AI PCは3年後半分のシェアへ? いまは限定的だが、選択肢を広げるために前向きに投入していく

AI要約

2024年はAI PC新時代の幕開けであり、日本HPがCopilot+ PCを市場に投入している。

同社はAI PCに力を入れる一方、従来型のPCも提供し、幅広いニーズに対応している。

HP OmniBook Ultra 14 AI PCは高性能なNPUとセキュリティ機能を備え、ハイブリッドワークを意識したニーズに応えるモデルとして注目されている。

AI PCは3年後半分のシェアへ? いまは限定的だが、選択肢を広げるために前向きに投入していく

2024年はノートPCの新時代と呼べるほど、大きな変化が訪れている。AI PC新時代に各メーカーに取材していく企画・第1弾は、日本HP。

 2024年はパソコン市場に大きな変化が生じ始めた1年だ。マイクロソフトの主導で「Copliot+ PC」という新しいカテゴリーのノートパソコンも登場しているが、その一方で生成AIのブームは一過性のものだと言う人もいる。

 

 だが、果たしてそうだろうか? ここで歴史を少し振り返ろう。1970年代の後半に登場したパソコンは1990年代、大きな変化に直面化した。それが標準化とインターネットだ。パソコンが各家庭に当たり前のように入り、みんながインターネットに接続できる環境が整い、2000年の初頭には常時接続やブロードバンドが当たり前になり、パソコンを使って世界中の様々な情報を検索し、場所や時間の制約を超えて人とやりとりできるようになった。結果、情報伝達の有様に革命がおこった。編集部ではChatGPTに象徴される生成AIの登場は、このインターネットの登場に匹敵する大きな波であり、パソコン業界が直面している第3の波だと考えている。

 

 その証拠として、グーグルはGeminiに展開し、マイクロソフトからはCopilotが登場した。生成AIに関しては、消極的に見えたアップルもApple Intelligenceを発表したばかりだ。

 

 時代は「AI」に向けて加速している。そんな中、登場したのがCopilot+ PCだ。その特徴はクラウドに問い合わせることなく、パソコンの中で生成AIの複雑な処理をこなせる点。そのために必要な高性能をマイクロソフト定義し、その仕様を満たすパソコンの開発を各社に働きかけている。

 

 本連載ではノートPCの新時代に置いていかれないために、AI PCを取り扱う大手メーカーに取材・インタビューしていく企画となっている。

 

AI PCは3年後におよそ半分のシェアになると予想

 記念すべき第1弾は、日本HP。個人向けから企業向け、ワークステーションまで多岐にわたる製品ラインに加え、プリンター事業がある。PCでは、国内においては法人向けが強いが、個人向けにも力を入れており、Copliot+ PCも6月からいち早く市場投入している。

 

 以前から、AI技術によってパソコン(PC)を「パーソナルコンピューターからパーソナルコンパニオン」に変えていきたいというメッセージも発していた同社。だからこそ、AI PCが今後、個人や企業、社会全体にどう影響を与えていくのか、市場をどう変えていくのかについて考えているだろう。そう考えたのが取材した理由だ。

 

 インタビューをしたのは、PC事業の責任者であるパーソナルシステムズ事業本部長の松浦徹氏と、個人向けのPCのプロダクトマネージャーである吉川直希氏だ。

 

――今日はお時間いただきありがとうございます。2024~25年は大きな市場の変わり目だと思います。

 

 来年の10月にWindows 10のEOS(サポート終了)があり、特に法人PCを中心に入れ替えがどんどん進んでいくだろうとみています。いろいろな調査機関のデータでも、今年の後半から、来年の10月にかけて(法人PCは)大きく伸びるだろうと予測しているので、弊社としても市場の伸び以上に事業を成長させていけたらと思っています。

 

 (Windows 10 EOSに関係したPCのリプレースは)先に大手企業から入れ替えが進み、比較的中規模であったり、小規模の企業というのは来年に向けて入れ替えが進んでいくと考えています。

 

 弊社がAI PCと定義しているNPU(Neural Processing Unit)を搭載したPCの割合については、3年後には販売ベースで概ね半分にまで成長するのではないかと。

 

――Windows 10のEOSに合わせたタイミングでは、まだ半分にはいかないと?

 

 そうですね。来年にはまだその数にはいかないかなと。ただこれを機に、次の3~4年間を見据えてAI PCに買い替えるというお客様もいるかと思うので、弊社としても今後もAI PCと呼ばれる製品をきちんと市場に投入して、新しい市場のニーズに応えていきます。

 

 AI PCじゃない、従来型のPCも提供していくことで、幅広いお客様のニーズに応えていきます。そのために幅広いラインアップを揃えたいと思っていますし、(現在も)やっていることです。

 

――AI PCについて、企業と個人ではどちらが導入の意欲が高いですか?

 

 どのくらいの数かは別として、身軽にいろいろ試してみたいと思う人は、個人のお客様の方が多いと思います。我々はクアルコム製のSnapdragon Xシリーズを搭載したPCを発売しましたし、AMD Ryzen AIを搭載したPCもいち早く発表しており、新しいテクノロジーを試してみたいというユーザーのニーズにもお応えしていきます。

 

パーソナルコンピューターからパーソナルコンパニオンへ

――私は法人こそ、AI PCを導入すべきだとも思います。そういう考えはまだ浸透していませんか?

 

 そうですね。PC自体はもともと生産性を上げるためのツールとなっているので。我々としては、“パーソナルコンピューターからパーソナルコンパニオンへ”と言っています。

 

 生産性を上げることの重要性は個人も企業も変わりませんが、AIを入れることで、よりユーザーがやりたいことをやりやすくするとか、それを効率的にする、効果的にするということに役に立てるような形になっていきます。そういう意味では、できるだけAI PCを使ってもらいたいという思いはあります。

 

 いまのAIはクラウドベースで動かすのが一般的ですが、AI PCなど、エッジ(パソコンなどの端末側)でAIを動かしていくことで、まずはスピードが速くなっていきます。また、さまざまな場面でやり直しが必要なときがあると思いますが、何回もトライすることで、よりクリエイティビティーだったり、プロアクティビティーが上がっていきますね。

 

 あとは、クラウドでAIを使用する際に生じるコストも、ローカルだけでできると安く済むという面もあります。消費電力についても、クラウドでやるのか、PCでやるのかを役割分担することで、より効率的な電力消費にできると思うので、社会においても意味があるのかなというふうに思います。

 

――AI PCの登場で、インターネットの登場に匹敵する変化が訪れそうです。

 

 私は“AI PC元年”と勝手に言っていますが、クラウドAIからエッジAIなどといった風に、AIがつかえる場所が多様化していきますね。

 

――「HP OmniBook Ultra 14 AI PC」には個人PCとして初となるWindows Wolf Securityも搭載されたと聞きました。

 

 今までの比ではなく個人情報がPCに入ってくるので、セキュリティはすごく大事になってくると思うんですよね。パーソナルコンパニオンになるということはパーソナルなこともどんどん知っていくということになるので。

 AI時代だからこそ、ハード・ソフトウェア両面でセキュアにしていくというのは一層大事になってくると思います。

 

現物は初公開? 発表されたばかりの機種も体験

 インタビュー中には販売中の「HP OmniBook X 14」に加え、発表直後の「HP OmniBook Ultra 14 AI PC」の実機も体験できた。

 HP OmniBook Ultra 14 AI PCに関しては、メディアに現物を見せるのは初めてということだ。

 

 日本HPは今後個人向けパソコンを「Omni」シリーズのブランドで統一していくそうだ。5月に発表されたHP OmniBook X 14はまさにその第一号モデルとなる。そして、現状ではHP OmniBook Ultra 14 AI PCがOmniシリーズの最上位モデルとなる。

 

 “あらゆるニーズでつかえる”というのが個人向けPCの今後の姿であるという考えのもと、ハイブリットワークを超えた、Omni(すべて)でユーザーに応えていく意味合いで、リブランディングをしたということだ。

 

 またHP OmniBook X 14から刻印されるようになった「HP AI Helixロゴ」にも注目だ。これは、40TOPS以上のNPUを積んだPCにつけられる特別なロゴとなる。

 

 スペックに関してだが、Snapdragon X採用のHP OmniBook X 14は45TOPSで、高いAI性能とともに、バッテリーで26時間駆動するのが大きな特徴。他社にはない、英字キーボードを採用したところも差別化できるポイントだ。

 

 HP OmniBook X 14について同社は、個人向けに販売しているが、特にフリーランスなどをターゲットとしているようだ。なので、テクノロジーを使ってとにかく生産性を上げたいといった人たちに触ってほしいと話していた。

 

 今回、触らせてもらったセラミックホワイトのモデルはツルツルとした質感でまるで陶器のようだった。

 

 担当者によると特殊な加工をしていて、引っかき傷や指紋などにも強い塗装になっているそう。“白だから汚れる”を覆すようなモデルになっているので、白いノートPCが欲しいユーザーにはオススメかもしれない。

 

 一方、HP OmniBook Ultra 14 AI PCはHP、AMDとの共同開発によって、なんと55TOPSのNPU性能を発揮するAI PCになっているそう。通常のRyzen AI 300シリーズでは50TOPSが上限だ。

 

 スピードやパフォーマンスに加えて、カメラ性能も非常に高い。HP OmniBook X 14は500万画素なのに対して、HP OmniBook Ultra 14 AI PCは900万画素のカメラを搭載している。その上、AIをつかったカメラ補正機能も利用できる。

 

 さらにセキュリティに関しても「Windows Wolf Security」や生体認証を備えているので、ハイブリットワークを強く意識したモデルになっているという。

 

 プレミアムモデル「Spectre」シリーズを踏襲し、背面の角にインターフェースが備えられているのもポイント。外部ディスプレーにつなぐときなどに便利な配置になっているのではないだろうか?

 

時代ごとに最適なPCを提供する日本HPという企業

 コロナ禍を経て、ハイブリットワークへと時代が変わる以前から、HPは個人向けであっても仕事で安心してつかえるということに目を向けていた企業だと思う。

 

 個人向けPCであっても、生体認証であったり、CPUとGPUをつかってカメラ補正機能などを提供していたのがそのいい例だ。コロナ禍を経てユーザーがパソコンに求めるニーズは変化している。例えば、マイク性能を意識するユーザーは以前はとても少なかった。HPでは買収したPolyのテクノロジーを活用することによって、音響面やノイズキャンセル技術などを強化している。

 

 松浦氏はインタビュー内でいち早くユーザーに最先端のものに触れてほしいという想いからAMD Ryzen AI搭載のノートPCを発表していると語っていた。

 

 「パーソナルコンピューターからパーソナルコンパニオンへ」というメッセージも印象的だった。多様なニーズに応えられる充実したラインアップを提供したいと考えるHP。ノートPCの新時代に入った2024年以降もきっと多くのユーザーのニーズに合わせた製品を市場に投入してくれるはずだ。

 

文● ASCII/市川