『マウンテンドクター』杉野遥亮“歩”が乗り越えたMMT最大の危機 チームの絆がきっかけに

AI要約

宇田の死によりMMTは存続の危機に直面し、患者診断に自責の念を感じる歩が一時的に山岳医療から離れる。

MMTの危機を招いた確証バイアスや患者の死はチームの士気を低下させ、国際山岳医の離脱も存続を揺さぶる。

歩は翔を失った経験から市朗との確執が生じ、市朗の行方不明とMMTの未来への不安が彼に影響を及ぼす。

『マウンテンドクター』杉野遥亮“歩”が乗り越えたMMT最大の危機 チームの絆がきっかけに

 『マウンテンドクター』(カンテレ・フジテレビ系)第6話で、主人公・歩(杉野遥亮)が所属するMMTは存続の危機を乗り越えて、真のチームとしての一歩を踏み出した。

 宇田(螢雪次朗)を死なせてしまったことで歩は自責の念に駆られ、他の患者に対しても過剰なまでに慎重な診断を行うようになる。それはまるで第二の犠牲者が出ることを恐れているかのようだった。その様子を目にした院長の周子(檀れい)は歩にしばらくの間、山岳医療から離れるように命じた。

 歩が陥ったのは江森(大森南朋)が言うところの確証バイアスで、回復の途上にある患者の気持ちに寄り添おうとしたことが盲点になった。患者の死は、寄せ集めチームのMMTにとって痛手だった。MMTのメンバーは別の診療科を専門にしており、士気の低下は目に見えて明らかだった。追い打ちをかけるように、県職員の純家(松尾諭)がレスキューヘリ認可の可能性を否定した。

 ささいなことから父・市朗(遠山俊也)と言い合いになってしまった歩は、兄・翔(時任勇気)がすでに亡くなっていることを突き付ける。認知症をわずらう市朗はその事実を認めようとせず歩と険悪なムードに。さらに市朗は家を抜け出して行方がわからなくなった。

 発足以来、順調に実績を重ねていたMMTにとって宇田の死はダメージが大きかった。「山岳医療の未来を変える」というふれこみで発足したMMTは、より多くの命を救える医療モデルになるはずだった。けれども現実は厳しかった。山での死亡事故ゼロという目標は早くも挫折し、国際山岳医である歩が離脱したことで存続があやぶまれた。危機を救ったのはリーダーの小宮山(八嶋智人)たちだった。

 歩にとっても、翔に続いて親しい人間を山でなくすことになった。歩自身が兄の死を乗り越えて山岳医療の現場を志しただけに、命を救えなかったことは医師としてのアイデンティティを根底から揺るがすものだったことは容易に想像できる。

 歩と仲間たちは逆境を克服したが、それぞれが自分に足りない部分を自覚し、仲間への信頼を表明する姿は、ドラマの作りとしてはオーソドックスなものである。小宮山や掛川(近藤公園)は救命救急や循環器内科が専門で、自分たちの役割を果たすことができなかったと反省する。歩と幼なじみの典子(岡崎紗絵)は、あえて叱咤激励することで歩を連れ戻そうとする。普段表に出ないそれぞれの人間性がいざという時にあらわになった。

 歩が宇田の死を乗り越える上で、市朗を救うことは直接的なトリガーになっている。また、歩の心を救ったのは亡き宇田の言葉だった。実際に郵便ポストが設置されている山小屋もあり、劇中に設定が生かされていた。患者を目の前にしたとき、歩にとって救わないという選択肢はなく、小宮山の一言によって医師としての使命に立ち返るのだが、険しい表情は挑むべき対象を見定めた医療者の目で、『マウンテンドクター』が歩の成長物語であることを示していた。

 周子の視点を通してMMTの存在意義を再三にわたって問いかけた第6話は、この国の山岳医療を取り巻く状況について考えさせるものだった。多発する遭難のニュースを見るにつけて、山岳医療のプロフェッショナルが今ほど必要とされている時はない。それでも医療費の逼迫を含む諸般の都合で、整備が行きとどいていないのではとの危惧を抱かざるを得ない。最前線にあって命と向き合う医療従事者の努力に報いる意味でも、必要な整備が行われることを切に願う。