やっと自宅を「Wi-Fi 6E」化! 「法人向け」の、ルーターではなく「アクセスポイント」を導入してみた

AI要約

最新の無線LANはWi-Fi 7だが、PCやスマートフォンの対応機種はまだ少なく、ようやくWi-Fi 6E対応が当たり前になってきたところ。

Wi-Fi 6Eにすることで、通信速度が向上する可能性があり、帯域幅の拡大による速度アップが期待できるが、機器の設置や設定に注意が必要。

法人向け製品の導入には、最大接続デバイス数の多さやトラブル時の対応のしやすさなど、家庭向け製品とは異なるメリットがある。具体的な製品や設置方法についても紹介されている。

やっと自宅を「Wi-Fi 6E」化! 「法人向け」の、ルーターではなく「アクセスポイント」を導入してみた

 最新の無線LANはWi-Fi 7だが、PCやスマートフォンの対応機種はまだ少なく、ようやくWi-Fi 6E対応が当たり前になってきたところ。Wi-Fi 6Eでは、従来のWi-Fi 6までの2.4GHz帯と5GHz帯に加えて、6GHz帯も使えるのが大きな違いだ。

 オフィスや自宅では今のところWi-Fi 6環境が多いと思うが、それをWi-Fi 6Eにして周波数帯が増えると何がうれしいのか、速度アップの効果はあるのか、といったあたりが気になるのではないだろうか。

 というわけで今回、筆者の宅内ネットワークをWi-Fi 6Eにアップグレードしたので、そのあたりを確かめてみることにした。選んだのは家庭向けの最新Wi-Fiルーター……ではなく、ルーター機能のないアクセスポイント、かつオフィスなどに設置されることが多い法人向け製品だ。

■ Wi-Fi 6Eにすれば高速化する? 電波強度と通信速度をチェック

 筆者宅でこれまで使っていたのは、Wi-Fi 6対応アクセスポイントである「WAX218」。新たに導入したのが、Wi-Fi 6E対応の「WAX630E」というモデルで、いずれもネットギアの製品だ。

 この2機種を使って、さっそくWi-Fi 6E化による自宅内のWi-Fi環境の変化を、検証していこう。

 ここでは電波強度を視覚的に把握可能にするスマホアプリ「Wi-Fiミレル」と、ネットワーク内の2点間の通信速度を調べる「iPerf3」を利用して、違いを確認した。クライアント端末にはWi-Fi 6E対応のスマホ「Google Pixel 8 Pro」を使用している(WAX218は過去の計測データを利用した)。検証場所である筆者宅は2階建て(とロフト)の木造住宅だ。

 まずは機器変更前後の変化を知るため、5GHz帯同士で比較した。下記の間取り画像は宅内の各所で電波強度(目安値)とその地点における通信速度を計測したものだ。

 電波強度に注目してみると、WAX218とWAX630Eとでつながりやすさはほとんど変わらない。が、通信速度はかなりアップしていることが分かる。

 これは、WAX630Eの5GHz帯で160MHzの帯域幅を利用できるようになったためと考えられる(WAX218は80MHzまでの対応)。同じ5GHz帯でも2倍の帯域幅になったことで高速化したわけだが、注意しなければならないのは「DFS(Dynamic Frequency Selection)」の存在だ。

 DFSでは、気象レーダーや航空機レーダーなどが利用するレーダー波を検知した場合に、160MHzの帯域幅がカバーする特定のチャンネルが通信不可となる。通信中にいきなり切断される恐れがあるため、ビジネスシーンのように、それが致命的な問題となる状況では安全をとって80MHzまでに制限した方が良いだろう。

 続いては5GHz帯、および6GHz帯における電波強度と通信速度の比較。いずれも帯域幅は160MHzとした。これを見ると、6GHz帯は5GHz帯に比べて電波の届く範囲が明らかに狭く、通信速度も全体的に落ちてしまっている。

 アクセスポイント至近距離からの計測だと1.2~1.3Gbpsとあまり差がないことから、6GHz帯は5GHz帯よりもさらにカバー範囲の面でシビアなようだ。「Wi-Fi 6Eにすれば必ず高速化する」わけではないうえに、カバー範囲を広げるメッシュネットワークにすることの重要性は5GHz帯のときよりも一段と高まっているように感じる。

 では、1台のみのWi-Fi 6Eアクセスポイントにするメリットはないのかというと、そうとも言い切れない。5GHz帯対応のデバイスはすでにたくさん存在するが、6GHz帯に対応するデバイスとなるとまだ少ないからだ。単純に混雑の度合いが変わることから、6GHz帯対応のデバイスは相対的に高速通信できる率が高まる可能性がある。

 それをある程度裏付ける検証結果が下記のグラフ。2台の端末(Pixel 8 ProとiPhone SE)で同時にiPerf3を実行したときのPixel 8 Proの通信速度を記録したものだ。2台の端末が5GHz帯で同時通信したときと、1台は6GHz帯、もう1台は5GHz帯で同時通信したときとを比較している(端末ごとに異なるサーバー機材上のiPerf3サーバーと通信させている)。

 5GHz帯で同時通信したときは通信速度の低下が顕著だが、一方が6GHz帯のときは先ほどの1台だけ通信したときとほぼ変わらない速度を保っている。このような高負荷の通信が家庭内で同時に発生することはまれだとは思うが、混雑していない6GHz帯をうまく活用することで、他の帯域を使うデバイスの通信状況に関係なく高速通信を実現できることは間違いないだろう。

■ なぜWi-Fi 7ではなくWi-Fi 6Eにしたのか

 改めて紹介すると、今回テストするにあたって筆者宅に導入したのは、ネットギアの法人向けWi-Fi 6E対応アクセスポイントの「WAX630E」という製品。以前は同じく法人向けアクセスポイントであるWi-Fi 6対応の「WAX218」だった。次世代のWi-Fi 7が登場している今「なぜWi-Fi 6Eなの?」と思う読者もいるかもしれない。

 なぜWi-Fi 6Eを選んだかというと、まず日本国内ではWi-Fi 7に関わる周波数の認可はされているものの規格としてはまだ策定中でFixしていない状態だというのが1つ(2024年12月に策定完了予定とされている)。

 クライアント側の対応・普及ももう少し先になるだろうし、Wi-Fi 7においてポイントとなる320MHzの帯域幅やMLO(Multi-Link Operation)が有効なデバイスとなるとおそらく数は限られ、最大46Gbpsという理論上の最大スペックに対応する機器が登場するかどうかもまだ分からない。

 そもそもWi-Fi 6/6Eにおいても、規格上の最大通信速度(9.6Gbps)を実現する環境は、今に至っても一般ユーザーが使えるものとしては存在していない。といったことを考えると、急いでWi-Fi 7対応ルーターを選択する理由はあまりなさそうだ、というのが筆者の出した結論だった。

 そんなわけで「WAX630E」のスペックを簡単に説明すると、同製品はWi-Fi 6Eの6GHz帯に対応するアクセスポイントで、理論通信速度は6GHz帯が2402Mbps、5GHz帯が4804Mbps、2.4GHz帯が574Mbpsとなっている。十分な帯域のトライバンドと、有線のバックホールに2.5GbEを採用していることで、混雑の少ない高速通信を可能にしている。

 詳しくは後述するが、取り付け方法は壁か天井が基本。PoE++(Power over Ethernet、IEEE802.3bt)対応で、同じPoE++対応のネットワークスイッチなどからLANケーブルを1本接続するだけで通信と電力供給が同時に行える。オフィス環境におけるWi-Fi電波の広がりや設置性の高さに配慮した製品だ。

■ 法人向けアクセスポイントのメリット

 自宅であるにも関わらず、なぜこのような法人向けの、しかもWi-Fiルーターではなくアクセスポイント単体を選んだのかというと、

・最大接続デバイス数の多さ

・壁や天井などへの設置がしやすい設計

・PoE給電によるシンプルな配線が可能

・トラブル時の原因特定や対応のしやすさ

・Wi-Fi設定のきめ細かなカスタマイズ

 といったあたりが理由になる。

 先ほどの速度検証を見ても分かるように、法人向け製品だと通信がめちゃくちゃ高速になる、ということはない。それよりは利用者(デバイス)数が多い環境で安定して動作すること、広いフロアでも効果的に電波が届くように設置できること、その他管理・運用面における対応幅の広さや効率の高さ、といった部分が重視されている。

 上記のうち筆者宅においても一番大きなメリットは「1. 最大接続デバイス数の多さ」だ。

 近頃はPCやスマートフォン、タブレットに留まらず、家電やスマートホーム製品などWi-Fi通信するデバイスがどんどん増えている。スマートホーム製品を活用したり、最新家電を多く使っている家庭であれば、数十もの機器が1つのWi-Fiアクセスポイント(ルーター)に集中的に接続することもあるはずだ。

 ところが、家庭向けのWi-Fiルーターだと同時接続可能なデバイス数の上限はそれほど高くない。概ね32台前後(有線接続したデバイスが含まれることもある)で、接続デバイス数が上限に近づくか上回った場合、通信できなくなったり、接続が解除されてしまったりなど、挙動が不安定になることがある。

 筆者宅では、スマートホーム機器も含めるとWi-Fi接続デバイスは常時20台を超える。他に必要に応じて電源を入れる機器もあり、仕事絡みでお借りする製品が一時的に増えることもあるので、30台を突破するのも珍しくない。それを考えると接続可能台数は多ければ多いほどいいので、キャパシティの大きい法人向け製品を選んだわけだ。

 もう1つ、自宅で利用するうえでは「4. トラブル時の原因特定や対応のしやすさ」も都合がいい。Wi-Fiルーターに相当する機能がないアクセスポイントのため、たとえば「いきなり通信できなくなった」など何らかのトラブルが発生したとき、その原因がルーター本体にあるのか、アクセスポイント(Wi-Fi)にあるのか、という切り分けが早い段階で行える。

 また、インターネット接続サービスのなかには特定の(レンタル)ルーター製品の使用が必須のケースもある(筆者が契約しているauひかりはまさにそのような制約がある)。そこに別途Wi-Fiルーターを追加すると二重ルーター状態となり、デバイスの接続の仕方によってはトラブルの原因にもなりかねない。

 単純な例で言うと、同じLANに接続しているはずのNASが、PCやスマホから見えずアクセスできない、といったような問題に遭遇しがち。通信速度が低下する場合もあるし、特定のネットコンテンツが利用できなくなるケースもある。そのため、追加したWi-Fiルーターをブリッジモードにして、ルーターの機能は無効にしなければならなかったりする。

 すでにルーターがあってそれを交換できないのなら、そこからさらにルーターを追加する意味はあまりない。元からルーター機能のないWi-Fiアクセスポイントを選ぶのは、ネットワーク構成をシンプルにして管理しやすくし、トラブル防止にもなるなど合理的な面もあると思っているのだ。

 続いての「2. 壁や天井などへの設置がしやすい設計」「3. PoE給電によるシンプルな配線が可能」「5. Wi-Fi設定のきめ細かなカスタマイズ」については、筆者の好みや事情が多分に含まれるかもしれない。

 筆者宅は持ち家なので、壁などへの穴開けは本人の覚悟次第。言い換えれば好き放題やれる。狭い家だからこそ、一番邪魔になりにくい壁設置ができることは重要で、それでいて一番効果の大きそう(電波が届きやすそう)な場所が選べる自由度の高さは魅力なのだ。

 PoE給電は、単純に「見た目のシンプルさ」である。LANケーブル以外にもう1本電源ケーブルを配線するとなると、特に壁設置の場合はモール(ケーブル隠し)などで工夫しない限り一段とだらしない感じになる。設置の自由度を損なわないためにもPoE対応は外せない。

■ ネットギア「WAX630E」の製品としての強みとは

 そうした観点で見たとき、WAX630Eという製品はどうなのか?

 最大接続数は2.4GHzで128台、5GHzで200台、6GHzで128台、合計456台もの圧倒的なキャパシティを誇る。我が家でもオーバースペックかもしれないが、これなら将来にわたって不足することなく使い続けられるだろう。

 設置方法は基本的に壁か天井のどちらか。付属しているアタッチメントと金具を使うことで、壁掛けや天井(ダクトレール)への固定が可能だ。そのまま平置きしたり何かに立てかけたりして使ってもいいが、不格好になってしまうだろう。

 筆者宅では付属のアタッチメントと金具に、ホームセンターで調達したステーなどを組み合わせ、角度調整できる形で壁掛けした。以前のWAX218で利用していたものを少しカスタマイズしたものだ。付属品の本来の使い方とは異なるのでおすすめはできないが、強度的には全く問題なく、壁から少し距離ができるため放熱面でも有利と思われる。

 PoE受電はPoE++に対応する。給電能力がそれより低いPoE+(IEEE802.3at)でも動作可能だが、その場合は電波出力などが制限されるため本来の性能を発揮できないことがあるようだ。

 PoEの代わりに別売のACアダプタ-も使用可能だけれど、壁掛けだと電源ケーブルの引き回しが難しい場合もあるし、見た目重視であれば、やはりLANケーブル1本の配線で済むPoE環境にするのが理想だろう。

 PoE++対応ネットワークスイッチは、そうではないスイッチと比べて高額なのが悩ましい。が、今回のように1ポートだけ対応できればいいという場面では、スイッチの代わりにPoEインジェクターが使える。入力したデータ通信のみのLANケーブルに電力を乗せて再出力してくれる機器だ。

 WAX630Eは2.5GbEでのLAN接続が可能なため、PoEインジェクターも2.5GbE対応のものを選びたい。選択肢は多くないが、おすすめはプラネックスの「INMG-BT60I」。2.5GbEとPoE++に対応しながら、片手でつかめる程度のコンパクトな筐体が特徴で、価格は実売1万4000円前後と、性能の割にはお手頃だ。

 運用・管理に関しては、WAX630Eを1台だけ導入する形であれば、本体が備えるウェブベースの管理画面で十分。2台以上または複数拠点に導入するようなときは、メッシュネットワークの設定やクラウド管理のために「Insightサブスクリプション」の登録が推奨されている。サブスクサービスなので有償だが、「Insight Premium」プランでは1台あたり年額1125円(月額ではなく年額!)と負担は意外に小さい。

 本体価格は2024年7月時点で実売5万5000円前後。これは家庭向けWi-Fi 6E対応ルーターが1万円台から、Wi-Fi 7対応ルーターでも2万円台から購入できることを考えればお高めではある。

 ただ、WAX630Eは法人向け製品ということで標準の保証期間が5年と長い。家庭向け製品だと1年のパターンが多く、将来的に費用負担がかさむ可能性がある。安心して長く使えるのも、法人向け製品のいいところなのだ。

■ 法人向け製品の自宅導入およびWi-Fi 6Eへのアップグレードは有効なのか

 まとめると、ネットワーク環境をWi-Fi 6からWi-Fi 6Eにアップグレードすることで、帯域幅が拡大するのであれば明らかな速度向上が見込めるが、そうでないならかえって速度低下する可能性がある、ということになる。

 ただし、これはアクセスポイントを単体で使用したときの話だ。アクセスポイント2台以上のメッシュネットワーク構成にすれば、到達範囲の狭さをカバーし、6GHz帯のメリットを十分に生かせるようになる。

 それには5GHz帯のときよりも緻密な機材配置が必要になり、コストアップも覚悟しなければならない、という懸念点はあるにしろ、Wi-Fi 6Eにすれば今後デバイスが増えてもネットワーク全体の通信速度を高く維持し続けられる、という強みがあることは覚えておきたい。

 最後に、筆者宅に導入したWAX630Eの主なメリットをまとめると下記のようになる。

・トライバンドの使い分けで高速化と負荷軽減が可能

・最大接続デバイス数の多さにより安定性と安心感がアップ

・保証期間の長さなどによってトータルコストを低減

 一方で、個人宅への導入においては一般的には「壁掛け・天井設置が基本」「初期コストが大きくなる」といったところがデメリットになる。このあたりが気にならないなら、WAX630Eのような法人向けWi-Fiアクセスポイントを選んでも損はないはずだ。

 ちなみに、メリットの1つ目にある「トライバンドの使い分けで高速化と負荷軽減が可能」については、WAX630Eならではの応用テクニックで効果をさらに高められる。というのも、WAX630Eでは複数のSSIDを同時に運用し、SSIDごとに有効にする周波数帯や通信帯域を変えるような設定も行えるからだ。

 たとえば、常に高速通信させたいPCなどの端末は6GHz帯のSSIDに接続し、それ以外は5GHz帯や2.4GHz帯のSSIDに接続させる、といったことができる。仕事用デバイスと子供のゲーム機とで接続先をきっちり区分けしておけば、重要な仕事上の通信が妨げられることはない。

 他にも、Wi-Fiを部分的にオン・オフするスケジュール設定でセキュリティ強化や節電につなげられる設定、柔軟な帯域制限の仕組みなども用意されている。家庭向けWi-Fiルーターではあまり見かけない実用度の高い機能が使えるという意味でも、法人向けアクセスポイントを選ぶ価値はあるのではないだろうか。