日本市場に1億ドル投資 ― クアルトリクス CEO「体験管理の素地が整った」

AI要約

クアルトリクスCEOが日本市場への1億ドル投資を表明

クアルトリクスがAIに注力し、日本市場での需要と課題

クアルトリクスのXMソリューションとAI機能の展開計画

日本市場に1億ドル投資 ― クアルトリクス CEO「体験管理の素地が整った」

米QualtricsのCEOであるジグ・セラフィン氏は、日本のユーザー企業、パートナーに対して「今後5年で日本市場に1億ドルを投資する」と、日本市場へのコミットを表明した。

 クアルトリクス(Qualtrics)は、2024年7月24日、都内で年次イベントの日本版である「クアルトリクスカンファレンス」を開催した。来日した本社CEOであるジグ・セラフィン(Zig Serafin)氏は、日本のユーザー企業、パートナーに対して、「今後5年で日本市場に1億ドルを投資する」と日本市場へのコミットを表明した。

 

日本市場に5年で1億ドルを投資 ― 「土台は整った」とCEO

 クアルトリクスは、体験を管理するXM(eXperience Management)ソリューションにて、顧客と従業員向けの体験管理をクラウドで提供している。

 

 セラフィン氏によると、Fortuneが選ぶもっとも賞賛される企業50社のうち、43社がクアルトリクスを利用。日本のユーザー数も500社を上回り、その中にはLIXIL、ヤマハ発動機、マツダなども含まれる。

 

 LIXILは従業員向けに活用し、「わずか5ヶ月で、従業員エンゲージメントを10%向上させた」という。またBMWグループは、日本にて顧客向けの体験管理として活用、「90%の顧客に対して、3日以内にディーラーがフォローアップできる体制を構築して、顧客ロイヤリティと再購入率を改善させた」という。

 

 クアルトリクスが目下注力するのがAIだ。「Qualtrics AI」として、同社の体験管理のデータをベースに、AIの開発を進めている。

 

 セラフィン氏は、人口減少などの問題から日本では特にAI活用が重要になると予測する。実際、同社が行った年次サーベイでは、日本のCEOの50%がAIを活用していると回答、米国の38%、欧州の28%を上回った。「日本企業は、AIは“仕事を奪う”のではなく“仕事を簡単にする”ということに気がついている。AIを活用することで、競争力を養うこともできる」とセラフィン氏。

 

 一方、日本の課題として、顧客体験で“7.6兆円の機会を失っている”、従業員体験でも“2021年からウェルビーイングが14ポイント下がっている”、といった調査結果も紹介した。

 

 このような状況下の日本市場に対して、「5年間で1億ドルを投じる」とセラフィン氏は約束する。「日本企業が顧客そして従業員の両方により良い体験を提供し、収益性を改善して売り上げを加速させる、これをクアルトリクスは支援する」(セラフィン氏)。

 

 クアルトリクスは2023年、グローバルでAIに5億ドルを投資する計画を明らかにしており、日本市場への1億ドルはこれに追加する形となる。

 

 講演後、セラフィン氏に投資のタイミングについて聞いたところ、「現在クアルトリクスは、日本のほぼ全ての業界でユーザーを抱え、土台が整った状態にある。私が説明した日本市場から感じている兆候は、米国でも少し前に経験していたものであり、投資のタイミングとして良い時期にある」と述べた。

 

 また、グローバル企業の日本展開、あるいは日本企業のグローバル展開などが進んでいることも背景にあるという。「日本市場には大きな需要があり、市場のオペレーションを加速させていく」とコメントした。

 

 1億ドルの具体的な投資内容として、データ機能の追加、AI機能の日本語化、XM専門家の増員などが挙がった。日本法人を率いる熊代悟氏(カントリーマネージャー)は、「製品、特にAIに投資する」と強調する。

 

XMに特化したAIで「ビジネスをもっと人間らしく」

 クアルトリクスのXMソリューションは、7年前に発表したXM専用のオペレーションシステム「XM/OS」を基にしている。体験に関する情報から、一人一人のプロファイルを作成する「xID」で”記憶”を蓄積し、感情分析などを利用してxIDにある記憶から重要なパターンやシグナルを見出す「iQ」で理解を深め、ワークフローの「X Flow」により、組織全体の”神経系”として必要なアクションがとれるようにする。

 

 このXMソリューションにAIが加わることで、大規模なデータの理解やスケールのある形でのアクション実行が可能になる。

 

 セラフィン氏は自社のAIである「Qualtrics AI」の特徴として、「世界最大級の人間のシグナルとインサイトのリポジトリを基盤としている」と述べる。100以上のAIモデルを持ち、xIDと連携して学習し、記憶する。セキュリティやコンプライアンスも確保され、それを拡張性をもって実行できる。

 

 これらの機能を通じて目指すのは「ビジネスをもっと人間らしく」だ。「一人一人を深く理解し、企業と従業員、企業と顧客の結びつきを強める」とセラフィン氏。

 

 AI機能の詳細を説明したのは、XMストラテジー シニアディレクターの久崎智子氏。日本で2024年秋に展開予定の「インタラクティブダッシュボード」、「会話型フィードバック」などが紹介された。

 

 インタラクティブダッシュボードでは、チャット形式でやり取りする「Qualtrics Assist」を使って、より深い洞察を得られ、効率化も進められる。集計したアンケートについて取るべき行動を尋ねたり、その結果を知らせるメールの下書きを作成してもらったりといった活用方法だ。

 

 会話型フィードバックは、顧客の回答に動的に対応する機能だ。例えば、「体験はどうでしたか?」という質問に「最悪だった」などという自由回答がされた場合は、追加で「何が悪かったのかお聞かせください」と言った質問を投げてフォローアップを行う。

 

 さて最後に、“体験を売る”クアルトリクスらしいユニークなサービスを紹介しよう。同社は、毎年米国・ユタ州ソルトレークで開催する「X4」で、「Dream Team」というサービスを提供している。

 

 Dream Teamは、イベントの「体験」向上のために、参加者から送られた“要望”に応えるサービス。2024年のX4では、「コーヒー持ってきて」といった穏やかなお願いから、「最新のiPadがほしい」という無茶なお願いまで寄せられたという(もちろん、コーヒーはOKだが最新のiPadは却下された)。筆者も試してみたところ、ちゃんと要望が叶った。

 

 このDream Teamが、日本のイベントでも展開されていた。参加者の願いを叶えようと走り回っているのは、クアルトリクスの社員約20人。スタッフによると、コーヒーのリクエスト、空調の調整に加えて、名古屋からの参加者からは、「子供が英語の試験でいい成績だったのでお土産を買いに行きたいけど時間がない。何かいいものを」といったリクエストもあったそうだ。

 

文● 末岡洋子 編集● 福澤/TECH.ASCII.jp