「代理店でもコンサルでもない」I&COが企業の課題を解決する

AI要約

5年間のI&COの変遷、グローバル展開、企業課題へのアプローチ、メンバーの多様性、そして新たな挑戦の展望について記載されています。

会社が直面する課題を解決するために、具体案を提供し、中長期での価値創造を重視して取り組んでいる姿勢がうかがえます。

最新の事例やI&COのアプローチに触れつつ、企業とのパートナーシップを築くためのコツや今後の展望が示されています。

「代理店でもコンサルでもない」I&COが企業の課題を解決する

 企業のブランディング構築や新市場創造を伴走支援するI&COが東京オフィスを立ち上げて約5年が経過した。7月1日は、東京オフィスの新代表に近藤まり子氏が就任し新たなスタートを切る。広告代理店ともコンサルティング会社とも異なる形で企業と関わるI&COの5年間と今後の展開について聞いた。

ニューヨーク、東京、シンガポールで企業の課題と向き合う

――東京オフィス設立から5年。I&COの変化について教えていただけますでしょうか。

 2016年にレイ・イナモトがニューヨークオフィスを設立し、3年後となる2019年に東京オフィスを立ち上げました。当時、広告代理店に頼むとキャンペーン案が上がってきて、コンサルティングファームにお願いすると戦略資料のようなものが出てくる。このどちらに依頼してもほしい答えが得られないと感じている企業の課題感に対し、上流からアウトプットまで解決できるような会社を作りたかったというのが立ち上げの背景です。

 設立から5年経ちましたが、会社として設立時の思いは変わっていません。ありがたいことにクライアント数は増えてきまして、徐々に影響力が出せるようになってきたと感じています。

 ニューヨーク、東京に加え、シンガポールにもオフィスを構えていますので、グローバルに対応できるようになったことも変化の1つだと思っています。

――拠点ごとに企業が抱える課題に違いはありますか。

 どういう企業かに寄るところもありますが、シンガポールはやはりスタートアップの勢いがすごい。アジア全体のスタートアップの挑戦拠点のようになっていますから、0から1の部分をどう作るか、海外にどう展開していくかという課題感があるかなと思っています。

 一方、ニューヨークはそれこそ多種多様な企業がありますので一概には言えませんが、米国ならではの景気の問題やビジネスの変動も激しいので、それをどう乗り越えていくのかなどがポイントになっていますね。加えてカルチャーも多様なので、アプローチの仕方に迷われている企業は多いように感じます。

 日本においては、長く続いている企業が多く、それ自体は素晴らしいことです。その分、ルールや慣習、やり方が固定化されていて、それにより課題が出てくるように感じます。

 例えば、製造業では、良い物を作ることに長けていても、ユーザーがブランドを横断して体験できるような仕組みが作りづらかったり、販売の裏側にあるデータの持ち方が効果的でなかったりと、本業の製造という柱はしっかりしていますが、それとユーザーやその周辺をつなげるという知見が社内に少ないように感じます。本当にいいものを持っていらっしゃる企業はたくさんあって、宝石の原石のように感じています。今の時代に合わせてどこをどう磨くのかという発見が必要なのではないかと思っています。

広告代理店でもコンサルティングでもない提案をする

――日本企業が抱える課題、どんな相談が多いですか。

 最初は曖昧な、もやっとした課題から始まることが多いですね。今後数年を見据えてユーザーとどう関係性を作っていくか、自分たちの存在意義は何かなど、大きな課題からお話いただくことが多いです

 そこから、ほかの角度から見るとこういう問題なのではなど、課題をひもといていって、問題提起をした上で、具体案をあわせてお持ちするという流れを通常踏んでいます。コンサルティングファームによる戦略と、広告代理店やデザインファームによる実装を一つのプロジェクトで実現するアプローチによって、実行までのスピードを上げられるのがI&COの特徴だと思っています。

――1つの案件にかなり時間がかかるイメージですが。

 期間はまちまちですね。短いとサービスの立ち上げまで8週間でやってほしいということもありますし、肝煎りのプロジェクトであれば、2年程度伴走させていただくこともあります。

――もやっとした課題を浮き彫りにするだけでもかなり大変そうです。最も時間を費やす部分は。

 もやっとしたもののひもときは確かに難しくて、課題を明確にするために意思決定権のある方とお話させていただいています。さらに、抽象論だけでお話してもなかなか前に進まないこともありますので、具体案を早い段階で示すことも重視しています。

 具体案は案件によってさまざまですが、例えばユニクロのアプリ「StyleHint」は、ユニクロの柳井さん(ユニクロ代表取締役会長の柳井正氏)がI&CO創業者のレイと話しをする中で「服は情報」とおっしゃったことが発端でした。

 「『服を情報として扱ったときの体験』はどういったものになるのか」から考え始めて、いくつかアイデアを具体案として持っていったのですが、その中に「スタイリングの検索エンジンを作る」というアイデアがあり、それがStyleHintに結びつきました。

 服は情報という大きな課題から、服が情報だとすれば、その情報をユーザーが組み合わせ、世界でどう楽しまれているのかが見られるプラットフォームがいいのではないか。そのプラットフォームはユーザーの手の中に収まるものがいいのではないかという考えです。

 最も時間を使うのは、抽象論をどう具体案にしていくかという部分ですね。やり方はいくつかあると思いますが、現状と何を変えるのかを明確にし、具体的な提案に「発見がある」という部分が大事だと思っています。論理を突き詰めていった先でどうするのか、世の中に新しい価値を与えられるのかは常に考えています。

多彩なメンバーが生み出す「ひらめき」を形にする

――課題解決と一言でいっても、いろいろなやり方があると思いますが、多くの課題に共通する注意点はありますか。

 中長期で意味があるかどうかは気をつけていますね。面白いことを短期的に取り組むアプローチはもちろんあって、力も強いですが、3年後にあるべき仕組みを作るというイメージで取り組んでいます。表現ではなくて仕組みになっているのも大事で、数年のスパンで価値が出て、クライアントの社内で自走していけるような形が理想ですね。

――I&COの方が手を離しても続けていける仕組みを作ると。

 例えば「レクサス」サイトのリデザインを担当させていただきましたが、車は新しい車種がでてきますよね。一車種だけに特化したデザインにしてしまうと、後続の車種でブレが出てくる。そうではなくて、担当のチームの皆さんが、最初のコンセプトのまま続けていけるよう引き渡しにも注意を払いました。

 指示書には目的や思想レベルの話から、実装時の細かなポイントや注意点なども含んでお渡しする。文書としてお渡しするだけではなく、担当チーム内の担当者が変更されても、きちんと受け継がれる形として残す。この部分は特にきめ細かく対応しています。もちろんプロジェクトが終わった後、ビジネスの都合で変わっていくところもあると思いますが、少なくとも数車種は続けていける仕組みを心がけていました。

――抽象論を具体案にしたり、大きな課題から小さな発見を見つけ出したり、I&COのスタッフの方に求められるレベルは高いですね。

 東京オフィスには20名程度のメンバーがいますが、ストラテジー、デザイン、エンゲージメントのプロジェクトマネジメント、カルチャーの4つのドメインがあります。

 それぞれの専門性からプロジェクトに応じてメンバーをアサインし、チームを組成しています。多岐に渡る企業の課題に向き合えるよう、I&COのスタッフは多様性を重視していて、全く同じバックグラウンドを持っている人はいないと思います。

――日本企業は今、新規事業の立ち上げ、オープンイノベーションの推進が進まないという課題を抱えているような気がします。I&COではこの辺りの課題感をどう捉えていらっしゃいますか。

 理由は2つあると考えて、1つはオープンの捉え方です。オープンイノベーションは、自社にないものを外に求めていく形で、アプローチ自体はもちろん有効だと思いますが、まずは自社ならではの資産を突き詰めていってもよいのかなと思います。1つの企業の中で、次のビジネスの柱を作りたいとなった時に、社内にある技術、ブランド、ネットワークといった資産を次の時代にどう使っていけばいいのかと考えると、その企業の良さが出てくると思いますし、続けられるものが出来上がると思います。

 もう1つは「形にしてみる」ということ。形にしてユーザーに使ってもらってみて、どのくらいできるのかを早く検証することが大事だなと思っています。新規事業は多産多死だと思うので、机上でアイデアを揉んでいるよりも早く世に出して、だめならだめ、それを良しとすることが健全な状態なのかなと。

片足を入れて、片足を出す、支援企業との付き合いはバランスが大事

――多種多様な企業な方とお付き合いがあると思います。うまく人間関係を築くコツはありますか。

 企業によって、組織体制や意思決定のプロセスなどさまざまなルールがありますよね。私たちはそこがわからない状態で飛び込んでいくので、社内のルールを早く飲み込むことが大事かなと。遠慮せずにすべてを共有いただくくらいの気持ちでいます。入り込むというのはすごく大事だなと思っていて、上辺だけでこちらがリードしてもなかなかうまく行きません。

 もう一つ気をつけているのは片足を(企業側に)入れて、片足を出した状態でいること。せっかく外部パートナーとして選んでいただいているので、外部から見た意見や提案は正直にお伝えさせていただくようにしています。このバランスは重要ですね。

――今後I&COとして、企業のどんな課題を伴走支援していきたいですか。

 I&COは答えのない状態から、何かしらの答えの仮説が見出してくることを得意としています。そしてそのアウトプットまでを作れる。それにより、ビジネスのスピードを上げられると思っています。

 ですから、すでに成功している事業の売上をあと10%伸ばしてほしい、広告の効率を上げたいという課題であれば、ほかの会社にお願いされたほうが良いかもしれません。

 ただ、答えのない課題から何かを作り出すことに関しては、壁打ちや実装の手前までのサポートなど、事業の状態や希望に応じて柔軟に対応させていただいています。

 この7月に新代表に就きましたが、I&COがやってきたことを大きく変えようとは思っておらず、5年間でできた知見や増えたメンバーの専門性を活用して、より多くの企業のお役に立ちたいと思っています。

 先ほど「3年後にあるべき仕組みを作る」と言いましたが、こうした仕組みが生まれれば、企業もユーザーもそして社会が良くなると思います。日々のプロジェクトのその状態を描きながら伴走していきたいと思っています。