見て、聴いて楽しみ、考えさせられる表現力豊かな音楽劇『あらしのよるに』開幕!

AI要約

1994年の発刊以来、原作シリーズは全7作を数え、これまでもアニメーション映画、舞台、ミュージカル、歌舞伎と様々な形で親しまれてきた人気絵本シリーズを舞台化した音楽劇『あらしのよるに』が日生劇場で上演されている。

あらしのよるには、オオカミのガブとヤギのメイが出会い、種族の壁を越えた友情を育んでいくストーリーであり、2匹のやり取りや絆が心を揺さぶる。

作品は表現力豊かであり、キャストの演技力や音楽、ダンスも魅力的で、友情や差別といったテーマを深く考えさせる内容となっている。

見て、聴いて楽しみ、考えさせられる表現力豊かな音楽劇『あらしのよるに』開幕!

きむらゆういち作の人気絵本シリーズを舞台化した音楽劇『あらしのよるに』が8月24日、25日の2日間にわたり「日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2024」の中の一作として日生劇場にて上演されている。開幕前日の23日に行われたゲネプロの模様が報道陣・関係者に公開された。

1994年の発刊以来、原作シリーズは全7作を数え、これまでもアニメーション映画、舞台、ミュージカル、歌舞伎と様々な形で親しまれてきた本作。「日生劇場ファミリーフェスティヴァル」にて音楽劇として上演されるのは2019年、21年に続き3回目となる。

あらしのよるに、真っ暗な洞窟で互いの姿が見えぬままに出会い、意気投合したオオカミのガブ(白石隼也)とヤギのメイ(南野巴那)。その後、互いの正体を知るも、似たもの同士の境遇に惹かれ、2匹は種族の壁を越えて、友情を育んでいく。だが、それぞれが属するオオカミの群れ、ヤギの群れの仲間たちはそんな彼らを許さず……。

舞台全体を通して、驚かされるのは、表現力の豊かさ。ガブとメイの会話を中心にしたセリフのやり取りなど、ごくシンプルではあるが、ディティールまでしっかりと工夫された会話のやり取り、動きによって、ガブやメイの喜怒哀楽や苦悩、2匹の間で育まれていく強い絆や信頼関係がしっかりと伝わり、観る者の心を揺さぶる。

南野は、高い身体性とよく通るキュートな声で、好奇心旺盛で勇気も持ち合わせたメイをエネルギッシュに演じ、白石もさすがの演技力・表現力でちょっぴりとぼけた、しかし優しく包容力のあるガブを見せてくれる。全編を通して2匹のやり取りは魅力的だが、特に群れの中で仲間たちと暮らしながらも、実は心の内に孤独を抱えた2匹が、互いに本音を打ち明けるシーンは、クライマックスの吹雪のシーンと並び、涙を誘う。

天真爛漫に見えて、実は「つらい時こそ明るく」いることを心がけているというメイ。一方、群れの中での“序列”が徹底されているオオカミの世界で生きるには、あまりに優しすぎるガブ。そんな彼らの苦悩が、コミュニティの中で上手にふるまい、生きていかざるを得ないという多くの現代人の心に刺さり、群れから排除され、理想の世界を目指して旅立つ2匹を心の底から応援したくなる。

「種族や属性を超えた友情は成り立つのか?」――。時折、メイのことを「おいしそう」と感じつつも、理性と優しさでそんな気持ちを必死に否定するガブと疑心暗鬼に陥りつつも、ガブのことを信じるメイの姿を通して、シンプルだが、いまもなお世界を悩ませ、苦しめる根深い問題について、子どもも大人も考えさせられる。

メイとガブを取り巻くヤギやオオカミたちを演じる共演陣と彼らの歌とダンス、そして音楽も最高に魅力的。特に、メイとガブが、自分が属する群れの仲間たちに問い詰められ、“秘密の友達”の存在を白状するシーンで、それぞれの群れのヤギたち、オオカミたちが驚きや狼狽、怒りなどを表現する歌とダンスは見応えたっぷり! 音楽はトランペット、クラリネット、パーカッション、アコーディオン、サックスを中心にわずか5人の奏者によるものだが、その時々のトーンや心情やテンションによって、ジャンルを飛び越えた独特のメロディが奏でられ、その音楽に乗せたセリフも心地よく観る者に届く。

また、雨や風、吹雪といった天候も、俳優陣のダンスによって巧みに表現されるなど、休憩を含めて約2時間の作品の中に、舞台ならではの表現の豊かさ、楽しさが目いっぱい詰め込まれたエンターテインメントになっている。

取材・文:黒豆直樹

舞台写真撮影:曳野若菜/提供:公益財団法人ニッセイ文化振興財団[日生劇場]

<公演情報>

日生劇場ファミリーフェスティヴァル 2024

音楽劇『あらしのよるに』

日程:2024年8月24日(土)・25日(日)

会場:東京・日生劇場