肉眼でも情報が読める?ISO規格化第1世代の光磁気ディスク 5.25インチMO「130mm書換形光ディスクカートリッジ」(600/650MB、1989年頃~):ロストメモリーズ File039

AI要約

5.25インチMOと呼ばれる光磁気ディスクの一種である130mm書換形光ディスクカートリッジについて紹介。

5.25インチMOの特徴や記録方法、容量、登場年などの詳細を解説。

カートリッジの構造やディスク面の特徴、PEP領域の解読、A形フォーマットとB形フォーマットの違いなどについても觀しいている。

肉眼でも情報が読める?ISO規格化第1世代の光磁気ディスク 5.25インチMO「130mm書換形光ディスクカートリッジ」(600/650MB、1989年頃~):ロストメモリーズ File039

[名称] 130mm書換形光ディスクカートリッジ

(参考製品名 「MH600U」「EDM-650B」「DEC-702」他)

[種類] 光磁気ディスク

[記録方法] 光変調方式、マークポジション、CAV

[メディアサイズ] 135×153×11mm

[記録部サイズ] 直径約130mm

[容量] 594~654MB

[登場年] 1989年頃~

ひとつ、またひとつと消えていき、記憶からも薄れつつあるリムーバブルメディア。この連載では、ゆるっと集めているメディアやドライブをふわっと紹介します。

ロストメモリーズの記事一覧「130mm書換形光ディスクカートリッジ」は、5.25インチ(130mm)の記録用ディスクをカートリッジに収めた光磁気ディスクメディア。MO(Magneto Optical disk)のひとつで、そのサイズから「5.25インチMO」「5インチMO」などと呼ばれることも多いです(以下、5.25インチMO)。

以前紹介した「130mm追記形光ディスクカートリッジ」(ISO 9171、JIS X 6261)は、金属薄膜や有機色素を記録層として採用し、これを加熱することで変質させ、データを書き込んでいました。

レーザーのみで読み書きができるというメリットはありますが、書き込めるのは1回だけ(WORM、Write Once Read Many)。残念ながら、書き換えはできないという制限があります。

これに対し5.25インチMOは、高温に熱すると磁性が失われれ、冷えると磁性を保持できる素材を記録層として採用。レーザーで高温に熱し、磁界をかけた状態で冷却していくと、そのときの極性が記録層に保持される、という特性を利用してデータを書き込みます。

読み出しは弱いレーザーを反射させ、偏光面の回転(カー効果)を確認。極性の違いによって回転角が変化するため、これを観測することで、データを取り出せます。

レーザーだけでなく、磁界も必要となるため装置は複雑化しますが、何度でも書き換えられるのがメリット。また、フロッピーディスクといった従来の磁性体メディアと異なり、常温では磁界の影響をほとんど受けず、データ保持力が高いというのも魅力でした。

この5.25インチMO、結構独自規格のものがありますが、今回紹介するのは、国際標準規格化されているもの。その中から、第1世代となる「ISO/IEC 10089」(JIS X 6261)のカートリッジを見ていきましょう。

なお、5.25インチMOの規格化にまつわる話は、産業技術史資料情報センターが公開している武田立氏「書込型光ディスク技術の系統化調査」に詳しいので、興味がある方はぜひどうぞ。

肉眼でもMOの情報が読める!?

第1世代のMOといっても、形状は追記形のカートリッジとソックリで、見分けがつきません。また、この形状は第2世代以降のMOにも継承されているため、見た目だけで世代を判別するのもかなり難しいです。

MOかどうかの見分け方は、ケースかカートリッジで「REWRITABLE」の文字を探すのが一番簡単です。また、容量が約600MB、もしくは約650MBとなっていれば、第1世代だとわかります。

同じ規格なのに容量が複数あることを不思議に思うかもしれませんが、これは主に、セクターサイズが違うことによるもの。セクターサイズが大きいほどデータに使える割合が高くなるため、同じ記録密度でも容量が大きくなります。

パッケージ、もしくはカートリッジに容量が書かれていない場合は、製品型番を頼りに調べるしかありません。ただし、5.25インチMOは漏れなく古い製品で、しかも個人向けではないためカタログなども少なく、なかなか製品情報にたどり着けない場合も。がんばりましょう。

カートリッジは11mm厚。肉厚のプラスチックが外装に使われており、かなり頑丈です。また、アクセスウィンドウは金属シャッターで保護されており、中のディスクをしっかり守ってくれる構造です。

このシャッターはバネが入っており、自動で閉まります。ただし、ロック機構まではないため、横にずらせば簡単に開きます。

ディスクは両面使える仕様で、ドライブに裏返して入れることで、他方の面も利用できます。ちなみに、公称の容量は両面合計したものなので、片面では半分となります。

両面とも使えるようにするため、カートリッジの形状は左右対称。裏返してもシャッターの向きが変わるくらいしか違いがありません。見た目の違いといえば、A面/B面の区別がつくよう、大きく「A」「B」という文字が書かれていることと、ラベルを貼る位置が左右入れ替わることくらいでしょうか。組み立て用のネジが見えるかどうかという違いもあります。

カートリッジの外形は規格で決まっていますが、細かい部分は各社で違いがあります。よく見ると、左下にある書き込み禁止スイッチの形状だとか、A/Bの刻印、ラベル領域のサイズなどが違っていました。

ディスク面を見てみましょう。

第1世代の5.25インチMOは、回転数が一定となる、CAV(Constant Angular Velocity、角速度一定)。そのため、トラック当たりのセクター数は内周から外周まで全て同じで、光を反射させると、セクターの境界が放射状に伸び、縦長の扇状に見えます。

セクターサイズが512バイトのカートリッジは1トラック当たり31セクター、1024バイトのカートリッジは1トラック当たり17セクターと、セクター数が異なります。上の写真は512バイトの場合ですが、1024バイトだとセクターの幅が広くなるため、目視で見分けれらるのが面白いですね。

どちらもデータ領域の更に内側に、PEP領域(Phase Encoded Part)と呼ばれるメディア情報が書き込まれている部分があります。幅が0.5mmと大きく、しかも1周で561~567ビットしか記録できないため、肉眼でもそれと分かります。

その外側には、更に詳細な情報が書き込まれているSFP領域(Standard Format Part)があります。ただし、こちらは0.02mm幅な上に、データを記録する領域と同じ方式で書き込まれているので、肉眼で判別するのはまず無理です。

せっかくPEP領域が肉眼で見えるわけですから、ちょっと解読してみましょう。PEP領域のビットはシンプルな位相変調。色が変化している部分を1、変化していない部分を0とした場合、10と並ぶときの値が「0」、01と並ぶときの値が「1」となります。

これを基にビットを読み取り、書き加えてみたのがコレ。

JIS X 6271を参考にすると、PEP領域のデータはプリアンブルが16ビット、同期信号が1ビット、セクタ番号が8ビット、データが144ビット、CRCが8ビットという構成なので、これに当てはめてみます。

プリアンブル:0000000000000000

同期信号:1

セクタ番号:00000010

データ:00000000 00000010 00010001 00010010 01011101 00000000 00......

途中までしか読み取っていませんが、ここからどんなカートリッジなのか読み解くと、「A形フォーマット」、「CAV」、「1セクターあたり1024バイト」、「1トラックあたり17セクター」、「ランド記録」、といったことが分かります。解読したのがソニーのEDM-650Bですから、なるほど、正しいです。

もうひとつ、パイオニアのDEC-702のPEP領域も見てみましょう。

プリアンブル:0000000000000000

同期信号:1

セクタ番号:00000001

データ:10000100 01000001 00100000 00010011 01011101 11111111 00......

同様に解読してみると、「B形フォーマット」、「CAV」、「1セクターあたり512バイト」、「1トラックあたり32セクター」、「ランド記録」、といったことが分かります。これも仕様と見比べてみると一致しています。

PEP領域を読むことを「MOの情報が読める」と表現するのは、ちょっと誇張している気もしますが、ウソとまでは言えないでしょう。たぶん。

同じ規格なのに物理的に異なる2つの方式がある

急にA形フォーマットとかB形フォーマットとかいう言葉が出てきましたが、これは規格を決める際、2つの異なるサーボ方式が提案され、双方が譲らなかった結果、両方を採用するという折衷案に落ち着いたためです。具体的には、CCS方式(Continuous Composite Servo)がA形フォーマット、SS方式(Sample Servo)がB形フォーマットとして規格化されました。

カートリッジはそれぞれ専用で、相互利用はできません。なお、B形フォーマットに対応した製品は数が少ないようで、ほとんどがA形フォーマット。当時の現場を知らないので想像ですが、2つの方式が混在する環境は稀で、混乱は少なかったのではないでしょうか。

手元のカートリッジをいくつか確認してみたところ、「ISO(A)」などと書かれているものもありましたが、あくまで少数派。多くはISO準拠の表記がそもそもない、もしくは、表記があってもA形/B形まで明記されていないものばかりでした。

このことからも、A形フォーマットであるのは暗黙の了解だった……のではないかと考えられます。ということでこの記事も、A形フォーマットが前提となっているのでご了承ください。

5.25インチMOはこの後、1.2~2.0GBの第2世代、2.3~2.6GBの第3世代、4.1~5.2GBの第4世代、8.6~9.1GBの第5世代と10年ほどかけて進化していきます。これら世代については、また別の機会に紹介しましょう。

参考:

「130 mm rewritable optical disk cartridge for information interchange」, ISO 10089, International Organization for Standardization

「130mm書換形光ディスクカートリッジ」, JIS X 6271, 日本産業標準調査会

「5.25モデル一覧」, 三菱化学メディア, Wayback Machine

「5.25" MO」, Sony

「SMO-E501 Magneto Optical Disk Drive Specifications and Operating Instructions」, Sony, Bitsavers

「DEC-702(MO) and DC-502A(WORM) Media Comparison」, Pioneer Electronics (USA) Inc

「DE-S7001 Operating Instructions」, Pioneer Electronics (USA) Inc

武田 立, 「書込型光ディスク技術の系統化調査」, 産業技術史資料情報センター

森 昌文, 「5-4 光ディスク」, テレビジョン学会誌 Vol.42 No.4 1988, J-STAGE

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