ソニー・ホンダの「AFEELA」とセールスフォースのAIが示す、カスタマーサービスの未来像

AI要約

セールスフォース・ジャパンは、2024年6月11日と12日、AIイベント「Salesforce World Tour Tokyo 2024」を開催。本記事では、「Welcome to the AI Enterprise データがビジネス成長の未来を切り拓く」と題した基調講演の様子をお届けする。

基調講演では、AI企業への変革を進めるソニー・ホンダモビリティとふくおかフィナンシャルグループの取り組みや、同社が支援するAI企業への変革するための5つのステップなどが披露された。

ビジネスAIで重要なのは“信頼できるデータ”。セールスフォース・ジャパンの代表取締役会長 兼 社長である小出伸一氏は、「ビジネス向けAIで重要なのは、間違いなく“信頼できるデータ”」と強調する。

ソニー・ホンダの「AFEELA」とセールスフォースのAIが示す、カスタマーサービスの未来像

セールスフォース・ジャパンは、2024年6月11日と12日、AIイベント「Salesforce World Tour Tokyo 2024」を開催。本記事では、「Welcome to the AI Enterprise データがビジネス成長の未来を切り拓く」と題した基調講演の様子をお届けする。

 セールスフォース・ジャパンは、2024年6月11日と12日、AIイベント「Salesforce World Tour Tokyo 2024」を開催、2日間にわたり多数の講演やワークショップなどが展開された。

 

 本記事では、「Welcome to the AI Enterprise データがビジネス成長の未来を切り拓く」と題した基調講演の様子をお届けする。同講演では、AI企業への変革を進めるソニー・ホンダモビリティとふくおかフィナンシャルグループの取り組みや、同社が支援するAI企業への変革するための5つのステップなどが披露された。

 

ビジネスAIで重要なのは“信頼できるデータ”

 セールスフォースは創業以来、「CRMをベースに新しいカタチで顧客とつながる」というビジョンのもと、日本を含むグローバルのマーケットで、地位を確立してきた。同社が現在、“新しいカタチのつながり”として注力するのがAIである。マッキンゼー・アンド・カンパニーの調査では、75%の経営者が、AIの最も価値を発揮できる領域は「顧客接点」だと考えているという。

 

 ビジネスにAIを適用していく際に、何が重要になるのだろうか。セールスフォース・ジャパンの代表取締役会長 兼 社長である小出伸一氏は、「ビジネス向けAIで重要なのは、間違いなく“信頼できるデータ”」と強調する。企業内のビジネスデータを正しくAIに与えることで、日々の業務の中で使えて、顧客とのつながりを築ける、真のビジネス向けAIになる。

 

 

 基調講演では、企業内のデータをセールスフォースのプラットフォームで統合し、AI企業への変革を進めるユーザー企業が登壇した。ソニー・ホンダモビリティとふくおかフィナンシャルグループの描く、未来のカスタマーサービスについて紹介する。

 

「AFEELA」と「Enstein」が示すカスタマーサービスの未来像

 まずは、ソニー・ホンダモビリティの「AFEELA(アフィーラ)」におけるカスタマーサービスの未来像だ。同社は、高付加価値の電気自動車(EV)とモビリティサービスを展開するために、ソニーグループと本田技研工業の折半出資で設立された合弁会社である。

 

 AFEELAは、2023年1月に同社初の自動車ブランドとして発表された。今後、2025年の受注開始、2026年の北米・日本での納車開始を予定している。同社はAFEELAを通じて新たなモビリティ体験の創出を目指しており、そのためにセンシングやAIなどの最先端技術を活用する。生成AIにおいてはマイクロソフトと連携し、対話型パーソナルエージェントの開発を進めるほか、セールスフォースともカスタマーサービス領域におけるパートナーシップを結んだ。

 

 ここからは、セールスフォースのAI「Enstein」を活用した、新たな顧客体験のデモンストレーションを紹介する。

 

 セールスフォースの顧客データプラットフォーム(CDP)である「Data Cloud」に、ソニー・ホンダモビリティの持つモビリティや顧客データをつなげることで、セールスフォースの各アプリケーションを通して、車を売って終わりではない、ドライバーに最適化された顧客体験を届けることができる。

 

 自動車業界向けのCRMである「Automotive Cloud」では、ドライバーの所有する車の情報からオンラインの行動履歴、車のこだわりや趣味までを可視化して、パーソナライズされたサポートや提案、販売などが可能になる。

 

 カスタマーサポート側では、カスタマーサービス向けの生成AI「Einstein for Service」が、ドライバーの過去の車の利用状況を反映した問い合わせの返信を生成してくれたり、ドライバーの趣味を加味したプロモーションの提案をしてくれたりと、オペレーターが気づけないような最適なサポートを導き出してくれる。

 

 ロードアシスタントや車のメンテナンス・修理においても、AIのメリットを享受できるという。例えば、運転中にタイヤがパンクしそうになった際、ドライバーが気づく前にAIが事前検知し、対応を先回りする。AFEELAから空気圧低下のアラートを受け取ると、関係者へ修理に必要なアクションが自動で割り当てる。車の状態や保険情報、修理センターの空き情報などもリアルタイムに相互共有され、ドライバーは適切なタイミングでサポートを受けられる。

 

 修理センターのスタッフも、フィールドサービス向けの「Salesforce Field Service」を通じて、生成AIが要約した故障の状況や修理のためのアクション、保険の適用情報などを受け取れる。作業レポートを生成AIに丸投げすることも可能だ。

 

 基調講演に登壇した、ソニー・ホンダモビリティの代表取締役会長 兼 CEOである水野泰秀氏は、「我々は、人を動かす移動のトランスポーテーションだけではなく、人の気持ちまで動かしたい。人の気持ちを動かすには、安心安全のハードウェアだけではなく、ソフトウェアの進化も大事になる」と語る。

 

 セールスフォースとのパートナーシップに関しては、「我々のビジネスは、米国と日本が中心となり、“Direct to Consumer”で顧客に寄り添うサービスを展開していく。グローバル展開しており、多言語対応できるセールスフォースが、まさに求めていたパートナーだった」と説明した。

 

AIが事業者に寄り添う、地域密着型のバンキングサービスの未来像

 AI企業への変革を進めるもう1社が、約150年にわたって地域と共に成長を続けているふくおかフィナンシャルグループだ。グループ全体での全方位型のデジタル変革のために、セールスフォースのプラットフォームを採用。今後目指す、データ・AIを活用した地域密着型のバンキングサービスの未来が披露された。

 

 同グループ内のさまざまなデータを、セールスフォースのData Cloudに集約することで、業務効率化だけではなく、顧客の関心やAI分析に基づいたデジタルマーケティングを展開できるようになっていく。

 

 例えば、ふくおかフィナンシャルグループは、地域の事業者向けに、デジタル通帳やオンライン手続、経営診断を提供する「BIZSHIP」というポータルを展開している。この経営診断の情報も、Data Cloudにつながり、CRMや勘定系データ、外部データと関連付ることができる。

 

 経営診断のデータを、BIツール「Tableau」の生成AI機能である「Tableau Pulse」で分析。事業者の経営状況が悪い場合には、生成AIに何が要因と思われるか、自然言語で質問することができる。金融業界向けのCRMである「Financial Services Cloud」では、対話型AIの「Einstein Copilot」を用いて、事業者の情報や折衝履歴を要約してもらい、事業改善の提案のためのヒントを探ることができる。

 

 事業者に提案が通った後も、生成AIが、過去の折衝や取引の情報を参照しながら、稟議書のドラフトを作成してくれる。融資支援システムとAPI連携することで、審査から承認までの稟議プロセスを自動化することも可能だ。

 

 販促活動も、Einstein Copilotで効率化できる。例えば、スマートハウスにおける顧客セグメントの作成を依頼すると、将来の年収予測や環境への関心度などを考慮して、購入ニーズがありそうな顧客を絞り込んでくれる。抽出したセグメントに対しては、プッシュ通知でキャンペーンを展開。購入段階においても、申込から審査、契約手続きまでのプロセスを、オンラインで完結できる。

 

 ふくおかフィナンシャルグループの取締役社長である五島久氏は、「我々は銀行として、常に地域に寄り添う、向き合うことを続けている。大事なのは、デジタルと人の掛け合わせであり、これからはデジタルとAIが人の力を生み出すと考えている」と説明。

 

 今回のセールスフォースの採用については、「攻めと守りの機能が充実している」ことが決め手になったという。攻めの面では、グループ間に散在するデータを集約して、業務効率化や幅広い解決ソリューションに利用できること。守りの面では、銀行において重要な信用・信頼のために、高いセキュリティレベルを担保できることなどが挙げられた。

 

AI企業に変革するための5つのステップ

 基調講演では、セールスフォースが支援する、AI企業に変革するための“5つのステップ”についても説明された。

 

 ひとつ目のステップが、「Customer 360の構築」だ。Customer 360は、営業やサービス、マーケティング、コマース、Slack、Tableauなど、同社のアプリケーションを統合し、あらゆるタッチポイントをつなぐ単一のプラットフォームである。同社は、この各アプリケーションに対して生成AI機能の統合を進めている。

 

 この生成AI機能を支えるのが「Einstein 1 Platform」である。信頼性を確保した上で、各社のLLM(大規模言語モデル)にオープンで対応、各アプリケーションでの生成AI活用を実現する。今後、NTTのtsuzumiやNECのcotomiなど、国産LLMとも連携を強化していく予定だ。

 

 2つ目のステップは、「企業内データの統合」だ。Einstein 1 Platformに組み込まれた顧客データプラットフォーム(CDP)「Data Cloud」は、Customer 360の各アプリケーションやデータレイク、データウェアハウスなどに存在する、あらゆるビジネスデータを集約。これらのデータを、生成AI機能におけるグラウンディング(生成AIに根拠づけとして特定の知識や情報を与えること)として反映する。

 

 基調講演では、レガシーシステムも含む、他社のシステム内のデータをData Cloudに接続するための「Data Cloud Connectors」の200以上の拡張や、Data Cloudとの「ゼロコピー」でのデータ統合をサポートするエコシステム「Zero Copy Partner Network」など、Data Cloudの新たな強化についても紹介された。

 

 3つ目のステップは、「AIと働く環境の構築」だ。セールスフォースでは、各アプリケーション上でシームレスに生成AI機能を利用できる“組み込み型AI”だけではなく、“対話型AI”である「Einstein Copilot」も提供する。Einstein Copilotは今後、Customer 360のすべてのアプリケーションで実装され、自然言語を介した対話形式で、各部門の業務をサポートする。日本語対応のベータ版が、2024年10月に提供開始予定だ。

 

 生成AI機能を組み込んだSlack AIの提供が始まったSlackにおいても、CRMと連携してリアルタイムにアクションを行なえる「Copilot in Slack」が、2024年10月に日本語対応予定だ。

 

 4つ目のステップは「AIによるデータ分析」だ。誰でもデータの専門家になれるよう実装されるのが、BIツールであるTableauに生成AI機能が加わった「Tableau Pulse」だ。ビジネス上の重要な指標におけるインサイトを、メールやSlackなどで日々届けてくれる。2025年1月末までに日本語対応予定だ。

 

 また、データ分析に特化したEinstein Copilotである「Einstein Copilot for Tableau」は、2025年7月末までに日本語対応予定だ。対話型AIが、データの準備から可視化まで、データ活用に必要な作業をサポートしてくれる。

 

 最後のステップは、「信頼できるAIを実装」することだ。Einstein 1 Platformは、業務を効率化する自動化やAIアシスタントを構築することもできる。

 

 対話型AIのEinstein Copilotは、従来のフローによるアクションと自動化を組み合わせ、動的なアクションまでを実行できる。例えば、Einstein Copilotに、「同僚にウェルカムメッセージを送って」と指示すると、レコードやフローの中から最適なプランが立てられ、メッセージ内容を提案しつつ、代わりにSMS送信までしてくれる。このような仕組みは、ローコード・ノーコードで構築することが可能だ。

 

 生成AI機能をカスタマイズするためのツールキットである「Einstein 1 Studio」は、2024年3月より提供されている。プロンプトビルダーは、クリックするだけで呼び出せるプロンプトのテンプレートを作成できる機能だ。モデルビルダーは、独自にファインチューニングされた外部のAIモデルに接続できる。Einstein Copilotのアクションをカスタマイズできる「コパイロットビルダー」も、同サービスの日本語対応とあわせてベータ版が始まる予定だ。

 

 小出氏は、「全社をあげて、この5つのステップで企業のトランスフォーメーションを支援していく。そして重要なのは、AIを推進することで、経済圏に対しても大きな影響を与えられること。すべてのトレイルブレイザー(先駆者)の皆さまと、より良い社会の実現に向けて、AIトランスフォーメーションを加速していきたい」と締めくくった。

 

文● 福澤陽介/TECH.ASCII.jp