた「PowerStore Prime」ブランドを発表した。

 

 ネットワークでは、最新の「Broadcom Tomahawk 5」チップセットをベースに、800GbEを64ポート搭載できるAIファブリックスイッチ「Dell PowerSwitch Z9864F-ON」を発表した。

 

 Dell AI Factory with NVIDIAでは、最新の「NVIDIA Blackwell」GPUを最大72個サポートし、4Uフォームファクタに8個のGPUを搭載できる「業界で最も高密度」なラック型サーバー「PowerEdge XE9680L」を発表した。

 

 クラウドコンピューティングの時代には逆風が吹きかけたが、AIの時代はこのようにDellにとってチャンスとなる。Dell AI Factoryは、サーバーやストレージだけでなく「AI PC」も含む。

 

 Dellは5月20日、米Microsoftが発表した「Copilot+ PC」の新機種として、「Latitude 7455」「Latitude 5455」「Inspiron 14」「Inspiron 14 Plus」「XPS 13」の5機種を発表した。すべての機種で、高速なNPUを内蔵する「Snapdragon X」プロセッサを搭載している点が特徴だ。

 

Dell AI FactoryでAI向けシステムを構築するMcLaren Racing

 ここまで説明してきたように、Dell AI Factoryは「圧倒的な処理能力、高速なI/0とそれに最適化されたファイル/オブジェクトストレージ、低遅延で高速なネットワークファブリック、データ保護/トレーニング/チューニング/推論などAI向けのソフトウェアツール群、そしてAI PC」(クラーク氏)で構成される。

 

 このアーキテクチャでDellが敷くAI戦略では「オープン性」も重要な要素となる。「オープンなモジュラー型アーキテクチャにより、迅速なイノベーションを支援する」とクラーク氏は説明する。

 

 基調講演では、Broadcom、Meta、Microsoft、Hugging Faceからそれぞれの幹部が登場し、Dellとの取り組みについて語った。

 

 中でも、オープンソースのAIモデルリポジトリとして人気を集めているHugging Faceとの協業においては、Dell向けにカスタマイズされた「Dell Enterprise Hub」が発表されている。Hugging FaceがホスティングしているLLMのうち、Dellのインフラ向けに最適化されたものを容易にオンプレミス環境へ実装することができる、専用のコンテナやスクリプトも提供するという。オンプレミス向けに提供されるHugging Faceのポータルは初めてだという。

 

 また、Metaとの間では、Metaの「Llama 3」モデルを「Dell PowerEdge XE9680」などのDellインフラでファインチューニングしたり実装したりすることを容易にすることに取り組むという。

 

 クラーク氏は、今後のAI環境にまつわる、次のような予想を挙げた。

 

・2030年までに、生成AIに必要な処理速度は27 Quetta FLOPS(Quetta:クエッタ、10の30乗)になる。

・2026年には生成AI向けデータセンターの需要が従来型データセンターの需要を上回り、2030年には全体の75%を占めるようになる。

・コンピューティング需要の中心はトレーニングから推論へとシフトする。2030年までにトレーニングの需要が10%、残りが推論の需要となる。

・AIデータセンターは2030年までに390GW(ギガワット)を消費する。これに通常のデータセンターぶんの130GWを合わせると、合計では現在の8倍となる520GWの電力が必要となる。

・2030年までにすべてのPC(インストールベース)がAI PCになる。

 

 基調講演では、DellのAIを活用している顧客として、McLaren RacingのCEO、ザック・ブラウン氏が登場。Formula 1レースにおけるAIの重要性について話した。

 

 ブラウン氏によると、レースカーにはおよそ300のセンサーが搭載されており、レースが行われる週末にはそこから1.5TBものデータを収集し、5000万回のシミュレーションを行なっているという。

 

 例えばタイヤの準備にかかる時間は20秒。ピットに入るタイミングを判断するのには2秒かかる。一刻を争うレースで無駄は許されず「一瞬で判断しなければならない」とブラウン氏は説明する。そこでシミュレーションが大切な役割を果たすという。

 

 レースごとにシミュレーションと調整を繰り返すことでパフォーマンスが改善され、シーズンの開幕時と終盤では性能は大きく異なるという。McLaren Racingでは2026年に向けた取り組みを開始しており、「“最もAIが使われたレースカー”が出来上がるだろう」と述べた。

 

 クラーク氏は、Dell AI Factoryのブループリントを見せながら、来場者に向かって「すぐに準備を始めるべきだ」と語り、基調講演を終えた。

 

文● 末岡洋子 編集● 大塚/TECH.ASCII.jp