東急歌舞伎町タワー「THE TOKYO MATRIX」の責任者が語る知見と不評からの回復

AI要約

THE TOKYO MATRIXは、2023年4月にオープンした新宿ダンジョン攻略体験施設であり、アーケードゲームの要素を取り入れた体験型アトラクション施設だ。ダンジョン攻略をテーマに高難易度のミッションを提供し、2~3人でのパーティプレイを強く推奨している。

開設当初は良好な反応を得ていたが、客層の変化や難易度の高さにより一時的に評判が悪くなった。改善策としてチューニングやシステム変更を行い、プレイヤー満足度を向上させた。

今後は、ビギナーからエキスパートまでが楽しめるようなバランスの良い施設に改良し、さらなるリピーターの獲得を目指している。

東急歌舞伎町タワー「THE TOKYO MATRIX」の責任者が語る知見と不評からの回復

 8月21日、コンピュータエンターテインメント開発者を対象としたカンファレンス「コンピュータエンターテインメントデベロッパーズカンファレンス2024」(CEDEC2024)において、「『THE TOKYO MATRIX』が目指す新しい遊び」と題した講演が実施。東急歌舞伎町タワーで運営されている体験型アトラクション施設「THE TOKYO MATRIX」について、施設の責任者であるソニー・ミュージックソリューションズ デジタルビジネスカンパニー TTMオフィス 次長の松平恒幸氏が、概要とともに運営で得られた知見や、一時期不評となった要因や改善、今後について語った。

 THE TOKYO MATRIXは、2023年4月の東急歌舞伎町タワーオープンと同時に運営を開始。ゲームの面白さをリアルな体験として提供する“新宿ダンジョン攻略体験施設”と銘打った体験型アトラクション施設。フロア全体で1500平方メートル、ダンジョンアトラクションエリアが900平方メートルと、東急歌舞伎町タワーのワンフロアを丸々活用したもの。

 コンセプトについては、施設の検討や開発当時は新型コロナウイルスの流行真っただ中ということもあり、日本人の若者をターゲットユーザーを絞り、新宿で繰り返し遊べる施設を想定。高難易度のミッション(クエスト)をクリアしながら、どこまで進められるかを競う、ミッション攻略型のアトラクションとなっている。

 特徴としては、2~3人でプレイするパーティプレイであること。アーケードゲームの考え方でいけば、ソロプレイがいいのではというイメージや、実際にソロプレイの希望もあるとしているが、実際に調査したところ、施設のいいところとして「チームでプレイできること」という回答が多く得られているとしている。

 用意されているミッションについて、3番目となる「Quest3」をメインパートとしており、「玉を投げる」「綱を引く」といったものから、大型のパズルを複数人で配置するなどといったフィジカルなミッションと、大型スクリーンを活用した頭脳を使うデジタルなミッションの組み合わせで設置。松平氏いわく「みなさんが真剣に、そして必死になって挑戦している」という内容だという。そして「Quest4」以降もさらに高難度なミッションが用意され、1回ではクリアできないような難易度としている。ちなみにミッションは7つ用意されており、全ミッションをクリアしたパーティは200以上、そして1000回以上プレイしたプレーヤーもいるとのこと。

 開設当初からアニメ「ソードアート・オンライン」(SAO)とフルコラボレーションし、施設にあわせたオリジナルストーリーをSAO原作チームとともに構築し、SAOの世界観を味わえる「ソードアート・オンライン ーアノマリー・クエスト-」として運営を行っている。松平氏によれば、SAOファンも多く遊ばれているとしつつ、現状においてはそのSAOファンと、一般のプレーヤーが50%ぐらいの比率で楽しんでいるという。ちなみにこのコラボについては、今冬での終了を予定している。

 松平氏は、施設のポイントとして「唯一無二の独自性」「ハマるゲーム性」「高いリピート性」「幅広いターゲット」「IPコラボレーション」「ロケーション至便」「合理的な運営・運用」を挙げている。

 松平氏は、施設における最大のバリュー(強み)として「ビデオゲームやスマートフォン向けゲームの面白さを、現実の施設に落とし込み、生身で楽しめる」と語る。施設にはありとあらゆる種類の物理センサーを大量に活用し、プレーヤーの行為と、ゲームシステムを組み合わせて実現しているという。

 加えて、インタラクティブな遊びはいろいろとあるなかで、THE TOKYO MATRIXではプレーヤーをIDで管理し、プレーヤーとしてのアイデンティティを保って提供するとともに「フィジカルとゲーム(プログラム)との融合」を図っているのも特徴という。例えば、難度のレベルが上がるとロープが重くなったり、アイテムを使うと的が大きくなってクリアしやすくなるなど、フィジカルなゲームに変化をもたらすという。

 松平氏は、「生身の人間として子どもから屈強な肉体を持っている方までプレイするなかで、ゲームバランスをとりつつ、アイテムによって難度にも変化をもたらすという設計はとても大変だった。簡単に作ることができない苦難があった」と振り返った。

 全く新しい施設としてオープンし、約1年強が経過。その間、運営しているなかでいろいろな出来事があったと松平氏は語る。オープン直後はパブリシティ受けもよく、多くのメディアから取り上げられたという。また、高難度なダンジョンに挑むというコンセプトが伝わっていたこともあって、初期段階では多くのプレーヤーが楽しんでおり、ポジティブな反応が得られていた。しかしながら、夏休みが明けたころからネガティブな反応が目立ちはじめ、“難しすぎる”と急激に評判が悪くなっていったと振り返る。その理由として、客層の変化による計算違いが表面化したことにあるという。

 前述のように新型コロナウイルスの流行真っただ中というタイミングで企画開発を進めていたこともあり、日本の若者向けにターゲットを絞り、ピーキーなゲーム性にしていたのだが、施設のオープン時は“コロナ明け”と呼べるぐらいに社会活動が戻った状態のタイミング。しかも東急歌舞伎町タワーのある新宿の歌舞伎町は、“遊びたい欲”が強い一般層や、インバウンドによる海外からの観光客も多く足を運ぶ場所。だんだんと一般層や海外ツーリストの体験者が増えたことによって、その難しさが受け入れられず、ネガティブな評判が広まっていたとしている。

 こうした状況を踏まえ、2024年に入ってからはさまざまな改善に着手。チュートリアルの改正をはじめとして、これまでのゲームオーバー即終了というゲームルールから、4月からは3ライフ制を導入するなど、細かいチューニングとシステム変更などによって満足度も向上したとしている。

 これまでの運営経験を踏まえ、松平氏は「ダンジョンを攻略するというコンテクストは人気がある」として、ダンジョン攻略施設のポリシーは変えないとしつつも、施設の今後としては変えるところや改善すべきところがあるという。ゲームコンセプトについては、これまでゲームオーバーを前提とする難易度の高い脱落型ゲームとなっていたのだが、「アトラクションとしては、ネガティブに作用する危険性が高い。料金のなかで一定の楽しみや経験を享受できないと、不満を持たれてしまう」とし、ビギナーもエキスパートもそれぞれ一定の時間と量の体験が楽しめることを担保しつつ、その上で繰り返し楽しめる施設としての持ち味をいかしたものに変えていく必要があるという。

 さらに、プレイ方法の設計として、これまでスマートフォンを起点にしたID管理型のユーザーフローとしており、プレーヤーがスタッフとコミュニケーションを取らずにゲームプレイが開始できるシステムとなっていた。これは新型コロナ流行時における非対面でのインターフェースを重視していたがゆえのことだったが、イメージとして「注文はモバイルオーダーだけで、対面カウンターがないハンバーガーショップ」というような、始め方として複雑になってしまい、気軽に始めたいカップルやファミリー層にはネガティブな反応が強かったという。そのため、今後はビギナーが気軽に始められ、リピーターがスムーズに始められるようなものにしていくという。

 ゲーム性についても、脱落型の内容であるがゆえに“苦行感”があることも指摘。例えとして“協力してモンスターを倒す快感アクション”と表現するように、目的が明確で気持ちよく、フィジカルな装置での快感が得られるもの、それでいてやりこみ要素もあるような内容にしていきたいと説明する。イメージとして“重いロープを頑張って我慢して引っ張る”というところから、“石がセットされている投石機を引っ張って、石を投げてモンスターに当てる”とし、気持ちよさが得られると同時に、みんなでわいわいと楽しめるものにしていくという。

 リピーターに向けたハマる要素についても、さらに多く取り入れたいという。現在も行われているスコアランキング戦となる「ランクバトル」のほか、プレーヤーがIDを保有しアバターキャラクターを持てる状態であれば、育成できる要素についても考えていくという。加えて、クリアの可不可だけではなく、スコアの高低が後に影響するという“うまくプレイする”ということに戦略を付与する要素も取り入れたいとした。

 現状では未発表のものも多いとしつつ、THE TOKYO MATRIXの今後の方向性として、これまで語ってきたようなことを考えているとした。最後に松平氏は、THE TOKYO MATRIXが世の中に例のない遊びであることから、ゲームやIPなどとのコラボを通じて、日本のエンタメ業界と新しいエンタメビジネスを一緒に作っていきたいとも語る。特に施設がある東急歌舞伎町タワーは、大型の映画作品におけるプレミア公開が行われるなど、強い訴求力を持つ場所であることに触れ、コラボによるPR施策などもあわせて展開できればとも語っていた。