『虎に翼』伊藤沙莉演じる寅子は稀代の“惚れさせ屋” 不器用ながら重ねてきた恋愛

AI要約

寅子は恋愛下手だが、稀代の"惚れさせ屋"でもあり、恋に関わる人々の心を動かす存在である。

優三との結婚を経て航一との恋愛を通じて、自分の心の動きを理解し成長していく寅子の姿が描かれる。

寅子は新たなステージに進み、さらにパワフルに活躍する姿が期待されている。

『虎に翼』伊藤沙莉演じる寅子は稀代の“惚れさせ屋” 不器用ながら重ねてきた恋愛

 恋愛というのは男女問わず、その人の人生に大きな影響を与える。しかも、相手のことが“好きだ”と思えば思うほど、胸が高鳴って会いたくなって抱きしめたくなって、自分の心と体なのにうまくコントロールができなくなってしまう。切ないけどどこか満たされていて、なのに自分が自分でない感覚もあり常にふわふわ。NHK連続テレビ小説『虎に翼』の寅子(伊藤沙莉)の最近がこんな感じだったとしたら、何事も白黒はっきりさせる彼女にとってはもどかしい日々だっただろう。

 寅子は自他共に認める恋愛下手。女学校では周囲が花嫁修行に励み、嫁ぎ先を探している間、寅子は自分が熱中できるもの、興味をそそられるものを追求し続け、法律に出会った。名律大学時代は、ある意味でその法律との“蜜月”期間。勉強に夢中の寅子の心が色恋に染まることはなかった。そんな時期を寅子本人も「恋愛は二の次、三の次だった」と振り返っているし、友人として近くにいた涼子(桜井ユキ)も寅子について「恋愛ごとの機微のようなことに無頓着です」と言っていた。

 一方で寅子は稀代の“惚れさせ屋”でもある。大学時代、編入してきた女子部と男子学生たちの交流を深めようと行ったハイキングで寅子と口喧嘩の末、崖から落ちて大怪我をしてしまった花岡(岩田剛典)は、その後、寅子の事ばかり考えてしまうようになる。寅子より先に高等試験に合格し、修習生となった花岡はことあるごとに寅子をランチに誘いアプローチ。次第に寅子もほのかに恋心を抱くようになるが、結局、花岡は彼女の心にあった“夢だった弁護士になれていない”という強い思いを突き動かすことができなかった。でも花岡はそんな寅子の一本気な性格が、好きなところのひとつだったはずだ。

 寅子の最初の夫となった優三(仲野太賀)は、寅子の家に書生として居候していた時から寅子のことを想っていた。長い恋になるとその恋を自覚した明確なきっかけというのはないのかもしれないが、緊張するとお腹が痛くなってしまう優三に寅子が「そんな時はこれを思い出して」と変顔してみせた瞬間は、きっと何度目かのキュンポイントだったに違いない。こんな寅子の飾らない性格は、長く一緒にいればいるほど惹かれる長所だ。

 航一(岡田将生)は寅子への好意を、一緒にいると自分の心の蓋がつい外れてしまうと表現した。航一は誰にでも公平であろうとする真面目な裁判官としての寅子も、他者との溝を少しでも埋めたい寅子もそばで見てきた。航一は寅子のそういう側面も好きなようだが、さらに彼を惚れさせたのは、寅子の無邪気さや素直さではないだろうか。航一の父・星朋彦(平田満)の本の改稿作業の終盤、「今日でお手伝いも終わりでしょ? なんだかとても寂しくて」と寅子が言った時も、ふと本所の近くにお気に入りの店があることを話し、寅子が「誘ってくださるの!? 嬉しいわぁ」と喜んだ時も、航一は少しハッとして照れくさいような表情を見せた。あたかも「航一さんと一緒にいられて嬉しい」と言っているかのような寅子の言葉や態度はかわいらしかった。それが航一には刺さったのだろう。

 寅子も誰かを惚れさせるたび、自分の心の動きを理解するようになっていった。花岡からは愛されることのむず痒さと温かさを学び、優三との日々は、誰かを愛し愛される幸せを実感できた。だからこそ、互いに愛する子供と亡きパートナーがいた航一との恋は、寅子にとって惹かれる気持ちとは別にブレーキがかかる部分があり、ちょっとぎこちなくなってしまったと考えられる。そんな寅子の気持ちを汲んで「永遠を誓わない、だらしがない愛」を提案し、「ドキドキする今の気持ちを大事にしても罰は当たらない」と説得する航一の言葉には寅子の心のつっかえを取り去るような力もあった。クールな顔をしている航一の内側にある大きな愛情に驚きさえ感じてしまう。

 揺れ動きやすく、間違えやすい寅子に大きな支えが増えた。優未との関係も改善し、裁判官としての経験も積んだ寅子は、ついに再び東京へ。さらにパワフルになった寅子の活躍に期待していきたい。