東京ドームを“XRの聖地”に 200名以上が参加した『enXross 2nd』ハッカソンレポート

AI要約

7月4日、『enXross 2nd』が東京ドームシティで開催された。エンターテインメントとイノベーションが交差する体験を生み出すプロジェクトで、XRが大きな軸になっていた。

ハッカソンでは東京ドームをXRの聖地にするためのプロダクトを開発するため、200名以上の参加者からファイナリストが選ばれた。グローバル展開も注目され、多様なアイディアが提案された。

最優秀賞を獲得したチームU.Dのプロダクト「ウルトラ調査隊」はARグラスとNFCカードを使用し、東京ドームを未来のゲームセンターにするコンセプトでデジタル拡張を披露した。

東京ドームを“XRの聖地”に 200名以上が参加した『enXross 2nd』ハッカソンレポート

 7月4日、『enXross 2nd』が東京ドームシティにて開催された。これは東京ドームシティが主催となって、エンターテインメントとイノベーションの交差によってもたらされる体験を生み出す目的で発足されたプロジェクトだ。

 二回目の開催となる今回は、XRが大きな軸に。 一回目にも行われた「enXross HACKATHON」は、「東京ドームをXRの聖地にしよう」というテーマの元、エンターテインメントとXR技術を組み合わせた、未来の東京ドームともいうべきプロダクトを開発すべくおこなわれた。

 イベント当日は総勢200名以上の参加者から選ばれたファイナリストたちがプレゼンテーションをおこない、開発ユニット・AR三兄弟やXRアーティスト・せきぐちあいみ氏を始めとする審査員らが受賞作品を選定。最優秀賞には賞金300万円とシンガポールで開催されるXRカンファレンス『AWE Asia 2024』への参加権が贈られた。

■10組中5組が海外チーム 200名以上の参加者からファイナリストが集結

 「enXross HACKATHON(以下、ハッカソン)」には国内のみならず海外からの参加も含まれ、10組中5組が海外のチームというグローバルな展開に。

 ハッカソンは東京ドームを舞台にしたXR技術との交差によって、新しい体験を創出し、「東京ドームをXRの聖地にする」ことをミッションとして掲げている。

 東京ドームといえば、プロ野球の試合や著名アーティストたちによるコンサートが行われる、様々なジャンルにおける「聖地」。くわえて、東京ドームシティ内にはアトラクションや、舞台ホールなどもあり、一言では言い切れない魅力にあふれた場所だ。参加者達は、そんな場所を新たに「XRの聖地」とするために必要な魅力的なプロダクトを作り出す、という内容になっている。

 今回のハッカソンでは、ウルトラマンや怪獣など、スポンサーでもある円谷プロダクションのキャラクターや、コトブキヤのアバター『プレタコンポジッタ』をアセットとして使用できたことから、これらを活用したプロダクトが多数見受けられた。

 また会場内には「奨励プレゼンテーション」として、惜しくもファイナリストからは漏れてしまったものの、意欲的な作品をプレゼンするための場が設けられ、さながらストリートライブのように賑わう場面も。

 プレゼンテーション全体では様々なアイディアが飛び交い、東京ドームを音楽ライブ会場にしたり、怪獣を集めるアトラクションを作ってみたりと、さまざまなアイディアが寄せられた。また、メタバース空間との接続や、XR技術での人流測定など、AR/VR/MRを問わず、幅広いXR技術の活用が見られた。

こうした幅広いプレゼンテーションで、多種多様な“未来の東京ドーム”が提示される取り組みだったと言える。

■最優秀賞に輝いたのは東京ドームをIPで“拡張”するARプロダクト「ウルトラ調査隊」

 本ハッカソンでは最優秀賞と優秀賞のほか、スポンサーによる特別賞「パートナー特別賞 」として5つ賞が設けられた。受賞したチームは以下の通り。 

アイドマ賞:なかむーと焼肉「だれでも!ARゲームメーカー」

日立賞:TrailblaXRs「The secret world of Tokyo Dome」

Niantic賞:FujitoMatsubara「Bazariba in Tokyo Dome City」

IMMARSAL賞:Mouri45「東京ドームシティ ドリームジャーニー」

円谷フィールズホールディングス・メタフィールド賞:ESSS「かいじゅうステップめり~ご~さうんど☆」

 このうち、Niantic賞「Bazariba in Tokyo Dome City」と円谷フィールズホールディングス・メタフィールド賞「かいじゅうステップめり~ご~さうんど☆」の二作品はファイナリストには残らなかった作品だった。まさかの受賞で、参加者にとってはうれしいサプライズだったのではないだろうか。

■優秀賞:WeaverseLab「WeavedCity」

 賞金100万円が用意された優秀賞には、WeaverseLabが開発した「WeavedCity」が選ばれた。「WeavedCity」は、東京ドームに設置されているデジタルサイネージを通じてメタバース空間と現実を接続してコミュニケーションを可能にするプロダクトだ。

 仕組みとしては、メタバース内にある東京ドームシティを模したワールドと、現実の東京ドームシティをつなぐというもの。現実にサイネージが設置されている箇所にはライブカメラが置かれ、メタバース内と現実の東京ドームシティをリアルタイムで接続することで、コミュニケーションを可能する。

 メタバース内からのステージパフォーマンスや案内業務など、仕事をメタバース上から行えるようにすることで、地域格差などの社会課題の解決につながるという。

 プレゼンテーションではステージ上で『Meta Quest3』をかぶり、メタバースプラットフォーム『Resonite』内に入った状態で登壇するというスタイルで、実際に目の前で使ってみせながらプロダクトをアピールしていたのが印象的だった。

 プレゼンターのせきぐちあいみ氏は「デジタルとフィジカルがダイレクトにつながるということや、海外にいる方が気軽に遊びにこれるなど、グローバルな展開もあり可能性に満ちていると思った」と語った。

■最優秀賞に輝いたU.D「ウルトラ調査隊」はIPによる“デジタル拡張フォーマット”を披露

 最優秀賞には、プレゼンテーション時に会場が湧いた「ウルトラ調査隊」が受賞。賞金300万円と、8月にシンガポールで開催されるXRカンファレンス『AWE ASIA 2024』への参加権が贈られた。

 本プレゼンテーションで発表されたプロダクトは、「ウルトラ調査隊」という名称の通り、ARグラスとNFCカードを用いて、「ウルトラマン」に登場するIPたちをARグラスで楽しめるテーマパークだ。

 腕に装着しているガジェットは3Dプリンターで専用のものを制作したとのことで、ARグラスとカード、腕のガジェットがセットになっているところは、かなり遊び心をそそる設計だと思った。

 本プロダクトは、コラボするIPやカードのデザイン、配置などを変更することでさまざまなコンテンツに対応させることが可能。まさに、ARグラスを用いて「東京ドームを未来のゲームセンターにする」というアイディアだ。発展性や遊び心をもとに現実空間を“拡張”するような内容が素晴しかった。

 チームU.Dは、受賞に際してのコメントで「ハッカソンを見たときからこれしかないだろうと思っていたし、以前から一緒にARのプロジェクトをやっているチームで参加したので受賞できて嬉しい」と喜びをあらわにした。

 審査員長を務めたAR三兄弟・川田氏は「大切なのは、XRだからすごいのではなく、XRを使った上でどんな人を楽しませるかということ。今のところXRにハマっている人ってちょっと変わった人ですが(笑)、ガジェットをつけて“向こう側”で楽しんでいる人を見た時に、いかに一般の人が楽しそうだと思ってもらえるか、自分もやりたいと思ってもらえるかが大事」と語った。

■最優秀賞を獲得したチームU.Dのコメント

 発表後、「ウルトラ調査隊」のチームU.Dにお話を伺うと、「檀上では緊張して言えなかった」と、追加でコメントをしてくれた。

「本当はみんなでこの場を盛り上げたいというのが一番言いたかった事でした。僅差でファイナリストに選ばれなかった人たちもあわせて、ひとつのエンタメを作りたい。今後、今回の取り組みが実施されることになったら、今回参加されたクリエイター達みなさんで一緒になってやれたらと思います」

 今回のハッカソンにおいて特筆すべきは、前述したようにファイナリストに残れなかった作品がパートナー特別賞に選出されるなど、ファイナリストと奨励ステージの作品のクオリティに大きな差がなかったことだ。優秀賞、最優秀賞に選ばれた作品は、クオリティはもちろん、プロダクトの意義やデザイン・設計から優れていたのは間違いない。しかし、それだけではない、レベルの高いさまざまな作品を見ることができた。

 東京ドームシティという、さまざまな属性の人びとが行き交う特異な場で、こうしたチャレンジングな試みが行われていること自体に未来を感じるとも思った。

 川田氏が話した、「XRにハマっている人はちょっと変わっている」という認識は、まだまだ世間の中にある。そんな中で、その可能性を信じ、技術研鑽を惜しまずに日々開発を続けているエンジニアたちに拍手を送りたい。